第14話 作戦会議ニャ!
病院を出て少し時間が経ったころには、もう昼近くになっていた。
麗華の回復という奇跡を目の当たりにした彼女たちの胸には、まだ温かい余韻が残っている。
「……さて。麗華も治ったことだし、そろそろ今後についてちゃんと話し合わないとね」
奏がそう言って近くの激安スーパーを指差す。
「ここでお弁当買ってアパートでゆっくり話そう」
それぞれ好みの弁当を手に取り、スーパーを後にした四人は午後の日差しの中を歩いて雫たちのアパートへと向かう。
玄関の扉を開けると出迎えてくれたのは雫と望海の二人だった。
「お姉ちゃん、おかえり!」
望海が元気いっぱいに駆け寄ってくる。
「ただいま、望海」
奏が頭を撫でると妹は嬉しそうに笑った。
雫はその後ろで柔らかく微笑む。
「陽葵さんに知花さん。久しぶりですね」
「わ、雫ちゃん……大きくなったね!」
「相変わらず可愛いわね」
久しぶりの再会に陽葵と知花の表情も和らいだ。
だが、その温かい空気を破るように足元から「ふにゃ」と妙な声が聞こえた。
視線を下げると、そこには丸っこい茶トラ猫がこちらを見上げていた。
「……猫?」
「雫ちゃん、飼ってたの?」
陽葵と知花が同時に首を傾げる。
その瞬間――
「初めましてニャ! ご主人様のご主人様の仲間たちニャね!」
猫が喋った。
「「えっっっっ!?!?」」
二人の悲鳴がアパートに響く。
「ね、猫がしゃべったあああ!?」
「ちょっ……なにこれ!? なにこれ!?」
あまりのリアクションに、望海がケラケラと笑い出した。
「ふふっ、びっくりしてる~!」
その様子を見て、雫も奏もクスクスと笑いをこらえきれない。
「もう……オモチったら、いきなり喋るから」
「だって挨拶は大事ニャ!」
オモチが誇らしげに胸を張ると、陽葵と知花はバツが悪そうに顔を見合わせた。
「……猫が喋ったら、そりゃ驚くでしょ……」
「ほんとよ。心臓止まるかと思ったわ……」
それでも少しずつ笑みが戻り、部屋の空気は柔らかくなる。
昼下がりのアパート。
狭い六畳間にテーブルを囲むように、雫、奏、知花、陽葵、そして望海が並んで座っていた。
テーブルの上にはそれぞれのコンビニ弁当とペットボトルのお茶。
「望海、好きなお弁当を選んでいいよ」
奏が笑顔で差し出すと、望海は目を輝かせる。
「ほんとに!? じゃあ……ハンバーグ弁当!」
「はいはい、どうぞ」
嬉しそうに手を伸ばす妹を見て、奏は柔らかく微笑んだ。
和気あいあいとした雰囲気の中、部屋の片隅では一輝が少し離れた場所に座り、お弁当を手に持ったまま静かに食事をしていた。
「……座る場所がないなぁ」
呟きながらも、どこか居心地が悪くなさそうに笑っている。
そんな中、唐突に――
「さて、今後の計画について話すニャ!」
オモチの声が部屋に響いた。
そして、次の瞬間、白い煙と共に部屋の真ん中にホワイトボードが出現した。
「えっ!?」
「ど、どこから出したの!?」
「い、今の音なに!?」
三者三様に叫ぶ雫たち。
狭い部屋の空気が一瞬で混乱に包まれた。
「そんなことは些細な問題ニャ! 大事なのは未来への戦略ニャ!」
オモチはマーカーをくわえ、器用にボードへ書き始める。
ダンジョン配信計画と、大きく力強く書かれた文字。
「……いやいや、些細じゃないでしょ……」
知花が額を押さえ、ため息をつく。
だがオモチはお構いなしだ。
「メンバーが全員そろった今こそ、動き出す時ニャ! あ、でも、ご主人様のご主人様の……もう面倒くさいニャ! これからはマスターって呼ぶニャ! あと、望海と奏って呼び捨てニャ!」
オモチが奏に顔を向ける。
「もう一人いるニャ? 僧侶の子が」
「あ、うん。麗華っていうの。今は入院してるけど、もうすぐ退院できると思う」
「麗華・ザ・プリースト……名前からして信頼感ニャ!」
「いや、そんなサブタイトルみたいな言い方しなくていいから……」
陽葵が呟く。
「それで、いつ合流できるニャ?」
オモチが尻尾を揺らしながら尋ねると知花が答えた。
「検査結果次第だけど、早ければ明日からは動けるわ」
「それなら完璧ニャ!」
オモチは満足げに頷き、ホワイトボードの端に麗華、明日には合流と書き込む。
「では、本日の議題は準備と計画ニャ! 本格的な配信活動に入る前に、まずは方向性と役割分担を決めるニャ!」
その声に全員の視線が自然とオモチに集中する。
「方向性と役割分担?」
「そうニャ。まず、どんなチャンネルにするか。そして、それぞれがどんな役割を担うか、ここを明確にしておくニャ」
オモチの目がきらりと光る。
その姿に奏たちは自然と背筋を伸ばしていた。
オモチがホワイトボードに【ダンジョン配信戦略!】と大書し、得意満面でしっぽを揺らしていたときだった。
「――ちょっと待て、オモチ」
低めの声で一輝が割り込む。
「なんニャ!? 今、最高にノッてたところニャ! 空気読んでほしいニャ!」
オモチが耳をピンと立てて振り返る。
マーカーを咥えたまま、むすっとした顔。
一輝はそんな相棒を横目にズボンのポケットから小さな封筒を取り出した。
「実はな麗華さんを治した時、ご両親からこれを貰ったんだ」
「んニャ? 手紙ニャ?」
「違う。小切手だ」
一輝は封筒を開き、中身をテーブルの上に置いた。
そこに書かれた数字を見た瞬間――
「っニャああああああ!?!?!?!?!?」
オモチが跳び上がった。
文字通り、天井に届きそうな勢いで。
「い、い、いちおくごせんまんニャ!?!?!?!?」
とんでもない金額に雫は思わず目を丸くした。
知花が半分呆れたように息を漏らす。
「最初は断ろうとしたんだけどな。今思えば丁度よかった。配信活動の資金に当てるつもりだ」
「な、なんという……棚から牡丹餅ニャああああ!!」
オモチは両前足を天に掲げ、部屋中をぐるぐると駆け回る。
「これで機材は全部揃うニャ! カメラもマイクも照明も! 編集用のパソコンも最上級ニャ!!」
尻尾がブンブンとプロペラのように回る。
そのテンションはもはや暴走気味だ。
「最高ニャ、ご主人様!! 愛してるニャーー!!!」
「はいはい、俺もだよ」
一輝は面倒そうに手を振りながら返す。
「素っ気ないニャ! もっと情熱を持って返すニャ!!」
「うるさい、落ち着け。床抜けるぞ」
そのやり取りを見ていた陽葵が笑い、望海もケタケタと笑っている。
雫は頬を押さえて呆れ笑いを浮かべ、奏と知花は顔を見合わせて肩をすくめた。
だが、その空気は不思議と温かかった。
奇跡と笑いと、少しの希望。
今、この場所から星乃姉妹と仲間たちの物語が動き始めていた。
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