20.神さまだ
松ぼっくりちゃんと
「
風に乗って届いたのは、確かに、鈴をふったかの如き繊細な
「はい?」
対する
「珸瑶瑁先生は、とても素敵なものに行き当たった時、困ったなぁって思う
「素敵なものに、ですか?」
「ええ」
松ぼっくりちゃんは、少し足許の草を引いてから、ぱらぱらと風に飛ばして、にこりと笑う。それから、爪に入った土を削り出して、ぱんぱんと払った。
「素敵な音楽をきいたり、素敵な本を読んだり、素敵な方に逢ってしまうと、わたくしダメなんです。とても泣きたくなってしまう」
「それは――切ないという想いですね」
「ええ」
そこで松ぼっくりちゃんは本当に本当に、切なそうに微笑んだ。小首を傾げた風情は、愛らしい本物の花のように、
「神さまだ――と、思ってしまうのです」
「松ぼっくりちゃんは、神さまを信じていらっしゃる?」
「いいえ。そうではなくて、その素敵とめぐり逢えたこと、そのものが「神さま」のようだと思うのです」
「神さまは、個絶した存在ではなく、『現象』だとおっしゃるんですね」
「はい。――それで、
珸瑶瑁先生は、静かに松ぼっくりちゃんを見つめた。
「やはり、松ぼっくりちゃんは、一筋縄でゆくお子さんではありませんでしたね」
「え」
「
何を云っているのかわからない――と松ぼっくりちゃんは首を横にふった。
珸瑶瑁先生は突然、そして初めて、ほんの一瞬だけ、本性を
「貴女は、私が考えていることと同じことを、その唇で語る。〈神〉が『現象』なのだと云い切る。――貴女と云う人は、実際
とたん、松ぼっくりちゃんの表情は
「寒気」
ぽつり、と言葉までが氷のように落ちる。
「そう。寒気です」
松ぼっくりちゃんの
「あの――」
「はい」
「それは、あの」
「はい」
「何か、わたくしは悪いことを申し上げたのでしょうか」
「はい?」
「あの――その、寒気、と云うのは悪い意味なのでしょうか」
「とんでもない」
「松ぼっくりちゃんは、すぐに何でも
珸瑶瑁先生は、一つ前髪を
「松ぼっくりちゃんは、十二のお子さんのお姿なのに、内面はとても
「稀有」
「はい。稀有なのです」
「では、あの、珸瑶瑁先生は、わたくしが子供だと思ってらっしゃいますか」
「正直、今までそう思っていました。そのことは否定いたしません。
「あいつ、あんなこと云うて――」
「しっ!」
ムッと眉をよせて我知らず
三人は再び息をひそめて続きを待つ。
「――でも、それも撤回します」
金木犀の
「貴女は、十二分に立派な個人の意思を持った方です」
松ぼっくりちゃんは、あの
珸瑶瑁先生は、さらさらと微笑んだままでいる。ただ、それはわずかばかりに含みある光を
それを知ってか知らずか、松ぼっくりちゃんは赤い頬を小さな掌で
「では、あの、
珸瑶瑁先生は、ほんの少しだけ眼を見開いて、それから、さらさらと笑った。
「私は、松ぼっくりちゃんのそんな部分を、特に好きですよ」
後ろで盗み聞いていた三人の顔も、何時の間にか赤くなっている。お互い顔を見合ったことによって初めてそのことに気付き、また黙って
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