第5話 すっごい、進化してるね!
「これはスマートフォンと言って小さなパソコンみたいなものです。電話もメールも出来ますし、ゲームも出来るんですよ」
雫は小さい子供を相手にするように実際に操作しながら一輝にスマホについて説明していく。
「うおおおおおおおお! すげーッ!!!」
「一輝さんは携帯電話を知らないんですか?」
「いや、それは知ってるよ。でも、俺の知ってる携帯とは大分違うね」
「そうなんですか?」
「そうそう。俺の知ってるのは電話の子機みたいなやつだね。スマホよりも小さいんだよ」
「ちょっと、調べてみますね」
雫は一輝の言っている携帯が気になって、すぐに調べ始めた。
一輝は雫がスマホの画面をスイスイと指で動かしているのを横で見て感心していた。
「あ、これですかね」
「そうそう! これこれ! いや~、懐かしいな……」
スマホの画面に映し出されているのはまだ碌な機能も付いていなかった頃の携帯電話だ。
一輝が良く知っているもので懐かしそうに眺めている。
対して雫は今のスマホとの違いに驚いていた。
「昔はこんなに小さかったんですね」
「そうだね~。でも、本当に驚きだよ。今じゃ、こんな薄い板みたいなのが携帯なんだから」
今と昔の違いに一輝は感慨深そうに頷いていた。
「ところで……話は戻るんだけど覚醒の儀はこれでどうやって見るんだ?」
「そういえば忘れてましたね。少し待ってください」
言われた通り、雫が操作を終えるまで一輝は隣で静かに待つ。
雫は探索者協会の公式サイトに掲載されている覚醒の儀についての説明動画を開き、一輝にスマホを手渡した。
「これから再生されますので見ててくださいね」
「わかった」
大人しく言うことに従い、一輝はスマホの画面に注目する。
画面には覚醒の儀で行われる一連の行いが動画になっていた。
大きな棺のような機械に人が入って、外から別の機械で操作して、覚醒の儀が行われる。
雫の言っていたように魔石が砕かれ、光の粒子となり、魔素、経験値と呼ばれるものが棺の中に入っている人間に吸収された。
「これが覚醒の儀です」
「雫もこれをやったのか?」
「はい。勿論です」
「何か身体に異常はないのか?」
「ありませんよ。もしも、あったら大騒ぎですよ」
意外と心配性なのかと雫はクスクスと笑う。
「なんで笑ってるんだ? なにかおかしなことでもあった?」
「いえ、なんでもないですよ。それより、覚醒の儀については分かったと思いますから次の説明に移りましょうか」
「次って言われてもな……。職業の話だっけ?」
「職業については少し複雑なんですが、まず探索者になると無職状態になるんです」
「それはどうやって確認するんだ?」
「確認方法は免許があるかどうかです。剣士なら剣士の免許を貰うんです」
「自動車免許みたいなものか……」
「そうです。だから、探索者になるとなりたい職業の免許が必要になるんです。私は剣士のように前衛で戦えるようなタイプじゃないので魔法使いやテイマー、サモナーを選びました」
「それでサモナーになったと?」
「はい。あとはまあ、家の事情がありましたのでソロで活動出来るということもあってサモナーにしたんです」
「なるほど……」
「そのおかげでこうして無事にお姉ちゃんも一輝さんのおかげで救われたのでサモナーになって良かったです」
心の底から嬉しそうに微笑む雫を見て一輝は照れてしまい顔を背ける。
「ああ、いや、ハハ」
「ご主人様、顔真っ赤ニャ!」
「やかましい!」
からかわれた一輝はオモチの頭に拳骨を落とした。
手加減されているとはいえ一輝の力は凄まじく、オモチは痛そうに頭を擦って泣いてしまう。
「うニャ~!」
そして、甘えるようにオモチは雫のもとへ向かい、すりすりと身体を寄せる。
「ふふ、痛かったね~」
「ニャ~」
よしよしと雫はオモチの頭を優しく撫でている。
オモチも気持ち良さそうに目を細めて、その身を完全に雫へ委ねていた。
「オホン。話を続けてもいいかな?」
「あ、すいません。また脱線しちゃいましたね」
「もとはと言えばご主人様が我が輩を殴ったからニャ!」
「だまらっしゃい!」
ピシャリとオモチを叱りつける一輝はもう一度咳払いをして話を戻した。
「職業についてはなんとなく分かった。あとはダンジョンについてだな。確かダンジョンも種類があるんだよね?」
「はい。ダンジョンは主に三つの種類に分けられています。
「それぞれどういう特徴があるんだ?」
「バベルとラビリンスは下りていくか上っていくかの違いがあって、各層が迷路になっているか、特徴のあるフィールドになってるかどうかですね。ユニークはかなり特殊で一つの世界みたいになってるんです」
「へ~……。俺達が召喚されたダンジョンは迷路みたいに入り組んでいたからラビリンスだったの?」
「はい。新宿ダンジョンはラビリンスですね。結構、人気があるんです」
「そうなんだ。他にも色々と聞きたい事があるけど、今はこれくらいでいいかな」
ひとまず、一輝は自分の知っている日本とは大きく異なるダンジョンや探索者について知ることが出来た。
まだまだ聞きたい事は沢山あるが今は、そんな事よりも今後について話し合うべきであろう。
「それじゃあ、今後について話し合いたいんだけど、雫は探索者を続けるのか? 多分だけど、お姉ちゃんを助けたいから探索者になったんだよね?」
一輝は先程まで四肢が欠損していた奏の治療目的で雫がダンジョンに挑戦をしていたのだと思っていた。
「はい。でも、他にも理由があるんです」
「理由? やっぱり、一攫千金のビッグドリームのため?」
「いえ、違います。病気の母がいるんです……」
「病気か~。ちなみに病名は?」
「ガンです……。それも母は私達にそれを隠して相当無理をしていたらしくステージ4だと医者に告げられました」
「それって、もう余命半年くらいってこと?」
「……もって三ヶ月だそうです。だから、ガンを治せると言われている霊薬を手に入れるまで探索者を続けていきたいんです……」
一輝は霊薬がどういうものなのかは知らないが、雫の言葉を聞く限り、ダンジョンで入手できる万能薬のようなものだと推測した。
しかし、雫の表情から察するにそう簡単には手に入らないような代物なのだろう。
だから、一輝は別の提案をする事にしてみた。
「今すぐ治しに行こうか? ガンを治せるか分からないけど」
「え!? ガンは治せないんですか?」
雫は先程一輝が奏の欠損した手足を再生して見せた事から、どんな病気や怪我であろうとも治せると思っていたが、ガンは治せないと聞いて驚きの声を上げる。
「病気の治療はしたことないんだよ。俺は基本怪我を治してたから」
「……一度見てもらえませんか? 甘えてばかりで申し訳ないんですけど、一輝さんだけが頼りなんです」
「主の頼みだ。任せといて」
ドンと胸を叩く一輝。
自信に満ち溢れている姿は頼もしく、雫は一輝ならば母も救ってくれるに違いないと確信した。
部屋の外で奏にしがみついて泣いている望海の二人に雫はこれから入院している母のもとへ行く事を伝え、病院に行く準備を始める。
今までの苦労が全て報われる日が来たのかもしれないと、束の間の幸せを噛み締めながら雫達は家を出た。
「病院までどんくらい?」
「歩いて40分程でしょうか」
「結構、遠いな。もしかして毎回歩いてお見舞いに行ってるの?」
「はい。タクシーなんかはお金がもったいないので」
「自転車とかないのか?」
「……自転車は盗まれてしまって」
「おう……」
病院まで徒歩40分は疲れるだろう。
貧乏だからタクシーも使えず、自転車は盗まれたと来た。
あまりにも悲惨な話に流石の一輝も言葉が出なかった。
小粋なジョークでも言えたら良かったのだが、生憎ボキャブラリーには自信がなく、一輝は下手に三人を傷つけないよう口数を減らしていくのであった。
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