34.たとい、それが恋愛でなくとも
*
夜。
そう。気付くと夜になっていた。さっき夜が明けたばかりだと思ったのに、もう日が暮れている。
誰もいない小食堂にひとり、ぽつんと
「へこんでんのか?」
突然投げかけられた
「
「ああ」
鬼打木さんは、だらりと長いスカート
「やっと
そう云えば、ずっとこの人の姿を見なかった。――今更ながら、立破さんはそう考える。
「あのさあ」
「はい?」
「切なさとか、よくじょう、とかが湧いて出た時、横隔膜と下ッ腹辺りに、なんかこないか」
「そう云えば、くるかな」
「あれは、「胸がひずむ」って云うんだ」
「そうなのか?」
「さあ」
「さあって……」
「少なくとも、そう云ったほうが美しいのは確かだ」
酔っているのだろうか? と思っていると、鬼打木さんは
「呑むか?」
立破さんは黙って受け取り、勢いをつけて、ぐっと流し込んだ。アルコールの刺激とよく冷えた炭酸の刺激が腹の底まで一気に到達する。胸につまったのは感情ではなく炭酸だ、と自身に云い聞かせる。顔を上げると、鬼打木さんはずっと彼の顔を見ていたらしい。にやりと笑って立破さんの背中をぱん、と叩いた。
「立破さん。あんた、松ぼっくりちゃんのことが、好きか」
無言で
「たとい、それが恋愛でなくとも、人とは、あるいは恋愛以上に深い人間関係を誰かと結べるものではないだろうか。少なくとも私はそう考えるが」
「――……。」
「あんたと松ぼっくりちゃんならば、それが可能なように思うけれど?」
「そうだな。――そうかも知れない。オレと彼女は、きっと初めから違ったんだろうな。恋愛とかってものとは」
「恋愛は、理想や信念、哲学が同一だからと云ってできるものじゃあねェよ。同じ夢を追っているからといって、理解し合い、愛し合えるというものでもない。そして恋愛関係にあるからと云って、理想や信念、哲学が理解されるとは限らない」
「――そうだな」
「果物も喰え」
「……ああ」
しゃくりと噛み潰す。リンゴの果汁が口の中いっぱいに広がった。
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