第8話
マリウスの恐怖は臨界点に達していた。
「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! 高いよ速いよ怖いよ~!」
「もう、殿下ったら。うるさいですよ。少し静かにして下さい」
そんなマリウスをミランダは冷静に窘める。
「そ、そんなこと言われたって~!」
マリウスは怖くて目も開けられない。
「落ち着いて下さいよ。確かに速いけど風圧とかは感じてないでしょう?」
「そ、それは確かに...」
「私が風の魔法でバリア張ってますからね」
「ま、魔法...」
「えぇ、そうです。私は魔法が得意なんで。どうです? 冷静になってみればスピード感をあんまり感じないでしょう?」
「い、言われてみれば...」
「だったらもう目を開けて下さいよ。見えないから余計に怖いんですよ?」
そう言われてマリウスは恐る恐る目を開けた。
「ほ、ホントだ...凄い勢いで景色が後ろに流れて行くけど...あんま怖くない...」
「でしょう? 少しは落ち着きましたか?」
「あ、あぁ、なんとか...」
「良かったです。それじゃあちょっとお話ししましょうか」
「...どんな?」
「まず、なんで私との婚約をあんなに嫌がったんです?」
「それはその...見ず知らずの相手を勝手に決められるのが嫌だったから...」
政略結婚など当たり前の王族としては、あまりにも子供っぽ過ぎる理由であり、それはマリウス自身にも多少の自覚はあるからなのか、恥ずかしそうに俯きながらそう答えた。
「なるほど。自分の結婚相手は自分で決めたかったと?」
「あぁ、そうだ...」
「それは分かりましたが、なんで婚約者がリリアナだって思い込んじゃったんですか?」
「それは...辺境伯家の娘として有名だったから...」
「あぁ、確かに。ウチと違って南の砦は辺境とはいっても王都からあんま離れてないですもんね。戦姫リリアナの噂はすぐ流れますか。彼女、有名人ですもんね」
「そんな所だ...」
「ウチみたいな北の果てにまで噂は届いていますよ。凄腕の剣士を表現する時に良く使う一騎当千って言葉じゃ物足りず、一騎当万の手練れであるとか。彼女の髪が真っ赤な理由は敵の返り血を浴び過ぎたせいなんじゃないかとか。その他にも色々と噂はありますが。殿下、リリアナが短気な人じゃなくて良かったですね?」
「ん!? それはどういう意味だ!?」
マリウスは首を傾げた。
「だって殿下は、そんなリリアナにあんな失礼なこと言っちゃったんですから。彼女が気の短い人だったら、殿下の首はあの場でチョンパされててもおかしくなかったですよ? 良かったですね、リリアナが寛大な人で」
「ひっ...」
自分の愚行を思い出したマリウスは、首筋に手を当てて真っ青になった。
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