少女破壊紀行
立談百景
第一話「高千穂神宮」
第一話「高千穂神宮」 - 01
壊したい壊したい、なんでもいいからぶっ壊したい!
春は破壊の季節、夏は破壊の季節、秋も冬も破壊の季節。私は日がな一日、年がら年中、とにかく何かを壊すことばかり考えている。
私の最初の破壊の記憶はベビーベッド、自分の背よりも高い柵に閉じ込められていたのをヘッドバッドでぶっ壊して外に出た。だから私の頭は少し平らなところがある。あの快感は忘れられそうにない。それから家中の壁やテレビや床や扉を壊し、家を滅茶苦茶にすると両親は絶望的な顔をしていた。それでも私は破壊を止められない。破壊と解放こそが私の原風景なのだ。
幼稚園では遊具を壊し、小学校では教室を壊し、中学校では校舎を壊し、そして高校二年生になった私は実家のクソデカい神社の本殿をぶっ壊して、どうしてあのときベビーベッドと家をぶっ壊して滅茶苦茶にした私を両親が絶望的な顔をして見ていたのかを知る。
私には世界を壊す力があるのだ。
めちゃくちゃ大事な祈祷を執り行っていたらしい本殿の中には一族郎党ほとんどの人間が揃いしていて、それは何をしようとしていたのかと言えば、私を生贄にして何かを鎮めようとしていたのだと言う。
――月明かりが、眩しすぎるくらい眩しい夜だった。
秋口の虫がシャンと鳴くと、それはむしろ静けさを際立たせた。
「
私の名を誰かが呼ぶ。
本殿の破壊に巻き込まれなかったのは唯一境内の警護をしていた鎧介おじさんだけで、私は親や兄弟を含めて一族の全員が嫌いだったけど、おじさんのことだけは、まあ、割りと嫌いではなかった。
祭祀の夜にも関わらずいつもの装束のまま駆け付けたおじさんは、本殿の大黒柱を素手で殴って折りきった私を、恐怖とも絶望とも違う顔で見ていて、それは少し悲しそうな顔にも見えて、だから私はこの人が嫌いになれない。
「おじさん良かったね、生き残ってて」
高千穂神宮を守る由緒正しい盾田一族は、これで潰える。
「十七のガキにいきなり死ねって言ってさ、はいそうですかって受け入れられるわけないじゃん」
そう、私は生贄になることを受け入れられなかった。
別に死ぬのが嫌だったのではない。
それを私に隠して隠して甘やかして育ててそれじゃあいままで満足しただろみたいな感じで生贄になることを受け入れさせようとした奴らにこの命を預けるのが嫌だったのだ。
だから壊した。
おじさんは何を言うでもなく、ただ私のことをジッと見ていた。
慌てた様子もなく、一族の死を悲しむ様子もなく、ただ私を見据えていた。
私はおじさんにもう一度何かを言おうとしたが、しかし後ろから、誰かが私のセーラー服の袖を引っ張る。
そこにいたのは、ンミユだった。
「なんであんたがここに……」
ンミユ・ウォルター・ミヮラカン。少し前に知り合った……友だちだ。エチオピアから来たという、赤褐色の肌の美しい、本人曰く「冒険家」らしい。
「ナホ、油断しちゃだめ」
一八〇センチに届こうかというその堂々とした大きく細長い身体を、しかし一五〇センチに届かない私の小さな身体に隠すようにおどおどと、ンミユはおじさんの方を指さす。
おどおどと、びくびくとしながら、弱気を隠そうともせず、それでもンミユははっきりと言った。
「あのひと……ナホを殺そうとしてます」
ばっ、と。私はおじさんの方を見る。
おじさんの顔はやはり表情なく――そして、装束の懐から、静かに白鞘の短刀を取り出した。
虫が鳴き止み、おじさんの草履が本殿への石畳の上で、ざりっと鳴った。
次の更新予定
少女破壊紀行 立談百景 @Tachibanashi_100
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。少女破壊紀行の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます