第2話

 私は毎日働いてきた。生きがいではない。毒虫が定時に帰れば腰を据えて残業できる。毒虫の怒りが有頂天に達したとき、大抵は8時間残業になる。そして、誰もいなくなったとき、コンビニでビールを買って酔っ払いながら仕事をするのが楽しい。仕事は関係ないがこのひとときが充実している。脳死で仕事ができるからいいのだ。


 あるとき、労働基準監督署の署員が怒鳴り込んできた。これは対応した社員からの又聞きだが、どうやら私が有給休暇している最中にタイムカードがきっちり定時まで切ってあることに激怒しているらしい。メロスでも冷静になるぐらいキレていたそうなので、タイムカードの原簿と記録しているファイルの突き合わせ、従業員への聞き込みがあり、業務がてんやわんやに陥った。

 役員は素知らぬ顔で労基の定期監査と周知していて、この会社は悪意のデパートと化している。

 私に聞くまでもなく、タイムカードの原簿と提出した書類の改竄が明るみになった。原簿クリソツに作ったものを原簿として提出したらしい。そりゃ食い違わないわけだ。

 運命のかけ違いは私の有給休暇にあった。勝手に有給申請していたのをうっかり忘れていたらしく、コピーの方で出勤していたままになっていたらしい。誰かが気がつくものだと思ったがそうはならなかった。そうはならんやろ。

 労基の署員と面談することになったが、私のスマートウォッチが確実な勤務記録になるらしく、ヘルスケアアプリをひたすらスクショしてエクセルに貼り付ける手間が生じた。勤務記録の日記も付けていたので、それも大いに参考になったらしい。


 しばらくして目眩がするようなお金が会社から振り込まれた。

 会社を辞めるかどうか考えたが、考えるより前に毒虫が暴れていたのでそれどころではなかった。労基に怒られても業務改善する気はないらしい。

 深夜になって家に帰り、風呂に入りながら考えた。私のキャリアでは脳死で仕事ができる。毒虫さえいなければもっと早くに帰れる。

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