11話
ふふって笑いがら、
綺麗な綺麗な、不気味な杖。
杖化け物の、杖。
こんなの触れたら恐ろしい目に合うって。
発狂するって。
命の危機に瀕するって。
普通のひとは思うだろう。
杖化け物の杖だなんて、盗もうなんてどうにかしようなんて、余程の事じゃない限りしないさ。
でも、翔颯は杖化け物が怖くない。
恐ろしくない。
気味悪くもない。
むしろ会ってみたかった。
うんそう会いたい。
今夜が最後だって言うなら明日居ないと言うなら。
会いたい。
だから行動しないと、って思った。
そして杖を手にしていた。
杖を持ってくという口実を作って行動した。
可笑しい事をしている自覚はある。
こんなのまともじゃない。
でもどうせ帰っても独り。
学校でも独り。
バイト先でも独り。
何があっても、独り。
なんとなくどことなく、これからもずっと独りなんだと思っていた。
隔絶、隔たり、分かり合えない、独りだと。
だから、杖化け物と出会えた事がすごくすごく楽しかったんだ。
親身ってこういう事を言うのだと知ったんだ。
会話が楽しいってはじめてだったんだ。
だからこの後届けた杖で打ち据えられても良い。
そう割り切れるくらい翔颯は独りだった。
だから突き進む。
杖を持って杖化け物の元へと。
明かりが少ない路地を進む。
けれど手元の杖の小さな太陽が明るくて、むしろ大層足元が周囲が明るく見えた。
そのお陰ですぐ川岸へ降りる階段を確認することができた。
翔颯は少し小走りにそこへ駆け寄った。
リュックの中で水筒が揺れたが些細な事。
降りるための階段は手摺と同じ高さの扉が付いていた。
よく見ると南京錠が掛かってた。
だが所詮は手すりと同じ高さだ。
翔颯は足を掛け扉を乗り越える。
杖を手すりにガツンガツンぶつけてしまった。
多分バレているだろうから、ちゃんと謝ろう。
傷とか付けてたらやっぱり怒られるだろうか。
杖化け物と言われるだけあって、杖に思い入れが強いとかなんとか聞いた事がある。
命だと言っていたからやっぱり怒られるかな。
なんてまあ翔颯は呑気に思考しながら、階段を下り川岸に到着した。
川岸は整備されたて、コンクリートがフラット真っ平。
水よここを流れなさいと抑止力、小さな溝が濡れている程度だ。
最近増えた線状降水帯などの大雨が発生し河川が増水した時、その増水した水を放水する河川なのだが、そんな事知らない翔颯には川と橋の工事が何処にあったのかと思わせた。
そんなからっからの川底を翔颯は杖で足元照らしながら、先ほどの橋の下に向かった。
辿り着いた暗渠、橋の下の穴は、酷く真黒だった。
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