始まらない物語

私は絵を描いていた。冬の寒さに手が悴むこの季節、外の吹雪を見ながら想像できない夏を思い描く生活を続け、はや3年が経とうとしている。絵の具を取り、筆の穂先で山を慣らして、水に漬けようとしたらまた表面が凍ってしまっていた。どうやら部屋のストーブに組んでいた薪が燃え尽きていたようだった。

すぐさま外から新しい薪を持ってきて、ストーブにくべる。火の勢いはどうにか持ち堪え、激しく揺れ始めた陽炎に目をやられる前に、その場から離れ、再び椅子に腰掛けた。


私が住むこの街には、かつて四季があったらしい。その中に冬も含まれていたが、かつての人たちは冬を含めた四季の彩りや移り変わりをみて楽しんでいたとか。今となれば、もはやそれはただのおとぎ話のような、昔話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小説の小ネタため書き ひじま @hijima316

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る