第24話 てのひら ~魔法~

「下の方は、どうなってる?!」


ハシゴを渡って顔を覗かせたフィリップにセシリアは休む間もなく聞いた。


「大丈夫! 酒が進んでワイワイやってるよ?」


そう言葉を返すフィリップは、直ぐに顔を引っ込めて下へと急いで降りて行く。


手慣れた作業のように路地裏に着くと、辺りを慎重に確認してからセシリアの居るバルコニーへ頷いた。


セシリアもそのフィリップに頷くと、興奮する気持ち落ち着かせる為に声を漏らしながら深呼吸し、ハシゴを掴み身体を投げ出して、弱い風が吹く中、踏みざんを確り足で1つずつ踏んで、下にへと降り始めた。


足の裏に感じる感触等が彼女の鼓動を早め、それに対してセシリアは、自身を落ち着かせよう汗ばんでいる。


下を見れば、フィルが何やら頭上に両手を掲げて構えている。


まるでセシリアに向けて何かを放つ構えで..


数十秒の時間を掛けて、ようやくセシリアが路地裏の地面を踏むと彼女は、その場から来る緊張で身を構えた。


そんな彼女の身体にフィリップは、優しく広い布水を弾く生地のを被せる。


その時、上から音を立てて急ぎ足でセバスティアンが降りて来る。


セシリアとフィリップは、音に反応すると同時にハシゴの上を見上げ、彼が降りて来るのを待った。


「どうやら..気付かれたらしい?」


地に足を付けたセバスティアンは、2人に目を向けてからその事を伝えるとフィリップは首を振って路地裏の道を確かめ、セシリアは酒場の中が騒がしくなっている事に気付く。


「さあ、急げ?」


セバスティアンが緊張する2人に先に行くように促した直後、酒場の出入口の扉が乱暴に開けられる音が響き、そこから数人が流れる出て来る足音が路地裏にまで聞こえ..


「逃がすな! 絶対に逃がすな!!」


男の叫び声が続いた。


「行け!?」


セバスティアンが緊張で戸惑うフィリップと恐怖で体を強ばらせるセシリアに再度促すも、足音が路地裏の方に向かって来るのが分かり3人は、その方向に目を向ける。


「居たぞ!?」


「...けっ! まだそんなとこに居たか...まぁ...こっちとしては好都合だがね?


..余りに気前がいいんで...どうも変だと思ってね..ちょっと覗きに行ったら...


お前さん...いったい何者だ?」


「...行け」


1人の酒場の客の叫び声に二ズルが路地裏に駆けつけ嫌味な表情を見せると、そこに立っているセバスティアンに尋ねる。


それに対してセバスティアンは、表情を変えず、後ろで怯える2人にもう一度、先に行くよう促した。


「もう...もうダメだ!?」


震えて怯えるセシリアが、フィリップに抱き着くようにして声を漏らすと、その片手をフィリップは力強く握る。


「なにをグズグズしてる..早く行け!」


一刻も早く、その場を立ち去れ! 命令に似たセバスティアンの声がその後ろの2人に届いた時には、セシリアはフィリップの手を力強く握り返していた。


「さあ、セシリア? 行こう!」


「...うん!」


2人は路地裏を走り始めると、セバスティアンの背中が遠ざかって行く。そんな大きな背中を信じて、互いは、必死になって手を握り、その先へと向かう...


「逃がすか!」


「まあ、構わんでいい。目の前の..この男さえ捕まえればのう。あの2人は後でいいじゃろ」


二ズルは、逃げた2人を追おうとした男を止め、目の前のセバスティアンを見た。


「...最初から、あの女を逃がそうと企んどったんじゃな? その格好も..変装じゃな? 何処のどいつか知らんが...えらく手の込んだやり方じゃな..いやぁ、驚いた。


だがよ..こんな事して...タダじゃ帰れねえのは...分かってるよな? ありゃ...ここの大事な商品だぜ? 舐めた真似をしてくれるよな...なあ、お客の皆さん?」


二ズルの問に、周りの酒場の客である男どもが叫び返事をする。


「今更、謝っても無駄だぜ..色男さん?」


「...悪いが..少しだけ驚かせてしまう」


「はぁ? いったい、なにを言っとるんじゃ..お前?」


「いや、だから...驚いてもらう?」


ボソボソと喋るセバスティアンに二ズルは怪訝な表情を見せる。


「なーに、数人もいれば..こんな野郎」


...と1人の客の男が二ズルの前に出ると叫び、それに応えるようにセバスティアンは片手を自身の胸元に持って来ると...


「や..やるか?! こいつ!」


「いや、暴力は嫌いだ。だから...少しだけ..魔法をね?」


「はあ?」


それを聞いた二ズルが口をぽかんと開けた時には、セバスティアンの上げたてのひらで青白い炎が大きく揺れる。


「ほんの少しだけ...我慢してくれ?」


呆気にとられているその場に集まった男たちに向けてセバスティアンが片手を降ると、その炎は、呆気にとられているその場に集まった男たちに向かって行き、容赦なく燃え移った。

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