死神の花が彼女の道を塞ぎ、断った


 * * *



 ――やだぁ、ロビンったら、またそんな難しい顔しちゃって。

 ――ほら! 笑って笑って!


 ロジエは、双子の片割れである私と違って、いつも明るく、優しく、時にはやかましいと思えるほどに喋る姉だった。

 子供の頃、よく私達は間違えられた。けれどもそれは、後ろ姿を見せている時だけ。同じ灰色の長い髪、同じ服装。まるで揃えられた人形のようだったが、正面を見れば、どちらがロジエでどちらが自分か、誰にでもわかった。


 笑わず、よそに視線を投げているのが妹の方、私、ロビン。

 にこにこと笑い、目があえば挨拶をしてくれるのが姉の方、ロジエ。


 しかし八歳の頃に、後ろ姿でもどちらが姉でどちらが妹か、わかるようになった。

 ――ロジエの頭、頂点より少し横にずれたところに生えた、小さな緑色の蕾。

 ロジエは『発蕾』してしまったのだ。短命を約束された。死神に魅入られてしまった。


 幼い頃だったために、私は当初、姉の頭にある蕾の意味を知らなかった。ただ憶えているのは、変わらず姉がにこにこしていたために、それがそんなに悪いものではない、と思ったことだ。毎晩眠る前、鏡に向かった姉は、小さな蕾をつんつんいじっていた。「触ってみる?」と聞かれたこともあり、触れると姉の体温と同じく温かかった。


 月日が経つにつれ、ようやく私は蕾の意味を理解し始めた。街の外に広がる花畑は何なのか。どうしてほぼ毎日、花を持った葬式が行われているのか。蕾を持つ女達は、何故若い者しかいないのか……。


 姉の蕾が色づき、膨らむ意味もひしひしと感じ始める。死が近づいている。あの蕾が、姉の命を吸い取っている。

 あの蕾のせいで、私とロジエは、一緒の道をずっとは歩けない。確かに、いつかは分かれるだろう道だが、あの蕾が、まだ先があったはずのロジエの道を塞いでしまった。


 昨日よりも蕾が憎くなる。今日よりもきっと、明日の方が憎しみが強くなる。けれども私にできるのは、蕾を睨みつけることだけだった。不治の病、呪い。願うだけでどうにかなるものではない。

 そんな私に対して、姉は。


 ――ねえ! こっちの服がいいかしら? でも……薄いピンクにはちょっと似合わない?

 ――本当はこっちの服がいいんだけどね、ほらこれ、上から被って着なくちゃいけないじゃない? でも蕾が引っかかっちゃうから着られないのよ! 下から着ようにも……あっ、ロビンにこの服あげちゃうね!

 ――そうだ! ロビン、いい服持ってたじゃない! この服と同じ色で、前開きの服! あったわよね? ねえお願い、貸して! 服の交換こしなくていいわよ! 借りるだけだから!


 自分の命を削っている蕾なのに、楽しそうに服をあわせていた。

 ロジエが自分の蕾に対して、何を考えているのか、私にはわからなかった。

 もしかして、愛していたのだろうか。

 ……あんなものを?


 とにかく、いつも楽しそうで。儚さなんてものを一つも感じさせず、また悲観している様子もどこにもなくて。


 ――だから、フーシアを見ていると、姉を思いだしてしまうのだろう。

 フーシアは姉とよく似た蕾を持っているから、なおさら。

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