かりんとう!2
鮎崎浪人
第一話
一
その別荘のリビングの入り口近くで逃げ道をふさぐように、一人の少女が昂然と胸を張って室内の人々と対峙している。広さは九十㎡ほどを誇っているが、八十人ほどがぎっしりと詰め込まれたその空間には、隣り合っている人との隙間はほとんどない。
大勢の注視を浴びているその少女はなんら臆することなく、それどころか自らがその場の主役であることを十分に意識しているような不遜とも言える表情で、左手を額にかざしながら居並ぶ面々をぐるりと見やった。
「みなさん! いいですか、今から『かりんとう!』をやります! わたしが『せ~の』って言ったら、こうやってください。いいですね」
少女はそう言って、両足をぴたりと揃えて直立した。それから、勢いよく頭の上までぴんと両手を伸ばし、その両手で大きく緩やかな円を作ると、全身をやや右斜めに傾ける。しばらくしてそのポーズを解くと、元気よく右手を上げて、
「それでは、いきますよ!
みなさん、こんばんは~! 浅草生まれの和菓子屋の娘がアイドルになりました!
『ネバーランド ガールズ』で一番かわいくて面白い、日本とインドのハーフ。『シゲちゃん』こと、みなさんが大好きな
深々とお辞儀をしたまま数秒間静止し、そして顔を上げた少女は満面の笑みを受かべて、
「それでは、みなさ~ん! いつものアレ、やります! 一緒にお願いしますっ! せ~の・・・」
ひときわ高らかな声が部屋中に響き渡る。
「『かりんとう!』」
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