第34話.二人きりの時間

セシリアがフィリップとセバスティアンに連れられて、このイルモニカにあるルーフ・カールにやって来てちょうど20日が経とうとしていた。


セバスティアンは、イルモニカの最後の試験まで僅かだった為に近場の職場である大工の手伝いを減らして、その試験の為の準備を始めていた。


フィリップもルーフ・カールから数キロ先にある、モルテット魔法学院に入学届けを出して無事にその入学が認められ、学院に必用な用具等をセシリアとともに買いに出かけ、店の売り場であれこれと指差し楽しんでいた。


そのセシリアにしても、フィリップとセバスティアンから紹介(?)されたスコルビの薦めで歩いて20分ほどの場所にあるスコルビとその妻ケールが営む理髪店で見習いとして働き始めている。


この20日間でセシリアは、今までの生活が嘘と思えるほど変化し、毎日の空気や色に感動しては、


その生活から溢れる喜び等を楽しんでいたのだった。


..だからと言って、この20日間でもう聞かなくなった名前たちと完全に縁が切れた訳では決して無いのだ。


そして、


この世の中は、そういった事を


運命と呼ぶのだ...


───


セシリアが午後15時過ぎにスコルビの店から帰って来たところに...


セシリア「.....おっ?! ロウェル...


散歩からのお帰りかい?


どうだ楽しかったか?


フィルが乗ってるから重くなかったかい?」


フィル「失礼だな..


僕は、そんなに重くないよ?


それにロウェルの主は、この僕だって事を忘れないでよ?」


セシリア「そうだったな..


なあロウェル?


その主が重くなったら、

何時でも、この私に鳴けよ?


フィルの代わりにこの私が主になってやるからな?」


フィル「そうはさせるもんか!


ロウェルの主は何時だって、


この僕だよ?」


セシリア「はいはい、分かったよ?


最初にロウェルに気に入られたのは、お前だったからな?」


フィル「へへ...


ところでセシリアもさっき帰って来たばかりなの?」


セシリア「えっ、ああ..そうだよ?


スコルビおじさんが今日は早く帰っていいってさ?」


フィル「特別いい事でもあったの?」


セシリア「..クックック..それがよ?」


そのタイミングでセバスティアンも2人の元に戻って来る。


セビィ「..セシリアも帰ってたのか?


どうした..2人揃って立ち話なんかして?」


セシリア「何だよセビィ? お前まで登場かよ?」


セビィ「邪魔したか?」


セシリア「いいや? ..その逆だよ逆?」


フィル「ふふ、どうやらセシリアにいい事があったみたいだよ?」


セビィ「いい事? で、


どんな事なんだ、セシリア?」


セシリア「うん!...これを..見ろよ?」


セシリアがスカートの右ポケットから降り曲がった封筒を取り出し、胸元に持っていきセバスティアンとフィリップに見せつけるように見せる。


フィル「何だい..その封筒?」


セシリア「何だよ? 分かんねぇか..


この中身だよ?」


セビィ「中身に何が入ってるんだ?」


セシリア「もーう! 疎いなぁ..


お前等は? これに決まってんだろ!」


フィル「あっ! お金だ?」


セシリアが封筒から引き出したのは、少し多いお小遣い程度のお金であった。


セビィ「..給料..にしては、貰うのが早すぎないか?

だってセシリア..まだ働き始めて4日だろ?」


セシリア「だから?

その給料じゃなくて? ..ボーナスだよ?」


フィル「ボーナスだって?」


セシリア「そうさ? この私が余りにも色々手伝ってしまうからさ?


スコルビおじさんとケールおばさんがこれじゃ割に合わないって言ってね?


このお金で少しは、美味いものや欲しい服でも買えってくれたのさ?」


セビィ「そうだったんだ...


セシリアもいい職場が見つかって良かったな?」


セシリア「お陰さまでな?」


フィル「やっぱりセシリアには向いてたんだね? 床屋さんにさ?」


セシリア「うん...正直..床屋としての腕はどうだか分からないけど?


その他の部屋の掃除だったり、庭の手入れだったりさ?


なんかそういう事で活躍してるんだよな..


この私は?」


フィル「はははは、便利屋さんだ?」


セシリア「そうそう? スコルビおじさんもケールおばさんもさ?


何て言っても..もう歳だからさ?


こんな健康で働き者の...


私がいると! ..助かるみたいなんだよ?」


セビィ「それは言えてる?」


体で力自慢をアピールするセシリアにセバスティアンもフィリップも納得の表情を浮かべる。


セシリア「でもさ? うんと動いた後に食うケールおばさんの昼飯が..


もーう美味しくてさ?


考えただけでも、明日の昼は何が出てくるのか楽しみで仕方無いよ?」


フィル「いいな? 僕も食べたいよ..」


セシリア「よし! フィル?


今度は、お前も昼になったらスコルビおじさんの店にやって来い?


ケールおばさんのごちそうを一緒に食おうぜ?


なあ?」


フィル「やったあ!」


セビィ「おいおい、フィル?」


セシリア「いいって? ケールおばさんも何時でもフィルとセビィも連れて来いって言ってたからさ?」


フィル「楽しみだぁぁ」


セシリア「そんな訳だから、2人とも今晩ごちそうするぜ?」


フィル「ほんとに?!」


セシリア「ああ..それに私の借金だって少しばかりは返させてもらうよ?


ほんの少しだけどな?」


セビィ「セシリア、それは?」


セシリア「いや返すよ?


何時までもあんた達の世話になりっぱなしってのもなんだし...


せめて借金の足しくらいは問題ないだろ?


ちょっとくらいは、私に返させてくれよ?」


セシリアは、そんな2人の気遣いをいつも気にしていた。


自分を助けてくれただけでなく、酒場ボルカに残した借金まで肩代わりしているのだから...


その為にセシリアは、1日でも早くこのイルモニカの街で仕事を見つけて、生活費の協力やその借金の返済を自身の手でしたいとずうっと考えていたのだ。


フィル「セシリア..」


セビィ「..うん、この前に...


セシリアを助け出した酒場の寝室に...


そうだな..


8000ギルドほど置いて来たけど..」


フィル「8000ギルドだって?!」


セシリア「..そんなに置いて来たのかよ?」


セビィ「..ああ、セシリアを連れて行く代わりに...


ちゃんと借金は返す意志がある事を書いた置き手紙も添えてね?


...だから、それだけの覚悟があるって事を伝える意味も込めて置いて来たのさ?」


フィル「それは、そうだけど...偉い大金だな...」


セシリア「...だったら尚更だよ!?


そこまでさせて於いて私は、自分の給料を好きに使ったんじゃバチが当たるよ!」


セビィ「セシリア? 何も俺たちは、


恩を着せようとした訳じゃ..」


セシリア「恩を着せようが着せまいが、


そんな事は問題じゃない?


そこまでしてくれたあんた達に...


何もしないなんて選択肢は、私には無いんだよ?


お願いだよ?!


あんた達の助けになる事を私にもさせてくれよ!


私の奢りを受け取ってくれよ?


なあ?!」


セビィ「いや..俺は別に..


折角のセシリアの..ボーナスとは言え..


給料をだな?」


フィル「それもそうだよね?


セシリアだって欲しい物とかあるでしょ?」


セシリア「欲しい物?


う~ん......無い!」


フィル「ほんとに?!」


セビィ「例えば..服とか?」


セシリア「服だって?


服なら今日、ケールおばさんに貰ったよ?


ほら..この着てる服だよ?」


そう言ってセシリアは両手を広げいつの時代か分からないセーターを見せるようにゆっくり回る。


セビィ「..セシリア? ..もしかして..


その服は..」


セシリア「ああ! そうだよ?


ケールおばさんが若い時に着てた服なんだって?」


フィル「セシリア...それは古過ぎるよ?」


セシリア「ええ...そうかな?


私は、気に入った?


でもケールおばさんって若い時は、 


相当細かったんだな?


私が着てもちょっとキツいなって思うもんね?」


セビィ「...なあフィル?


セシリアがそこまで言うんなら...


ごちそうになるか?」


セシリア「おっ? 乗ってきたな!


そうよ?! ..素直が1番だよ?


なあフィル? お前もごちそうになるだろう?」


フィル「...ううん、僕は遠慮しとくよ?」


セシリア「何だよフィル?


今日は、やけに素直じゃないなぁ?」


フィル「ううん! 違うよ?


素直じゃ無いんじゃなく?


2人だけで美味しい物を食べておいでって言ってるの?」


セビィ「フィル?」


フィリップは、最初は今夜のごちそうの件に喜んだが、頭にある事が浮かぶと直ぐにその喜びを打ち消し、首を横に振った。


セシリア「...何だよ? 2人も3人も一緒じゃんかよ?」


フィル「一緒じゃないよ?


ねぇ? セビィもセシリアも2人きりで美味しい物..


食べておいでよ?


ねぇ! 分かった?」


セビィ「..うーん...フィルが


そうまで言うなら、俺はいいけど..」


セバスティアンは、フィリップのその考えの意図がよく分からなかったがセシリアに目を向けて..


セシリア「...仕方ないな?


フィルがそう言うなら..一緒に行くか...


セビィ?」


セビィ「ああ..そうするか?」


フィル「じゃあ、決定だね?」


セシリア「..うん」


セビィ「ああ...」


その時、上空をゆっくり横切る大きな船がまた見えた。


セシリア「あっ.....また飛行船が飛んでるよ?」


フィル「本当だ..僕は今日だけで3回見たよ?」


セビィ「最近...やたら飛んでるな?」


セシリア「へん! しつこいね..」


フィル「あれ? セシリアは魔力監視船が好きじゃなかったの?」


セシリア「ああ...最初はな? でも、


ああやってしつこく飛ばれたらさ..


興冷めしちまうよ?」


フィル「確かに言えてるね?」


セビィ「それにしても最近よく見かけるな?」


フィル「うん....なんかあるのかな?」


セシリア「..なんかって...何かでも起こるのか?」


セビィ「魔力監視船の目的は、主に


魔力炉に近付く者はいないか..


若しくは、不審な動きをする者はいないか..


この2つだと言われている?」


セシリア「じゃあ、その2つに当て嵌まる事が起きそうだから..


ああやって何度も飛んでんのか?」


セビィ「さあね...それだけは、この俺でも分からないよ?」


フィル「..でも、あの飛行船には偉い人が乗ってるんでしょ?


だから、もうあんな酷い事故は2度と起きないよね?」


セビィ「そうだな?」


セシリア「...じゃあセビィは、あの飛行船に乗るかも知れない次期候補だな?」


セビィ「え?」


セシリア「..だってセビィは、もう少ししたらイルモニカ傭兵団の騎士になるかも知れないんだぜ?


だからあの飛行船に乗って私たちの住むイルモニカの街を守ってくれる次期候補だよ?」


フィル「確かにね? セビィがイルモニカ傭兵団に入ったら、その可能性もあるね?」


セシリア「うん! セビィがあの監視船に乗ってる姿を考えたら...


似合ってるよな?」


フィル「なんか嬉しくなるよ?!」


そんな2人の声を遮るようにセバスティアンは、


冷静にそれを否定した。


セビィ「..いや、それは絶対に無い..」


セシリア「..どうして?」


フィル「そうだよ? 何で絶対に無いって言い切れるんだよ?


イルモニカ傭兵団に入隊したらその可能性だって..」


セビィ「いや? だから..あの魔力監視船に乗っている人たちっていうのは...


選ばれし者たちなんだよ..」


フィル「選ばれし者って..どんな人?」


セビィ「だから..」


セシリア「詰まり、血統書付きかどうかだって事だろ?」


フィル「血統書付き?」


セビィ「はは..随分と嫌な言い方をするな?

まあ..とどのつまり、そういう事だな?


王族の者だったり、産まれた場所であったり..


結局はそういった事が影響してくる立場が、


あの飛行船に乗れるかどうかを決定してるんだよ?」


フィル「..でも、それと平和の維持がどう関係してるの?


街を守るのに、血筋がどうかなんて関係ないよ?


大事なのは、街を守りたい気持ちがあるか無いかでしょ?」


セビィ「ああ、俺もそう思うよ?


だが世の中っていうのは、気持ちだけでどうのこうの出来るってものでは...


ないんだよ?」


フィル「..そんなの変だよ」


セビィ「フィルもその内に分かるよ?


その複雑さっていうのがな?」


フィル「分かりたくないよ..」


そんな平和を維持する図式にふて腐れるフィリップにセシリアは、真剣な目で見てから言葉を発する。


セシリア「フィル?


私はあんたのその言葉...


忘れないよ?」


セビィ「...」


セシリア「ところで、あの監視船にはどんな偉い奴が乗ってるんだ?


エリート女騎士とかも乗ってるんだろ?」


セビィ「そうだな? あの魔力監視船のトップに立っているのが、


そのエリート騎士のオリビア・リザ・ヘイレンに..」


セシリア「オリビア?」


セビィ「上級魔導師のディルダに、

えー..エルゲサを含む数名だろ..


後は、名前は忘れたが予言者と言われる人も乗っている筈だ?」


フィル「予言者?」


セシリア「なんだよ予言者って?」


セビィ「ええ..ああ、この世界に何かないかって常に目を光らせてる人さ?」


フィル「..もしかして母さんみたいにかい?」


セビィ「うん? はっきりとは言えないが..


そういう事だな?」


セシリア「...エレの予言なら兎も角...


政府の予言者なんて誰が信じるか..」


セビィ「えっ?」


セシリア「だってそうだろ?!


じゃあ何で、

そんな偉い予言者様がいながら、


あの魔力炉爆発事故が起こったんだよ?!」


フィル「..セシリア」


セシリアは、政府の預言者の存在を聞いた瞬間、


何ともいえない感情が込み上げて我慢ならなかった。


預言者といわれる、ただ危険の存在だけに目を向けるだけの者たちに...


セシリア「そう思わないか?! フィルもセビィも?


予言者なんて数百年前からいたんだろ?


じゃあ、何で予言しときながらその場所にいる者たちを助けようとしないんだ?


予言者の役目は、予言するだけかよ?


それを雇う政府は、いったい何をしてるんだい?


私たちの味方のエレの予言は信じても、政府に雇われてただ金の為に災いを探す者の話なんか誰が信じるか!」


セビィ「...」


セシリア「私は、あのでっかい飛行船に乗ってる偉そうなオリビア...


えー..なんとかよりも?


セバスティアン・ネル・デルシアに1票だよ!」


フィル「...はははははは、僕もセバスティアンに1票だ!」


セビィ「...ははは、分かったよ?


その期待に応えられる傭兵になってみせるよ?」


フィル「セビィらしいや!」


セシリア「..そういう訳だ?


じゃあ、今日はそのセビィの為にうまいもん食おう?


で、フィルは本当に来ないのか?」


フィル「うん! 僕は家で留守番してるよ?


ところで何処のレストランに行くつもり?」


セシリア「..それが決めてないんだよな...

セビィ何処かいいとこある?」


セビィ「ああ? 気になってる店があるんだ?


その..."ラ・ムー?恋する?"ってレストランなんだが...?」


フィル「あの人気のお店?」


セシリア「..随分と洒落た名前だな?」


セビィ「ああ?! 前にこの近くにも出来たから..


いつか行ってみたいと思っててさ?」


フィル「..でも、セビィもセシリアもその格好で行くの?」


セシリア「洒落た店らしいから..この格好じゃあ不味いかな?」


セビィ「確かに服装までは気にしてなかったな..」


フィル「うん、せっかくなんだからお洒落して行きなよ? 2人揃ってさ?」


セシリア「でも、今から服を買いに行くのか?」


セビィ「正直、どんな服を買いに行けばいいのか分からないよ?」


フィル「...ふふふ、大丈夫だって?」


セシリア「大丈夫って?」


フィル「心配ないよ? 借りればいいんだからさ?」


セビィ「借りるって誰に?」


フィル「...向かいに住んでるフリーデンさん?」


こうしてフィリップの気遣いもあり、セシリアとセバスティアンは出逢ってから初めて2人きりでの食事に出かけた。


──


そのレストラン"ラ・ムー?"で2人は、最初こそ店の雰囲気に食事は進まず辿々しい会話であったが、


その空気に慣れると自然と会話も弾み笑いが溢れるほどの楽しい時間を過ごす事が出来た。


そしてその帰り、


2人はイルモニカでも有名な観光スポットである噴水広場


天使の泉にいた。


──


セシリア「..な..なあセビィ? 本当に私のこの格好似合ってるか?」


セビィ「ああ! 凄く似合ってるよ?」


セシリア「ほんとか? ..でも良かった?


近所に服を貸してくれる人がいてさ?」


セビィ「本当だな? 今度フリーデンさんにお礼しなきゃね?」


セシリア「うん! でも、そう言うセビィだってその背広..スッゴク似合ってるよ?」


セビィ「そ..そうかな?!」


セシリア「うーん! 流石は色男だね?


ビシッと決めりゃ、更にいい男になるね?」


セビィ「ああ..そう言われると...


なんか照れるよ..」


セシリア「ふふふ」


セビィ「あー..そうだ! フィルの奴も来れば良かったのにな?」


セシリア「..うん! あいつ変に気を使ってるからな...まあ、さ?


この後に美味しい物でも買ってってやろうよ?」


セビィ「そうだな? ...ああ


それにしても...ここは大胆な人がやけに多いなあ?」


セシリア「うん...遠慮なく抱き合ってるな?


..ここってそういう所なんだ?」


セビィ「えっ!? ..いや! 俺はただセシリアをこの場所へ1度連れて来たかっただけだよ?


...いつも昼間は、こんな感じではないんだけど...


どうやら夜は...」


セビィ「うん? カップルが一斉に集まって抱き合う場所に変わるんだな?


...しっかし、みんな遠慮がねえな?


関係ないこっちまで恥ずかしくなってくるよ?」


天使の泉は、観光地のわりに大変に落ち着いた雰囲気の場所である為に、夜になるとその落ち着いた雰囲気に誘われて恋人同士が集まり抱擁や口づけを楽しむのである。


セビィ「..少しは、気に入ってもらえたかな?」


セシリア「うん! 周りはともかく、


綺麗な場所だよな?


この噴水なんてさ...本当に見てくれって感じだよな?」


セビィ「でも、こういった場所は初めてじゃないだろ?」


セシリア「うん...小さい時に見た事があると思うけど..


そんな事は覚えて無いしな?


噴水と言えば...ああ! トーニの町にもあったよな?」


セビィ「セシリア?


あの場所と一緒にしちゃ...」


セシリア「それもそうだな?


はははははは、溜まってる水の上にゴミがいっぱい浮いてるわ..


おまけに噴水は近所のガキんちょのションベンみたいにチョロチョロ出てるだけだしな?


ははははははははは」


セビィ「..セシリア?」


セシリア「えっ?....あっ!?


ごめん? 私また品の無いこと言ったな?


あー...注意されてんだけどな..


スコルビおじさんにさ?


何時までも田舎の悪ガキみたいな口調をしてるんじゃない! ってな?」


セビィ「..ははははは、田舎の悪ガキか?」


セシリア「うん? ケールおばさんは別に構わないって言うんだけど?


まあ確かにせっかくイルモニカに来たんだから..


直さなきゃな?」


セビィ「いやぁ、俺は別にそこまで気にしてる訳じゃないんだが..」


セシリア「ううん! 少しくらいは...直すよ?


だってセビィに..嫌われたくないしね?」


セビィ「..いや! 俺は..」


セシリア「時間はかかるかも知れないけど..


こんな私を見守っててくれよ...


なあ、セビィ?」


セビィ「...ああ..俺はいつだって..セシリアを...」


セシリア「なあセビィ..


私の両手握ってよ?


あの時みたいにさ?


..いいだろう?


ここは..そういう所なんだろ?」


セビィ「...セシリア」


セシリア「お願い...」


そう言ってセシリアは、目を瞑った。


セバスティアンはそんなセシリアの両手を握ると自然と自分の唇をセシリアの唇へと合わせた。


セシリアは、初めて自身の唇に触れる感触を知り、握られていた両手をセバスティアンの背中にへと移し力を込めた。


どちらかが唇を離すと、互いに見つめ合い、


気付いたようにまた唇を唇にへと合わせる..


そんな時間を2人は、数える事なく繰り返した。




"君とボクは、キスを繰り返す存在


魔除けを知った2人は、永遠ではないが怖くはない..."




セビィ「セシリア...あと少しだけ待っていてくれ...」


セシリア「..私はいつだって待っていたんだよ...


この時を信じて...ずっと..」


セビィ「イルモニカの傭兵試験が終わった時は、


必ず...」


セシリア「..私はいつだって貴方を待ってるよ...


いつだって..絶対に...」


セビィ「セシリア...」


お互いの気持ちを打ち明け、濃密な時間を楽しんでいた...


その時だった。


突然、星の見えていた空にいつの間にか大きな雨雲が覆っていたのだ。


そして、その雨雲はそんな2人を邪魔するように大粒の雨を降らせたのだ。


セビィ「...雨だ?」


セシリア「....はぁー..全くなんて意地の悪い雨だ...


こんなに雨が憎いと思ったのは初めてだ...」


セビィ「...さあセシリア..早く帰ろう?」


セシリア「..うん....


それにしてもなんて冷たい雨だろ?」


セビィ「ああ? 確か予報じゃ雨は無かったけどな? 


...いつの間にこんな雨雲が..」


セシリア「きっと嫌みだよ...」


その大粒の雨は冷たかった..


まるで2人の気持ちを冷ますように...


冷たかった..

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