第二話⑴
二
俺の名前は鵜狩、
だが、職場でみせる俺の顔はちと違う。五十人ほどの少女を束ねる役割を担っているのは名目上の最高責任者である支配人よりも、副支配人たるこの俺だ。実質的な最高権力者として、さぞかし彼女たちから畏怖の念を抱かれているに違いない。
というのも、俺は常に彼女たちに対して厳格な態度を一切崩すことはしない。多感な思春期を過ごす少女たちにちょっとでも隙をみせればすぐにつけ上がり、たちまち統制がとれなくなるからだ。何度となく俺の叱責で彼女たちの目に涙の粒を浮かべさせているが、後悔も妥協もしたことはない。
俺のモットーはただ一つ。「ネバーランド ガールズ」を日本一のアイドルグループに仕立て上げること。それだけだ。いわば、俺は「仕事の鬼」と言って差し支えない。
梅雨がようやく明けた七月下旬の土曜日、俺は長野県は白樺湖にほど近いとある別荘に来ていた。シングルCDのカップリング曲のミュージックビデオ(MV)撮影のためだ。カップリング曲とは、タイトル曲以外の楽曲のことで、アナログレコードでいうところのB面にあたり、なかなか一般的には日の目を見ることはないのだが、コンサートで最も盛り上がる楽曲に成長する例もたびたびあり、その制作過程でもタイトル曲同様に一切手を抜くことはない。一分一秒でも気を抜くことは許されない。
とはいえ、前言を翻すようで恐縮だが、俺はさきほど撮影現場となっているリビングをこっそりと離れ、若干の後ろめたさを覚えながら、スタッフ用の控え室となった別荘の客間のひとつに一人きりでいた。
「センター? そりゃ、シゲに決まってるだろ! 俺は忙しいんだから、もうかけてくるなよ。頼むよ」
我しらず大きな声で喋ってしまったスマートフォンでの会話を打ち切り、足早に部屋を出た。
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