「アハハ、冗談ですよ。リリアナは間違ってもそんなことするような娘じゃないですって」

　ミランダはしてやったりと言った顔で屈託なく笑った。

「...ミランダ...嬢は随分とその...リリアナ...嬢とは親しい間柄なんだな...」

　ミランダやリリアナの名前を呼び捨てで呼ぶことを躊躇ったマリウスが、たどたどしく言葉を繋いだ。

「ミランダって呼び捨てて呼んで貰っても構いませんよ?」

「そ、そうか...」

「さっきの質問の答えですが、そりゃ当然ですよ。なんだかんだ言っても、ウチだって貴族の一員ではありますからね。年に一回の社交シーズンには王都に集まります。その際、誰かさんが会ってくれないもんで一人寂しくしていた私を、見かねたあのお二人が毎年ずっと相手をしてくれていたんですから」

「うぐ...そ、それは...ほ、本当に申し訳なかった...」

　マリウスは穴があったら入りたい気分だった。

「私からも一つ聞いていいですか?　マリウス殿下はクラウド殿下のことも避けてたみたいですが、なにか理由があったんですか?　クラウド殿下も首を捻ってましたよ?」

　『...昔はあんなに仲が良かったのに...どこへ行くにも俺の後を尾いて回っていたのに...いつの間にやら俺から離れて行ってしまった...』

「って、ちょっと寂しそうにおっしゃってましたね。どうして実の兄まで避けるようになっちゃったんですか?」

「そ、それは...」

　マリウスは言い辛そうに顔を背けた。

「...兄上に...嫉妬していたからだ...」

　ややあってマリウスは、蚊の鳴くような声でそう言った。

「嫉妬?　なんでまた?」

「...兄上は優秀だ...学業は常にトップクラス。剣術の腕は武闘大会で優勝する程の凄腕。それに比べて俺は...」

「あぁ、優秀な兄にコンプレックスを抱くようになっちゃったんですか。でもそりゃある意味仕方ないことですよ。だって相手は２年先を生きているんですから。そう簡単に追い付けるなんて思わないことです」

　マリウスとクラウドは２歳違いの兄弟なので今年マリウスは18歳、クラウドは20歳になる。

「そう言われれば確かにその通りではあるんだが...」

　そんな簡単に割り切れないのが男のプライドというものなんだろう。

「それにクラウド殿下は既に武勲を上げておられるお方ですからね。並大抵の苦労じゃ到底追い付けませんって」

「えっ!?　武勲!?」

　マリウスはポカンとした顔でアホみたいに問い返した。

「もしかしてそのこともご存知じゃなかったんですか?」

　ミランダは呆れた顔でそう言った。