第6話 トーナメント戦、始まる。

控室に帰ると、セクスは抱えていたメメイを降ろしてベットにゴロリと寝ころんだ。

 

「…チッ、硬い」


 メメイは連れ込まれたのに、何もされないことを不思議に思って、恐る恐る口を開く。


「あ…あの…」


「あ? ああ、ホントは今すぐお前を抱きたいが、俺はヤると死んじまう呪いにかか

 ってるんでな。残念だがお預けだ。…チッ、生殺しだぜ。ったくよ…」


「そうなんですね。あの、その…お礼を…ありがとうございました。さっきのアレ…

 他の方たちから私を守って下さったんですよね?」


チラチラとこちらを見るリタにセクスは鼻を鳴らす。


「俺はやりたい事をやっただけだ」


「改めまして。私、メメイって言います。その…人間とゴブリ族の…ハーフです」


「やっぱりか、ゴブリ族のハーフとは珍しいな。あ、俺はセクス」


 多種族同士の交配はとても出産率が低く希少価値があり、研究者やコレクターに

高値で取引されるため、人さらい達から恰好の的にされている。


「はい。騙されて攫われ、ここの闘技場のオーナーに奴隷として売られました。

 その後は散々弄ばれた挙句、飽きたからとここの掃除婦にされて…うぅ…グス」


「あぁ、そういうのはいい。嘆いたところで過去は変わらん。それより、

 お前はもう俺のもんだ。今後、他の男の相手は絶対するなよ?

 言い寄ってく奴がいたら俺に言え。ぶっ殺してやるから。いいな?」


すると暗い顔をしていたメメイは、少し困った顔をしながらもフフっと笑った。


「…はい、そうします。 では私は仕事の続きをしてきますね。あの…仕事が終わっ

 たらまた来ますね」


そして何度もセクスにペコペコ頭を下げながら部屋を出て行った。


「…まぁこれでトーナメント中、退屈しなくて済みそうだ」


セクスは大きく欠伸をして目を瞑り、仮眠をとるのだった。


◆◆◆◆


 ――しばらくして、部屋の天井の隅に備え付けられた魔法スピーカーから声が響いた。


《セクス選手、第一試合が始まります。闘技場の方までお越しください》


「…ん? 俺の番か。さて、一丁やってやるか」


 セクスはベッドから跳ね起きて大きく伸びをして体を解して、闘士の待機場へと向かった。


一方その頃、リタとココットは観客席でセクスの試合が始まるのを待っていた。


「いよいよですね。大丈夫かな…セクスさん」


「問題ありません! セクス様ならすぐ優勝ですぅ!!」


「リタちゃんのセクスさんへの信頼度高すぎィ…。でもまぁ

 魔族を一撃で倒した実力があるんだし、いけるよね」


《皆様お待たせいたしました。次のトーナメント戦の準備が整いました。

 第四試合、セクス闘士VSゲスール闘士の試合を執り行います》


  わあああああ!!と大歓声と紙吹雪が舞う中、闘技場の北と南の両端の扉が開き、そこの片方からセクスが、もう片方からゲスールと呼ばれた男が現れた。


「あ、出てきた!! セクスさーーん! がんばってくださーーい!!

 もし負けたら明日からは野宿なんですからねぇ!!」


 セクスは試合場の中心に向かって歩く。闘技場は吹き抜けになっていて、試合場を見下ろすように観客席がぐるりと並んでいる。


「…アイツら、ちゃんと俺に賭けただろうな?」


セクスが中央まで行くと、相手の男が額に青筋を立ててこちらを睨んでくる。


「てめぇ…よくもやってくれたな」


「あ? 何の事だ?」


「しらばっくれるな!! あのゴブリ族の女奴隷を横取りしたのは

 お前だろが!!」


相手はメメイと揉めていた男だった。


「…ああ、アンタか。いくら奴隷でも相手を選ぶ権利はあるだろ。恨むんなら

 ムサイ男に生まれた自分か、親ガチャ失敗を恨むんだな」


「ぐぎぎっ!! コイツ!! ぶっ殺してやる!!」


《それではルールを説明します》


アナウンスと同時に、地面から数々の武器がズラリと並んだ棚がせり上がる。


《無制限の一本勝負。武器、魔法の使用は自由です。相手を殺すか、無力化させれば

 勝ち。ギブアップでも可とします》


 セクスは適当に近くに立てかけられた片手剣を手に取る。相手のゲスールも鉄のハンマーを握りしめ、鼻息荒く構えた。


《それでは……はじめ!!》


ジャ~~~~~~ン!!という銅鑼の音が鳴り、大歓声が響く。


「うおりゃあああああああ!!」


ゲスールが雄たけびを上げながら、ハンマー振り上げて突進してきた。


「さてと…」


「もらったあああああ!!」


 ゲスールがハンマーを振り下ろす。しかしセクスはオーバーリアクションでそれを躱す。ゲスールはそのまま横にハンマーをフルスイングする。だがこれもセクスはわざとらしく悲鳴を上げながら避ける。


「くっ、この野郎!! 逃げんじゃね!!」


「ウワー、タスケテーコロサレルー」(棒)


 こうして闘技場舞台でセクスとゲスールの追いかけっこが始まった。


「な、何してるんですか? セクスさんは…」


「おそらくオッズの操作をしてるんだ思います。開戦時はお互いのオッズは同じ

 ですが、試合の内容でリアルタイムでオッズが変動します。セクス様は自分を

 あまり強く見せない様にして自分のオッズを吊り上げようとしてるんですぅ」


「せ、せこい…」


舞台ではセクスを追い回していたゲスールの動きが、段々と鈍くなっていた。


「ぜぇ…ぜぇ…ま、待ちやがれこの…」フラフラ


「…ふむ、そろそろかな」


セクスは逃げ回るのを止め、踵を返してゲスールの元に駆ける。


「…お!? この…う、うおりゃ!!」


 ゲスールはハンマーを振るも体力の残っていない、へなちょこな攻撃がセクスに

当たるはずもなく…。


「はい、じゃあお疲れさん」


 懐に入ったセクスがゲスールの鳩尾にパンチを放った。食らったゲスールはグハッと腹を抱えたまま、バタリと倒れてピクピクトと痙攣しながら動かなくなった。試合が決した銅鑼が鳴り、腕を上げセクスが勝利を宣言する。が、余りに盛り上がらない試合内容に拍手はまばらで所々でブーイングが起こっていた。


「うむ、狙い通りである」


セクスはわははと笑いながら舞台を去って行く。


「ココットさん、セクス様の元に参りましょう」


「え、あ…うん」


 2人は席を立ってセクスの元へ向かう。一階の広間で落ち合ったセクスは上機嫌で二人を迎えた。


「――よう、お前ら。作戦はバッチリだ。次の試合もガッツリ賭けろよ」


「はぁ…一回戦は無事に勝ったみたいですね。まずはおめでとうございます」


「あ? 当然だ。俺があんなおっさんに負けるわけがないだろ。 そこへなおれ、

 揉んでくれるわ」


「…っ!!」


 何かに感付いたのか、そんな二人のやり取りに割って入る様にリタがセクスにズイッと近づき、クンクンと鼻を動かしながら匂いを嗅ぎ始めた。


「あん? 何だリタ?」


「ちょっと、リタちゃん!?」


「むぅ…私とココットさん以外の女の匂いがしますぅ…」 




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この英雄、色を好みすぎる!! 犬雑炊 @korokoro0811

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