第十話

 十

 

 植木はまさしく驚嘆の思いで、神希成魅を見やった。彼女に対する印象が一変していた。

 そうか、そうだったのか。さっきまで、やたらと騒がしいだけで周囲の空気を読めない少々オツムの足りない娘だと思っていたのに… あれは見せかけで、いわゆる「キャラ」というやつだったんだな。ほんとは、すごく賢い子だったんだなあ。

 植木がしみじみとそんなことを思っていると、「あ、思い出した! 神希! このバカ野郎が!」という副支配人の鵜狩氏の怒声が轟いた。

「昨日のブログ、なんだこの内容は! 『この前のテストの結果です。国語十三点 数学0点 社会十一点 理科二点 英語七点 ちなみに百点満点です(笑)』だと?

 リアルに点数低すぎて、ちっとも、笑えねーよ! 全国に堂々とバカさらして、どうすんだよ!」 

「だって、ホントのことだも~ん。ちょっと、面白いかなと思って。ノリですよ、ノリで書いちゃったんです~」

「いくらほんとのことだって、書いていいこととダメなことがあるだろが。まったく、お前ってやつは」

 神希は、ひどく情けなさそうな表情になって、かぼそい声を発した。

「しょんぼりシゲ~」

 やれやれ。前言撤回。あやうく大きな勘違いをするところだったぜ。

 植木は、ソファに合わせて据えられたテーブルに目を移した。テーブルの上には、茶褐色のお菓子が盛られた小皿。植木は、かりんとうをひとつ摘みあげて(神希の実家の和菓子屋で作ったものらしい)、口に含んでみた。

 かりんとうは、サクサクとした食感とほどよい甘さが癖になりそうな味であった。植木は、照れた表情で少し頬を赤らめながら、小さな声で呟くように言った。

「おいシゲ~」


(了)

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かりんとう! 鮎崎浪人 @ayusaki_namihito

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