一日の終わり

「二人とも話は終わったかな?」


 後ろを振り返ると、鳥さんが立っていた。


「とりあえずは」

「うん、伝えられたよ。今の私の思いをこの人に。うんうん、違う。もう恋人になったんだから名前でもいいよね。七奈にしっかり私の思いを伝えられたよ!」


 長い沈黙があった。


「七奈ちゃんはそれでいいんだね? それで後悔しないって約束できる?」


 まるで"お母さん"のように聞いてくる。


「はい、もちろんです。こんなにも私のことをじっと見つめてくれる子のことを見捨てたりしません」

「そっか。ならいいよ、君たちが付き合うことを許そう。ただし、条件がある」

「条件?」

。ただ、それだけ」


 なんだ、簡単じゃん。てっきりヤバい規則でも来るのかと思った。


「君はすでに刻結病にかかっている恐れがある」


 そういうことか。でも、刻結病って空気感染しないんだ? 現に今、鳥さんと話してるし。とりあえず、聞いてみるか。


「刻結病って空気感染しないんですか?」

「しない。じゃなかったら、今私も刻結病で動けないよ」

「じゃあ、なんで私は?」

「君はキスされたんじゃないか?」

「う、はいそうです。キスされました、唇に」

「問題はそこ。私は、触れたり、同じところにいたりしたが、そこまでではかからなかった。でも、君はキスをされたことでかかっている可能性がある」

「そんな」

「そこで相談。一日に一回、ここの家に来るというのはどうかな? 経過観察させてくれ。三日でいい。移動手段は、私の《扉移動》でなんとかするから」


 まぁ、三日ぐらいなら。


「いいですよ。なんなら、親に連絡して泊まりにきます」

「そんなに急がなきゃいけないわけじゃないから落ち着いて。でも、君が早く終わらせたいならおすすめしようかな」

「わかりました。親に相談してみます」

「帰りは、どうする? お家まで送ろうか?」

「じゃあ、お願いします」

「OK。あと、夕奈ちゃん達は先に帰らせておいたからね」

「ありがとうございます」


 あとで夕奈に連絡しなきゃ。


「何かやり残したことはある?」

「少しだけいいですか?」

「もちろん」


 そっと、エルナちゃんの前に寄り、膝を折って目線を合わせる。


「今日は、もうお開き。明日、また会おう!」

「うん、また……。七奈、トライアングルでも話してくれる?」

「もちろん。いつでも、相談に乗るよ」

「ありがとう」


 こういう時、何かしてあげた方がいいのかな? あ、あれやろうかな。


「エルナちゃん、頬こっちに向けて」

「こうですか?」

「そう」


 そこにキスをする。


「!?」

「お返し。……どうだった? 初めてだったんだけど」


 すると、エルナちゃんがキスされたところを押さえて、こう言う。


「ええ、とても良かったですよ」


 可愛い。私の彼女、破壊力が高すぎる。ダメだ、帰らなきゃいけないのにここにいたくなってしまった。


「じゃ、じゃあそろそろ行くよ」


 立ち上がり、ドアの方へと向かい、お別れする。


「また明日、エルナちゃん!」

「また明日!」


 お互いに手を振り、お別れする。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ただいまー」

「おかえり、会いたかった人には会えた?」

「うん、会えたよ」

「そう。じゃあ、手を洗って、風呂に入って。今日の夕飯は、トマトパスタだよ」


 お母さんお得意のトマトスパゲッティだ。一週間に必ず一回は、パスタを食べている。


「はーい」



「ふぅ。帰ってきた」


 お風呂に浸かりながら、上を見上げる。


「まさか、私が付き合うことになるなんてなぁ。でも、私好きな人いないし。良かったかも」

「夕奈にも伝えておこうかな。しばらく、エルナちゃんの家に行くことになるだろうし」


 これからどうしよう。当初の目的のエルナちゃんは見つけた。でも、まだ全員 じゃない。あと、四人。ヒントは、望美ちゃんに見せてもらった画像だけ。今回は、たまたま探り当てただけで二度はない。


「このことも明日相談しよう」


 そろそろでようかな。


「ヤッホー!」


 この声は…!


「お姉ちゃん、また勝手に入ってきて!」

「だって、遅いし、早く食べたいから」


 相変わらずのナイスボディ。エッロ。


「えっちだねぇ、七奈ちゃん」

「うるさい」

「今日は、どうだった?」


 体を洗いながら、聞いてくる。


「それさっき、お母さんにも聞かれた。会えたよ。あと、彼女ができた」

「へぇ〜会えたんだ。え、彼女?」

「うん、彼女」

「どんな子?」

「ちょっと不自由だけど、それを自分で乗り越えようとしてる子」


 本当のことを言うと、止められかねないし。


「ふぅん。七奈ちゃんってそういう子がタイプなんだ?」

「まぁ、タイプっちゃ。タイプだけど」

「隣邪魔するね」


 お姉ちゃんが浴槽に入ってくる。チャポンと音を立てながら、片足ずつ浴槽に入れる。そうして、体全体が入ると浴槽の水が溢れた。


「またお姉ちゃん、デカくなった?」

「まぁね、まだまだ成長期だし。そう言う七奈ちゃんは全然だね」

「これから、大きくなるもん。胸で勝てなくても、身長は抜いてやるんだから」

「頑張れ〜」


 頬を指でついてくる。


「で、さっきのことなんだけど。どっちが告白したの?」

「向こう。ほぼ一目惚れみたいな感じ」

「変わった子だね。七奈ちゃんに惚れるなんて」

「私も人のこと言えないけど」

「じゃあ、どっちも一目惚れってわけだ」

「うん、そんな感じ」

「まさか、女の子と付き合うなんて。しかも、じゃないし」

?」

「ううん、なんでもないよ。先出て、私まだ入ってるから」

「わかった」


 言われた通りに出る。って誰だろう?

 もしかして、かな。それは、ないか。




「行ったかな。うーん、これは難しくなったなぁ。まさか、七奈ちゃんに彼女ができるなんて思ってもなかったし」


 私は、風呂に浸かりながら今後のことについて悩んでいた。


「そろそろ出ようかな。のぼせそうだし」


 立ったタイミングで、まだ隣にいるであろう最愛の妹には聞こえないようにつぶやく。


「これから大変になるけど、頑張れちゃん」

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