23話

杖化け物がにこり、微笑むから背中がお腹が燃えるように熱くなる。

見てらんない、と翔颯かけはやては視線を彷徨わせてしまった。


「其よ此方を見ておくれ」


けれど、杖化け物が翔颯に命じた。

いや、求められた。

翔颯は杖化け物の声が好きだったし、求められたら応えたい。

そろり、視線を合わせる。

綺麗な金の双眸が、翔颯を見つめてた。

でも真顔だった。

感情が無い訳ではない、だって優しいは変わらない。

そして整い過ぎて妖しささえ漂っているのだが、翔颯は真顔格好良い好き。

見惚れる翔颯へ、杖化け物から、


「しきたりにより其を番とし迎えにまいった」


先程と同じ言葉が告げられる。

でも温度が、感情が、違うのが、杖化け物から滲み出ている。

翔颯は熱に浮かされまいと、必死で傾聴耳を傾けた。


「此度の番は確かに未熟。然して此方の心はすでに奪われ、其の心は此方の物」


「うぇ、ぃ、うっ、うんっ」


杖化け物の手の平が翔颯の右頬を包み込む。

自分の体温の高さをほんのり冷たい手の平で思い知る。

頬をすりすり親指でなぞられ、翔颯の頭が真っ白になる。

すごく恥ずかしい、すごくくすぐったい。

うひゃーって飛び上がりたい。

けれど真剣な眼差し注がれて、身体が緊張して動かない。

視線反らしたい、駄目、見つめてたい。

そんな色んな極論に挟まれ混乱する翔颯を、杖化け物は泰然と見下ろし口元緩ませる。


「よって此度の番の儀を成立とす。此方はそれに同意する」


自分でもよく分からない声漏らしてしまう。

翔颯は変な声漏らしてしまう。

杖化け物の笑みが深まる。

あな恐ろしや人外の笑み。

普通はそう。

翔颯には極上の、ご褒美。

耳の後ろで心音が聞こえる。

高まり過ぎて呼吸が上手に出来ないよ。

大丈夫だよと杖化け物、背中を優しくトントン。


しながら翔颯に告げた。


「此方の番と成れ」


先ほどと違う。

全然違う。

同意を求められている。

同意以外認めないと、情熱的に無言の圧。

優しい方向で強制的だ。

でも望むところだ。

本当に、望んでた。

嬉しくて涙も滲む。

そんな眦を杖化け物の親指が拭く。

ああ、こんな、どうしたら。

翔颯は夢見心地。

夢だったらいやだと。


「なるぅ…にーさんの、つがい、なる…」


しまりのない笑みを浮かべながら、杖化け物の腰に抱きついてしまった。

夢じゃない。

固い。

しっかりしてる。

いいにおい。

スーツすべすべ。

どうしよ、すごい、すきだ。


はじめて思う存分甘えてよい相手に甘えられるから、翔颯は加減が分からなかった。

だから杖化け物なのに、その御身体力一杯抱き締めて、ぐりぐり顔を御腹に擦り付けるという命知らず。

杖化け物が大好きだと。


けれど杖化け物は誰が見ても愛しいと思っている笑みを浮かべ、翔颯をふんわり抱き締めるのだった。

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