天才百合メーカーがーるず!!

青葉寄

解釈違い

「見損なったよ、春乃」


 景が私に向かって静かに言った。

 夕日の差す教室にはわたしたち二人しかいない。部活動の掛け声が遠くから聞こえる中、景の涼やかな三白眼がわたしを射貫く。


 ずっと、二人でやってきたことだった。だから、今回も景の意見もきちんと聞き入れるべきだということはわかっている。


 ――でも、これだけは譲れない。


 窓を背に凛と佇む景を見つめながら、わたしは静かに息を吐いた。


     ◇


 やっぱり女の子って最高だ。

 柔らかくって、いい匂いがして、なにより可愛い。マザーグースは「女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かでできている」という詩を書いたらしいけれど、その人はわたしの前世かもしれない。


 そこで、わたしは考えた。素敵な女の子が二人いたら、――その二人が恋をしていたら、もっと素敵になるに違いない、と。



「リカ、ミオに告白したって」

 放課後、教室にやってくるなり景は早口で言った。部活を終えてすぐに走ってきたのか、艶やかなロングヘアが微かに乱れている。

 わたしは周囲にささっと目線を走らせ、人がいないことを確認した。他人の恋の話をするならば、最低限の配慮を忘れてはいけない。

「どうなったの?」

 呼吸を整える景に、わたしは真剣な面持ちで続きを促す。

「それは……」

 景は暗い顔でじっと黙った――かと思うとすぐに表情を一変させ、綺麗な笑顔を浮かべた。

「もちろんOK。カップル成立だね」

「やったぁ! やっぱりわたしたちって天才!」

 わたしたちは手を取り合い、喜びを二人で噛み締めた。


 現在このクラスには女の子同士のカップルが五組いて、これらはすべてわたしと景の策略によって恋愛関係に発展している。去年のクラスで作った女の子カップルはたしか四組だったから、記録更新だ。

 なんでそんなことをするかって? ――だって、素敵な女の子が、クラスのダサい男子と付き合うなんてありえないんだもん。

 素敵な女の子には、素敵な女の子がお似合いだ。


 わたしが机に頬杖をついて幸福に浸っていると、景が教科書をカバンにしまいながら「そういえば」といって話を切り出した。


「ユイカの相手だけど、もう考えた?」


 ユイカというのはこのクラスの生徒で、現在恋人なしのフリー状態。――そして、わたしたちが次に狙っている子だった。

 わたしたちの目標は、このクラスの女の子全員に彼女を作ること。そのために、わたしたちはちょっとしたお手伝いをするのだ。


 わたしはにっこり笑って頷く。


「もちろん。最初から『この人以外考えられない!』って子がいたからね」

「私もだよ。じゃあ同じ人かな」

「やっぱりわたしたち気が合うね」


 わたしがそう言うと、景はふっと口元にクールな笑みを浮かべる。


 これまで、他クラス他学年を合わせて二十組近くの女の子カップルくっつけるお手伝いをしてきたが、景と意見が対立することはなかった。彼女とは考え方がとても似ている。

 きっと今回も、ピッタリと意見が一致するはずだ。

「ユイカちゃんの相手は……」

 わたしたちはお互いの顔を見つめ、笑顔のまま同時に言った。


「アリサちゃん」「ナナコ先生」


 真冬のような冷たい空気が一筋、わたしたちの間に走った、……ような気がした。

「え」

 二人の声が合わさる。


 時間が止まった。

「……景?」

「春乃……」

 わたしたちはじっとお互いの顔を見つめた。

 脳内で情報を咀嚼する。さっき景はなんと言った?

 ――ナナコ先生。

 確かに、彼女はそう言ったのだ。


 頭の中で火花が散った。

 景も同じだったのか、椅子を背後に突き飛ばすように二人同時に立ち上がる。


「なんでなんで!? どう考えてもユイカちゃんにはアリサちゃんでしょ!?」

 わたしは大声で言う。教室に人がいなくてよかった。

「春乃、それ本気で言ってるの?」

 景がじとりとわたしを睨む。


 解釈違い――キャラクターや物語に対する解釈が他者と異なること。

 度々オタクたちの間で勃発するカップリングに対する解釈違いは、今まで多くの論争を巻き起こしてきた。その議論が収束することは、基本ない。


 わたしは胸に手を当て、声を張って言う。

「だって、ユイカちゃんとアリサちゃんは幼馴染だよ? 幼馴染カップルは王道。王道こそ至高! アリユイ以外考えられないよ!」


 景はゆっくりと首を横に振る。

「王道なんて飽き飽きよ。やっぱりここは先生×かける生徒。恋は障害の多いほうが素敵でしょ?」


「そんなの倫理的にまずいよ!」

「百合の世界にそんなのは関係ない」

「関係あるよ!」

 

 わたしたちは喧嘩前の猫のように互いを睨み合う。


「見損なったよ、春乃」

 景が冷ややかに言う。

「そっちこそ。景は何もわかってない」

 わたしも負けずに鋭い声を出した。


 ピリピリとした空気がわたしの頬を叩く。


「わかった」

 そう言って、景は私に背を向けて歩き出した。わたしは息をのんでそれを見守る。

 景のしなやかな指が教室の扉に触れたとき、彼女はくるりと体を反転させた。

「じゃあ、勝負だね」

 景が高らかに宣言する。長い黒髪が、さらりと宙を流れた。


 こうしてわたしたちは、ユイカちゃんがどちらの相手とカップルになるかを競うことになったのだった。

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