第27話 欲しいアイテムからの雪原散歩
第1回イベントが告知されてから1週間。2層にもプレイヤーが増えてきていた。そんなとき、アヤネは2層のサティのお店に来ていた。
「あと1週間もあるね。イベントまで。」
「そうねぇ。でも、アヤネはぁ大丈夫でしょぉう。」
「なにがー?」
「結構、上に行けるんじゃなぁい?」
「それはそうだろうけど。逃げてれば良いだけだもん。私に追い付ける人はいないし。」
普通に、自然に、滑らかに認めたアヤネに対してサティは思った。
(認めちゃうのねぇ。謙遜なんて一切しないタイプなのねぇ。事実だから良いんだけどぉ。でもぉ、嫌われちゃうタイプねぇ。)
「サティも出るんでしょ?」
「そうよぉ。だけどぉ、予選も通れなそうだしぃ。応援しとくわねぇ。」
「諦めちゃった。それでさ、聞きたいことがあるんだけど、良い?」
「ん?良いわよぉ。」
「良かった。強いプレイヤーの情報が欲しいんだけど、お客さんから何か聞いたりしてない?」
「そうねぇ、うーん、強いプレイヤー......あ!1人だけぇ、聞いたことあるかもぉ。名前は忘れたんだけどぉ、すごい魔法使いなんだって。」
「魔法使い...か。ありがとう。」
「良いのよ。それで、アヤネがここに来た理由は?」
アヤネは少し驚いた様子を見せるが、次の瞬間には笑ってサティに話す。
「あらら、情報はついでなのバレてたかあ。」
「ふふぅん、私はこう見えてぇ人間観察が得意なのでぇ。」
サティは胸をはり、片手を当てて自慢気に言った。
「そうなんだ。それじゃあ、本題に入ろうか。...魔力を増やすアイテムってない?」
「魔力を増やすぅ?回復じゃなくてぇ?」
「うん。回復じゃなくて最大値を増やすアイテム。」
「うーん、作ればあるけどぉ。」
その言葉を聞いて若干陰っていた顔が光を放つ。
「ホント!?ならさ、イベントまでに作ってほしい。お願いできませんか?」
「任せて。作れたらメッセージ送るから。」
「ありがとう、サティ。」
「良いのよぉ。イベントまでにぃってことはぁイベントで使うんだろうしぃ。この私にまっかせなさぁい。それでどこに付けるアイテムが良い?」
「手...かな。」
「手かぁ。分かったぁ。作っとくわねぇ。」
「はい、お願いします。じゃあ、また。」
「うん、またねぇ。......さてとぉ、アヤネがどんな戦いをするのかぁ楽しみになってきたわぁ。」
アヤネが去った店内で1人、ワクワクしながらイベントで使うアイテムを生産するサティであった。
◇◇◇
アヤネはサティのお店を出たあと、町のベンチに座って光エリアを眺めていた。
「あー、光エリアってどんなところだったんだろう。それから、他の妖精の加護持ちも気になる。サティから聞いたプレイヤーは持っててもおかしくない。まあ、持ってたらすぐに分かるかな。イベントで使うだろうし。」
アヤネは光エリアを見ながらそんなことを口にしていると誰かに頭を叩かれた。
「イテッ、」
「アヤネ、どこ行く?」
「ねえ、ユア。今、私の頭を叩く必要あった?」
そう言われたユアはとても真剣な表情で答える。
「あったよ。だって、何回呼んでも返事しなかったんだもん。」
「へ?ホント?それはごめん。」
「まあ、嘘だけど。」
「おい、それじゃ、海にでも行こっかな。」
「え、いや、それは、ちょっと、ね。やめよう。」
アヤネは立ち上がり、ユアを満面の笑みで見る。
「どこに行くか聞いたでしょ?海に行くよ。」
「はい、その、申し訳ございませんでした。もう二度としないように心掛けます。」
「いや、そこはもう二度としませんって言うところでしょ。」
「よし、それじゃあ雪原に行こう。」
「聞いちゃいない。もうそこで良いよ。」
「やったね。」
「雪かあ。何する?雪合戦?」
「2人で?」
「うん。雪合戦、どっちが強いか対決。」
「アヤネ、泣くことになるけど良いの?」
「煽るね~、でもユア、フラグ建ったよ。今の言葉で。」
「フラグは建てたままにするのが私なので。だから、回収しないんだよ。建てたら建てっぱなしだから困っちゃって。そろそろフラグを建てるところが無くなっちゃいそうだよ。」
「言うね~。私はそもそもフラグ建てないように気を付けてるから少ないんだよね~。それに、私のフラグ回収率、80%超えてるし、建てたらだいたい回収するの。だから、余計にスカスカだよ。なんならフラグ建てる場所貸してあげるよ。」
「助かる~。ありがとね。」
「どういたしまして。」
こんな謎の会話をしながら歩いていた2人は雪原エリアの前まで来た。
「白いね。」
「そりゃあ、雪だし。」
「じゃあ、探索しようか。」
「そうだね。でも、私、雪エリアに入るの初めてだよ。」
「そうなの?まあ、私もだけど。」
そんな話をしながらザクザクと音を立てて雪原エリアの奥へと進んでいく。
「ここの試練は誰かがクリアしたんだね。」
「そうみたいだね。あと、どこどこ残ってるんだろ。光とか?」
「私は光と海は聞いたことないかな。あと、森。」
「森はクリアしたって聞いたよ。」
「そうなんだ。でも、今、妖精の加護を貰ってる人はイベントで明らかになるだろうね。」
「どうして?」
「どうしてって【精霊の戯れ】って使わないの?私、使う気満々だったんだけど。」
「そっか!!それをすればプレイヤーのキル数を気にせずに生き残ることだけを考えてれば良いんだ!!アヤネ、天才かよ。」
「逆にユア、大丈夫?」
「大丈夫だよ。至って正常でーっす。」
「なら良いや。ところでユア、ここって何があるの?」
「何って雪。」
「うん、それはね、見たら分かると思うんだけど、クエストとか、ね?」
「あ、そっち!?確かに、何があるんだろ。」
「何か情報を集めたと思った私がバカだったよ。」
「まあ、何かはあるでしょう。」
「私、このまま進んでても何もないと思う。」
「それは私も思った。」
「そう思ってたんだけどね、モンスターの反応があるの。」
「マジで?戦うの?」
「精霊とかじゃなさそうだし、戦わない?」
「精霊じゃないなら戦おうかな。あんな試練みたいなのはもう二度としたくない。」
「それは私も同感。でも、闇エリアにもう1回行ってみるのも良いかも。」
「あそこは私、1回入ろうとしてやめた。体が半分、闇エリアに入ったところでやめた。異様におかしかったもん。よく入ったね。あんなところに。」
「私は、その、ちょっと見るだけにしようと思って【神速】使って入ったの。そしたら、スキルが使えなくなって体も重くなったから出ようとしたんだけど出れなくて最終的に試練を突破した。てかね、うちの妖精、自由すぎ。説明は遅れてするし、渡さなきゃいけないものを渡すの忘れてるし、なんか適当だし、すごかったよ。名前も最後に言うし。」
「私は最初に言われたよ、名前。」
「砂の妖精でしょ?なんて名前なの?」
「アレイアだよ。そっちは?」
「こっちはメルケ。」
「って、妖精の名前発表会してる暇じゃないでしょ!モンスターどうするか決めないと。」
「あ、もう避けるなんて無理だよ。すぐ近くにいるし。」
「え、どうするの?」
「戦う。」
「誰が?」
「ユアが。」
「ですよね!そうですよね!!分かってましたよ。ええ、分かってましたとも。」
「冗談。2人で。」
「はあ、焦るわ~。いっつも囮にしてるくせに。」
「今日は今日。戦闘感覚を鍛えとかないとイベントで勝てないから。」
「さっき、イベントは精霊に任せてサボるって言ってなかった?」
「念のためだよ。あ、見えた。狼だ!」
「なら、サクッといこうか。」
ユアが走って雪狼に接近し、そのまま一太刀、そして今度はアヤネが二太刀して消滅した。
「あれ?なんか、弱くない?」
「本来は群れでいるんじゃない?」
「迷子だったのかな?もし、そうなら可哀想なことしたね。」
「そうだね。」
2人はその後も雪原をたまに出てくるモンスターを倒しながら散歩していた。
それから、各プレイヤーがレベル上げをしたり、スキルを集めたりしてイベントに備えた。
そして今日、イベント告知から12日。ついに、第1回イベント当日がやって来た。
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