第2話 古の魔術師
馬での移動は順調で、途中から山道に入ったが魔物や獣に出くわすこともなかった。大神殿の管轄というのもあり治安もよいのだろう。
退屈な道中、封印されたという
――昔、大きな古井戸に少し変わった
「村を捨てて別な所に移り住めばよかったのに……」
「それは無理だろうな。領主が許さないだろう。新しく村を興すには金も人も時間もかかる。それなら小さな村一つなら潰してしまったほうが得と考えるかもな」
(酷い話だ。でもこれは今も変わらないんだろうな)
「さて、この辺りだと思うが……。まだレアペニア家の者は来ていないようだな」
レンニがそう言うと、そこには荒れ果てた廃村の光景が広がっていた。
「ここ?」
「その村があった所だ。既にこの有り様だがな」
「なんだか寂しいですね」
リーシャはそう答えながら、奥の方から『何か』を感じとっていた。
「ん? どうした?」
レンニは、リーシャが廃村の奥を見つめているのに気が付き声をかける。
「廃村の奥のほうに何かあります」
「これが判るのですか? なかなか優秀な方とお見受けします」
突然、二人は背後から声をかけられた。
「誰だ?」
「誰?」
リーシャとレンニは声のするほうに向き直り剣に手をかけた。
そこには貴族と思われる若い男が一人立っていた。
「これは失礼を致しました。ここの管理をしておりますレアペニア家のアルヴィスと申します」
アルヴィスと名乗った男はそう言うと、右手を体に添えてお辞儀をした。
「アルヴィス……?」
レンニが何かを考えるような表情を見せた。
「私の名前がどうかしましたか?」
アルヴィスはにこにこしながらレンニに尋ねた。
「いや、失礼。レアペニア家からは数人で来ると聞いていたのだが、他の方々は?」
「私、一人ですよ。皆さん、忙しいらしくて下っ端の私が押し付けられてしまいました」
「それは大変だな。治安がよいとは言え魔物が出るかもしれない山奥まで。俺はレンニ。彼女はエルフのリーシャだ」
レンニが紹介してくれたので、リーシャは小さく頭を下げた。
「レンニ殿にリーシャ殿ですね。宜しくお願いします。……あれ?
そう言うとアルヴィスはちょっと不思議そうな表情を見せた。
「何処かでお会いしたことありますか?」
表情が気になったリーシャが問いかける。
「いえいえ、なんでもありません。さぁ、『封印の丘』に案内致します。魔力の流れが見えている
そう言うとアルヴィスと名乗った男は、廃村の中を歩き出した。リーシャとレンニは辺りを警戒しながら彼に続いた。
「あっ、そうそう、この付近には魔物や獣の類は出ませんよ」
警戒をしている二人を見てアルヴィスは笑いながら話しかけた。
「どういうことだ?」
「簡単な理由ですよ。封印されているといっても竜ですからね。近寄り難いのでしょう」
「えっ? 竜?
リーシャが聞き返した。
「あぁ、ワームと勘違いされましたか。たまに間違う人がいるのですが、ここに封印されているのは間違いなく竜ですよ。腕も翼も無いので芋虫みたいですが」
「……。レンニ、知ってました?」
「いや……。司祭が間違ったのか? その話が本当なら二人で来る内容ではないだろう」
「どうします?」
「うーん。どうするか……」
「封印が解かれている訳ではありませんから大丈夫ですよ」
レンニが考え込むのを見ていたアルヴィスは彼に行くことを進言した。
「確かにな。それにここまで来てるしな。まぁ、見るだけ見てみるか」
少し考えた後、レンニは向かうことを決めた。リーシャは、レンニの言葉を聞いたアルヴィスの口元が笑ったように見えた。
「見えてきました。あれが封印の丘です」
見た目は頂きに石が少し散らばっているだけの丘だが、よく見ると魔法陣が見える。
「俺には魔法陣があるのは判るが……どう見える?」
「細かい亀裂が入っているような感じです。今直ぐにというのは無いと思いますが、大きな力が加わればこの魔法陣は簡単に壊れると思います」
「素晴らしいですね。普通はそこまで見えませんよ。よくてレンニ殿と同じです。エルフでもなかなか居ません。流石、アールヴといったところですかね」
「ん? アールヴ? 何ですかそれは?」
「おっと、これは失礼。エルフということでしたね」
アルヴィスは悪怯れる様子も無くニコニコとしていた。
「別に隠してはいません。私はその……アールヴ? ではなくエルフです」
(この男は何を言っている? 自分はエルフだ。そもそもアールヴなんて聞いたこともない種族だ)
「おや、その反応。本当に知らない? ……なるほど」
アルヴィスはリーシャの反応から何かを察したような表情を見せた。
「彼女はエルフだ。神殿もそう認めている。それにアールヴなんて種族は聞いたこともない」
レンニも否定した。
「そうですか。神殿がねぇ。まぁ、実際のところ私はどちらでも構いません。興味があるなら後で神殿のお偉いさんにでも聞いてみて下さい」
さらに「ここから無事に戻れればですがね」と小さく呟いたのをリーシャは聞き逃さなかった。
「何? 司祭は知っているということか?」
「レンニ、私のことは後にしましょう。戻れば判ることなら、それでいいではないですか」
「それはそうだが、気にならないのか?」
「気にはなりますが、ここで問答をしていても話が進まないでしょう。話す気があるならこんな言い方はしないでしょうし。それよりも彼は封印の状態が見えているようです。本当にここを管理している貴族なのですか? 自分で判るならわざわざ神殿に依頼をする必要もないでしょう」
「それに『無事に戻れれば』とはどうゆう意味ですか?」
リーシャはアルヴィスの発した言葉について確認をした。これから起こる何かがあるのだろうと思われたからだ。
リーシャはアルヴィスに向き直ると剣に手をかけてみせた。
「あっ、つい独り言が出てしまったのが聞こえてしまいましたか。これは失敗ですね」
アルヴィスは笑みを浮かべながら答えた。
「お前は何者なんだ?」
レンニはゆっくりと剣を抜き始めていた。
「それは止めておいたほうがいいですよ。戦う気はありませんが、殺される気はもっとありません。さて、このままでも構わないのですが、そろそろ……」
そう言うと若い青年の姿が崩れ、灰色のローブを纏い手に杖を持つ姿になった。フードに覆われて顔は見えないが、声からしてある程度の年齢なのだと思われた。
「儂は古い魔術師じゃよ」
「貴様、本当のレアペニア家の使いはどうした? 目的はなんだ?」
「答える義務はないのだが、まぁ、いい。あやつらは今頃は夢の中じゃ。殺してはおらんよ。目的も大した理由ではない」
「あなたが村人に封印の術を教えた本人で、その効果が切れるのが判っていたから様子を見に来た?」
「ふむ。いい線いっているな。確かに術を教えたのは儂じゃ。ただの酔狂だったのじゃが、ちょっとこの竜が入り用になったのでな。来てみたら丁度お前達がいたのじゃよ」
「酔狂?」
「そうじゃよ。面白そうだったのでな」
「封印できなかったらどうしたの?」
「別にどうもせん。儂には関係の無いことじゃ。まぁ、村人達は皆殺しになるかもしれんが、その時はそれが運命だったということじゃろう」
「酷い……」
「別に酷くはない。村人に選択の一つを与えたのじゃよ。無理に押し付けた訳でもない」
「……お前は『全てを知る者』?」
レンニは何かを思い出したかのように口を開いた。
「何ですそれ?」
「アルヴィスという名前を聞いて気にはなっていたのだが……。いつから生きているのかも判らない伝説の魔術師。この世界の全てを知っていると言われていることから『全てを知る者』と呼ばれている。魔術にも長けていることから『完全なる賢者』とも」
「お前さんが知っているとは驚きじゃな。まぁ、只の古い魔術師じゃよ。」
「
「そろそろ雑談にも飽きてきた。さて準備はいいか?」
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