第2話 腐食の王


 女の視界には「森」が映っている。

 木々が生い茂り、見上げると鳥の群れが飛んでいる。その鳥の群れの背後には真っ白に輝く月が見える。 火山の火口を下から覗いた様な、巨大な穴が開いている。

 そこから月が――、空が見えている事に女は驚く。

 この空間がどれほどの広さなのかは分からない。ただ背後に切り立った岩肌が前方に見えない事から、相当な広さであるとは推測出来る。


 その時、女に空気が吹き出すような音が届いた。前方の森の木々の隙間から聞こえている様に感じる。

 女は走り出す。自分にまだこんな力が残っていた事が信じられなかった。

  森に入ると月光が遮られ、視界が薄暗くなったが、それでも洞窟内よりは明るい。進行を拒むように倒れている木や伸びているつたを跳び越え、音の出処を目指す。

 

 森の中を横切る小さな川が現れ、迷わず入る。深さは腰までしかなかった。泳ぐ必要はない。 気持ちは少しでも先に進みたいのだが、水の誘惑に負けた。腰を曲げ、がぶ飲みする。顔を洗う。 息をつき、少し落ち着いた女は自分が酷く滑稽に思えた。


  死ぬためにここへ来たのに、何故こんなに急いでいるのか。

 自分の名誉のため?

 自分の村のため?

 ――――嘘だ。 私は苦しみから解放されたいだけだ。


  女は川を渡り、再び森へ入った。 空気が吹き出すような音を目指して。


 何も根拠などないが、「腐食の王ラストラ」はそこにいる。

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