第10話 幽霊との遭遇
突然の出来事に、動揺して背中をのけぞらせる。
風呂の扉に頭を激しく打ち付けてしまった。痛いながらも風呂の外に出ようと扉に手をかける。しかし、扉は開かず、がたがたと押しても引いてもびくともしない。
あれだけ見てみたいものだ……と思っていた幽霊に実際出会うととてもじゃないが悠長にしてなどいられない。
「先生? どうしたんですか?」
不思議がるような声色で彼女が声をかけてくる。
「た! 助けてくれ!!! 早く開けてくれ!!」
「ちょっと落ち着いてくださいよ……! 先生が扉のところにいるとふさがってあかないですよ……!」
内側に開く仕組みのせいで、扉を抑えるような形になって自分がふさいでいたことに気づく。しかし、そんなことを言われても後ろには女の霊が迫ってきている。
女の濡れた髪が自分の背中に触れ、じっとりと濡れる感覚が気持ち悪い。
それに排水溝から嗅いだ臭いをより強烈に女から感じる。
「先生! 深呼吸! 落ち着いて!」
「馬鹿っ! 深呼吸したらもっと悪臭吸い込むだろ!」
ガチャガチャと震える手で扉を引き、ようやく外に出ることができたのだった。
「な、中に霊が……!」
指をさして霊を見せようとするとそこには誰もおらず。ただ、カビっぽい風呂桶があるだけだった。
「あれ……!? うそ……さっきまでいたんだけど。君、見える?」
「いえ……今は見えません。でも、そこは夢の中でよく見る場所です」
アオギリさんいわく、夢の中で女の人に会うのはこの風呂場が多いと。彼女の話を聞いていくうちにだんだんと冷静さを取り戻してくる。本当に幽霊がいたのか、それとも幻覚か……。もし幻覚だとすれば、彼女の話を聞いており、それを無意識のうちに想像してしまったからに違いない。もし幽霊がいたとすれば、何かしらきっかけがあっただろうか……トリガーとなったのは排水溝を除いたことか?
「この排水溝からの臭い……いつ頃から?」
「そうですね……これも母が出て行ったころに近かったかなと……掃除が行き届いていなくてすみません」
「いや、この家から発生するようなつまりはとってみたよ。けれども臭いは収まらない。建物自体の問題かもしれないな」
へどろが詰まったようなにおいがする。これもマンションの管理がうまくいっていないもしくは、欠陥住宅なのではないだろうか。
欠陥住宅で床が傾いていると、その中で長年暮らしている人が頭痛やめまい、
へたをすると鬱を発病することがある。安心するはずの場所で気づかないうちにストレスをため続けるとそれだけ心身ともに負担がかかるというわけだ。それと同じことが一時的に起こったのだろうか。どちらにせよ自分は念願の幽霊を見る、というミッションを達成したのだ!
さっきはパニックになってしまったが、もう一度、もう一度幽霊を見てみたい。
「この悪臭の原因……外の排水管が詰まってるんじゃないか? 外に出てみよう」
「えっ、もうすぐ日が落ちますよ?」
ぼくが顔を上げると、風呂場の小さな窓から差し込む光は弱弱しくなっていた。気づかなかった。
「暗くなるといっても家の明かりがあるだろ? 大丈夫さ」
マンションから出ると、1階のマンションの廊下にはぽつぽつとしか明かりはついておらず、一部ではちかちかと点灯しているものまである。
先ほど女の幻覚を見た後なので、ワクワクしながら彼女のマンションと隣人の家の間にある下水の蓋を開ける。ふたを開けると、マンションの風呂の中よりも激しく異臭が漂う。
「うっ……!! これは……」
パイプの一部が亀裂しているようで、臭い水が少し漏れている。
「アオギリさん。これを見てくれ!」
中をのぞき込むと、髪の毛がへばりついている。それをつかんで見せつける。
「ひっ……!! やだ、気持ち悪い、ちょっと! こっちに寄せないでくださいよ!」
「こらこら! こういうの見慣れてるんじゃないのか? いいから、ほら。これ、きみの?」
ぐいぐいと目の前にもっていこうとするが、冷たい目つきで断られる。
しかし、一応見てくれたのか、小さな声で私より長いので違います、とだけ告げられた。
であれば隣の家のものか……
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