第30話

あらすじ:

国内リーグ本戦第2回戦でLex率いるMRに勝利を収めたCWだったが、次の対戦相手は国内一位のDDではなく謎のダークホースDKだった。DKはReduceとblunoという双子のシンクロを武器に破竹の勢いで勝ち進んでいる。Riv4lたちCWはDKに勝つことができるのか。


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 第3回戦開始の直前────


「…さぁ、今日は情報が他のチームより出揃っていないDKが相手だ」


 場所はいつもの会議室。俺たちはいつもと同じように試合前のミーティングをしていた。


 しかしホワイトボードを囲むみんなの顔つきはいつもと違う。


 眼前のホワイトボードには大量の付箋や書き込みが書いてある。

 全員で何度も試合を見て相手の癖や戦術、セットアップを確認した。それこそ、いつも以上にみんなで時間を取って研究した。自分で言うのもなんだが、よくやったと思うほど。


 それでも、そんな成果の集大成を前にしても。みんなの顔は今までの試合前と比較にならないほどに張り詰めて、異様な雰囲気を纏っていた。


「今日までできる限りの対策をしてきたけど‥‥‥正直、現状では試合の中で立ち回りをカスタムしていってもらう必要がある」


 申し訳なさそうにTasさんが告げる。


 いつもだったら茶化しに入るValkさんやRyukaさんも言葉を発さない。


 全員がただ真っ直ぐにホワイトボードを見つめている。


 DKの立ち回りの核であるReduceとbluenoのシンクロ。試合直前の今に至っても、俺たちはこれに対する明確な回答が出せていなかった。


 知識をつけ、研究を繰り返し、他の策を破る術は概ね頭に入れたと思う。


 しかし他の策をいくら破れど、これを止められなければ俺達は負ける。それだけの力が彼らにはある。


 簡単に止められるなら苦労はしないと思っていた。だけど何かしら対策が見つかると思っていた。


 状況によってはピークの仕方で一対一を作ることができる。リソースを全力で投入すれば相手より限りなく有利な状態で撃ち合える。


 それでも彼らを打ち破るには、恐らくあと一歩足りない。それを俺たちは心の底で感じ取っていた。


「今回最初のマップは南国。ロースターはMythsとRiv4lの2ブレイバーを基本とした構成で行くよ。SigM4は観戦だ。敵の癖や弱点を分析してほしい。今回のキーはブレイバー2人のエントリーだ。Myths、Riv4l頼んだよ」

「任せて」

「頑張ります」


 俺とMythsは顔を向き合わせて頷きあう。Mythsはこんな状況でも楽しめるようで、張り詰めた表情の中にも少しばかりの笑顔が見えた。


 今回の軸は俺達だ。だからこそ俺も気落ちしてなんていられない。


「Reduceとbluenoのシンクロ打ち破るためにセットはいくつか用意した。だけど正直、正面からぶつかるには分が悪い。取れる選択肢がいつもより少なくなることは重々覚えておいて」


 今回の戦術軸である俺とMythsのダブルエントリーと、それを活かしたセットアップ。

 これはReduceとbluenoに対して俺とMythsが裏に飛び込むことで射線を増やし、本隊と挟み込むことが前提の戦術となる。


 持てるリソースをすべて注ぎ込んでサイト内を確保するという半ば無理やりな突破法。


 当然今までの試合と違い、サイト以外のエリアを確保するための勝負にブリンクスキルを使うことはできないし、俺たちがエントリータイミングまで生き残らなくてはその後に続くセットアップの成功率も格段に落ちるだろう。


 だが能動的なエリアコントロールが難しいという大きな問題を許容してでも、俺たちはReduceとbluenoを止めることを選ぶしかなかった。


「さぁ、試合開始だ。頑張って」

「「「「「了解!」」」」」


 気を引き締めろ。試合の中で奴らを攻略してやるんだ。



 ♢♢♢



「…っち!ケイネ110カット!Aメイン通路取られた!最終Bで!」


 試合が始まってから12本目の戦い。現在のスコアは4:7。負けてはいるものの、スコアを見るだけならまだ戦えているように見える。


 しかし実際のところ、俺たちは最初のピストルラウンドと続くセカンドラウンド以外、かなりの苦戦を強いられていた。


 今もA側通路のエリアを取ろうとしたRyukaさんとカバーに入ったFaiceさんがやられたことで、Bサイトに行くしか選択肢が無くなった。


 俺とMythsは急いで持ち場について、それぞれ決められたエリアを確保するためにブリンクスキルを使ってエントリーを行う。


 後続のValkさんは急いでスモークを炊くものの足並みが崩れてしまい、飛び出してきた相手にやられた。残るはサイトに飛び込んだ俺とMythsだけだ。


 そう、今回は試合のペースが常に相手に握られている。これが思うように立ち回れない理由の一つで、苦戦している大きな要因だ。


 CWというチームは俺が入るまでMythsの撃ち合いの強さと嗅覚、そしてそれを支えるために他のメンバーがスキルを回すというのを徹底していた。


 今では俺が入ったことによりコンセプトも少し変わったが、Mythsに勝負させて体でエリアを確保するという戦略は俺が入っても変わらないCWの強みの一つだった。


 しかし今回はブレイバーの俺とMythsがエリアを体で取りにいけない以上、ドローンやスモーク、そして俺とMyths以外のメンバーが体で取りに行くしかなくなってしまった。


 当然使えるスキルも限られているこちらと、潤沢にスキルを使えるDKではエリア確保のしやすさにも大きな違いがある。


 実戦と机上論は全く違う。DKの誇る双子コンビのシンクロを止めるための作戦が、結果的に俺たちの足を引っ張り、地獄の底へと引きずり込もうとしていた。


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