会えなくとも

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

「え? ここにいてくれないんですか?」

「ごめんね。帰らないと親が心配しちゃうから」

「うーん」


 エルナちゃんが少し残念そうにうつむく。


「心配しないでもすぐまた会えるよ」

「…ここにいてもらいたいのに」


 小さな声で何かを言った。うまく聞き取れなかったけど、なんて言ったのだろう?


「エルナ」


 鳥さんが戻ってきた。


「お姉さんにお礼しなきゃ。"あの子"に会わせてくれてありがとうございますって」

「…わかった。お姉さん、今日はありがとうございました」


 エルナちゃんがぺこりとお辞儀する。


「大丈夫だよ。また連絡してくれたらお話聞いてあげるから」

「…はい。お姉さん、こっちに顔を寄せていただけませんか?」


 どうしたんだろう? 顔が赤く見えるけど?


 言われた通り、顔を寄せる。


「ごめんなさい」


 すると、顔を寄せてキスをされる。前とは違い、頬ではなく、口に。


「わぁお」


 鳥さんが驚いている。


「ぷは。エルナちゃん、どうして?」


 とっさにその言葉が出た。ただ理由が聞きたかった。私にキスをした理由が。


「…わからないんですか?」


 つまり、そういうことか? 今日、初めて会ったばかりなのに。


「エ、エルナちゃんは、私のことが好きだってこと?」


 戸惑いが隠せない。今まで生きてきた中で告られたことは、1回しかなかったが、それも幼稚園の時の話だし。ましてや、女の子に告られるなんて


「はい」

「どんなところを好きになったのかな?」


 聞くのは、恥ずかしいけど。聞くしかない。


「こんなに危ない状況にある私のところまで来てくれたこと。あの子、望美にまた会わせてくれたこと。そして、私を見て怖がらず、前を向いて、ずっと話してくれたこと。目線の高さを合わせようとしてくれたこと。最初は、もじもじしてたけど、やる時はやるかっこいい姿を見せてくれた。これらが私の"現時点"でのあなたの好きなところです」


 思ってたよりすごかった。子供は、よくお兄さん、お姉さんのことをよく見てるというが、ここまでか。そりゃ、宇宙人ってこともあるかもしれないけど。


「お姉さんは、私のことをどう思ってますか?」


 答えるのが不安になる。この子が聞きたいことを言えないかもしれない。でも、答えなきゃ。聞かれているのは、私なのだから。


「いい子だと思う。でも、それだけじゃない。自分で考えて、迷って、友達のために悩める。自分の話をうまくまとめて、相手に伝えようとしてくれる。たまに強気になったり、弱くなったりする。信用ができる人間と信用できない人間の区別がつく。あとは、病気のことを包み隠さずに全て教えてくれたこと。それが一番嬉しかったかな」


 行き詰まりそうになったけど、なんとか答えられた。


「…そんな感じですか」

「それだけじゃないよ。前に望美ちゃんにエルナちゃんの顔を見せてもらったことがあるの。その時からかわいいなって思ってた。実際に会っても、かわいいなって思ったよ」

「かわいいだけですか?」

「私が会ってきた人の中で一番かわいいよ。今まで会ってきたどの人よりもね」


 とっさに出る言葉が言い換えただけだなんて。伝えるのって難しいな


「そうですか、ありがとうございます」


 エルナちゃんがまた顔を真っ赤にしてうつむく。そして、今度は息を吐いて、真剣に前を向く。


「お姉さん、私と付き合っていただけませんか? 今は不自由の身ですが、きっとお姉さんを幸せにします!」


 私は告白をされたことがない。だから、こういう時どうすればいいのか、さっぱりわからない。よくドラマやアニメでは、OKを出す場合、ごめんなさいを出す場合があるが、それには何かしら理由がある。でも、今はどういう理由で受け止めればいいのか、わからない。

 わからないけど、私は、この子が好きだ。それだけはわかる。この子の気持ちに寄り添ってあげたい。まだ1時間しか話していないけれど、この子を見守っていきたい。それがこの子に対する答えだ。


 そっと手を差し出す。


「はい、私でよければ」


 薄っぺらい理由だと思われるかもしれない。たった1時間で何がわかったつもりになっているのかと思われるかもしれないでも、この子が私をこんなにも見てくれて、言葉にしてくれたことが嬉しかった。それがわからないなりに、私がこの子の告白を受けた最大の理由だ。


「お姉さん、本当にいいんですか?」


 手が震えている。


「うん。例え、あなたが今不自由な身でどこにも行けないとしても、私が迎えに行くよ。必ずね。いつか一緒に歩ける日が来るの夢見て、隣で見守らせて」

「はい。よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくね!」


 いつか、この子が宙に帰ってしまう時が来てしまっても、会えなくなってしまったとしても、私はこの子のことを思い続ける。きっと、いつまでも




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