第24話 順調に進む

 スターリンクは危なげなく一階層を通過し、二階層で初の実戦らしい実戦としてゴブリン戦へ。


 陽葵が前へ滑り込み、短剣で喉を抉る。

 奏の剣閃が一拍遅れて別個体の武器腕を断ち、知花の小火球が逃走しかけた一体の背を正確に焼いた。

 麗華は後方から軽い祝詞で筋力強化を付与、雫はウルフを呼び出して側面を封じる。


 :動きいいな~

 :陽葵のステップ軽すぎ!

 :御園さんのバフ、音がきれい……

 :カメラワーク安定してて見やすい(有能スタッフ)


 一輝は肩掛けリグで角度を変え、危険線を跨がずに迫力だけを拾う。

 オモチは小声で「三秒でズームアウト、引き気味ニャ」と指示。

 映像は滑らかに全体戦況へ。


 そのまま三階層、四階層と快調に駆け抜けた。

 索敵は陽葵とミニドラッキー、罠判定は陽葵、全体の動線とスタミナ配分は知花がタイムキープ。

 奏は前を削って止めることに徹し、麗華はバフと軽回復。

 雫は必要時のみ召喚を入れ替え、過剰に戦線へ出さない。

 強すぎる切り札はまだ温存。

 それが今日の約束だ。


 そして、五階層。

 ここからは様相が変わる。

 交差する通路、天井の陰、足元のスライム痕。

 混合湧きだ。


「フォーメーションB、斜め楔。前列に私、右に陽葵と奏。中段にウルフ、後列二枚構えで麗華と雫。接近多なら私が受けて陽葵が抜き、遠隔混じりは私の左で知花の面制圧に切り替え」


 知花が短く告げ、全員が一歩で位置に収まる。

 最初の遭遇はゴブリン三体、スライム二匹、吸血コウモリ四匹。


 奏が突進を止め、陽葵がすり抜けて急所を刺す。

 雫のウルフがスライムを噛んで引き剥がし、麗華の清音が吸血の奔流を鈍らせる。

 知花の風刃がコウモリの群れを二つに裂き、残りは奏の斬り返しで落ちる。


 :連携気持ちイイ!

 :五人+ワン(ウルフ)で六重奏やん

 :ヒーラーの鈍化うまい! 吸血止まってる


 次の角でスケルトンが二列。

 後列は欠けた弓を構え、手前にゴブリンの盾役。


「遠隔混合。前を私が割る、二秒後に知花の範囲! 陽葵は右列の弓を落として!」


 奏が盾ゴブリンの視線を奪い、知花の土槍が床から突き上がる。

 同時に陽葵の投げナイフが弓の肘を正確に弾き、ウルフが倒れた骨の喉元を噛み砕く。

 麗華は的確に小回復。


「息を吸って。大丈夫、まだ余裕があります」


 静かな声が全員の肺に新しい空気を入れた。


 :知花のコール、的確で草(褒めてる)

 :御園さんの声、落ち着く~

 :陽葵の投擲えげつない精度


 通路が開けた先、天井梁に再びコウモリの影。

 床の粘りは増し、スライムの痕が濃い。


「上も下も同時……」


 雫が呟いた瞬間、斜め上から三体、足元からは二体のスライムが靴底を舐めに来る。


「雫、ビッグスライムは温存。ミニドラッキーで上警戒、足元は私が張る」

「お願い!」


 知花が氷の薄膜を床に撒き、粘りを一瞬だけ中和。

 奏がそこへ踏み込み、氷の反動を読んだ足さばきでコウモリの死角へ跳び、上段から両断。

 陽葵は低姿勢で潜り込み、スライムの核をふたつ、柔らかく抉る。


 さらに三叉路。左から骨の足音、右の闇で金属が擦れる。


「右にスケルトン、左はゴブリン武装多め!」


 斥候をしていた陽葵の報告。


「じゃ、左を先に面で止める。―麗華、前列に清壁を一枚」

「受けて」


 透明な壁が鈍い光を灯し、突っ込んだゴブリンの勢いが弾む。

 その一瞬の間に知花の雷球が右へ、分裂して骨の関節を焼く。

 雫は呼吸を合わせて短く詠唱。


「ウルフ、左の列の背中!」


 ウルフが回り込み、逃げ腰の背へ牙を立てる。

 崩れた陣を奏が最後にまとめて畳む。


 :強い、けど丁寧

 :無理押ししないの好感

 :ヒーラーの壁ナイス!


 五階層の混合圧を受けながらも崩れない。

 彼女たちの動きはブランクを感じさせないどころか、以前より精度が高い。

 コメントの流速が上がっていくのを知花のタブレットが示す。


「あと二ブロックでセーフティゾーン。ここは慎重に」


 知花の声に全員が頷く。

 最後の角、通路の幅が一段狭くなる。

 罠も混じりやすい寸法だ。

 陽葵がしゃがみ、爪先で石の納まりを確かめる。


「……大丈夫。ここはノートラップ」


 麗華が息を合わせて言う。


「では、回復とバフを一度入れ直して、次で区切りましょう」


 雫は視聴者へ向き直って小さく頭を下げた。


「みなさん、ここまで見てくれてありがとうございます。もう少し進んだら安全地帯で前半を一旦区切って、次の準備に入りますね」


 :がんばれスターリンク!

 :前半でこれ、後半どうなるの……

 :カメラワーク神、スタッフさんもお疲れ!


 一輝が最後尾で小さく親指を立てる。

 オモチが囁く。


「ゴール前、引き絵で五人とウルフのシルエット、ゆっくりパンして締めニャ」

「了解」


 混成の波をもう一つ、丁寧に捌き切った先に青白い光の輪が見えた。

 五階層セーフティゾーン。

 スターリンクは乱れぬ足並みのまま、その光へと歩み入る。


「前半戦、ここまで。」


 奏が汗を拭い、優しく微笑む。


「後半は休憩を挟んでからね」


 :後半も見る!

 :神回の予感しかしない

 :休憩中にお水飲んでね~


 コメントの温度が画面から伝わってくる。

 スターリンク初配信、五人と一匹は確かな手応えを胸に短い休息へと入った。


 セーフティゾーンに辿り着いたスターリンクの面々は、青白く光る床に腰を下ろした。

 背中を預ける岩壁はぬるく湿っているが、今の彼女たちには心地よい冷たさだった。


「ふぅ……。ここまでで五階層、順調ね」


 知花がタブレットを閉じながら息を整える。


「問題は特にないけど……細かい動き、まだ鈍い部分があったわね。陽葵、右前へのステップが半歩遅れてた」

「うっ……やっぱり見られてたか」


 陽葵は頬を掻きながら苦笑する。


「私も最初のゴブリン、もう少し剣を浅くしておくべきだったかも」


 奏が言うと、麗華が微笑んだ。


「でも、致命的なミスはなかったわ。十分すぎるくらい上出来です」

「そうそう! ブランクある割には全員動けてたニャ!」


 後ろで五人の戦いを見守っていたオモチが胸を張る。


「とはいえ、細かい連携の呼吸はもう少し練らないとね」


 知花がメモに指を走らせる。

 一輝がカメラを片手に、少し距離を置いて皆の様子を撮りながら言った。


「久々に潜ってこの動きなら上等だろ。むしろ、思ったより勘が戻るのが早いな」

「ありがとうございます。でも、私たちだけじゃここまで来れなかったと思います」


 雫が小さく笑う。

 その足元にはウルフとミニドラッキーが寄り添っていた。


「ウルフくん、すっごく頼りになるよね!」


 陽葵が頭を撫でると、ウルフは気持ちよさそうに目を細める。

 ミニドラッキーはぷるぷると羽を震わせながら陽葵の頭に止まった。


「ちょ、ちょっと! そこ危ないってば!」


 :ウルフかわいい~!

 :ミニドラッキーの動き、アニメ化してほしいw

 :癒しパートきた


「召喚獣たちがここまで戦線維持できるなら、中層くらいまでは安全に行けそうね」


 知花が分析するように呟くと、雫は照れくさそうに笑った。


「ありがとうございます。でも、ウルフもドラッキーも私が未熟だから、まだ全力じゃないです……」

「なら、これから強くなればもっと安定するってことね」


 雫の言葉に奏が頷く。


「よし、次に進む前に軽く食べておこうか」

「さんせーい!」


 元気よく陽葵が手を上げる。


「やっぱりこのメンバー、いいチームニャ!」


 オモチが嬉しそうに尻尾を揺らした。


 :前衛も後衛もバランス良すぎ

 :スターリンクのチーム感すごく好き

 :この空気感ずっと見てられるわ


 笑い声とともに、画面越しのコメント欄も温かく満ちていく。

 スターリンク初配信は順調すぎるほどの滑り出しだった。

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