02話
「こんにちは」
「お、来たか、ほら来たぞてつ」
「見ればわかる」
彼はどうしてかけいが来たときだけ普段通りではいられなくなるみたいだ。
やはり異性ということで違うのだろうか。
「友達はできたのか?」
「はい、まだ一人だけですけどね」
「すごいな、てつにも見習ってほしいところだ」
「私は私、てつさんはてつさんですよ」
「でも、友達としては心配になるんだよ」
こっちの頭に手を置いてから「できる限りは一緒に過ごそうとしているけど部活とかもあって難しいからな」と言ってきた。
「お、増えているねえ」
「
「知っているよ? 名前は初めて聞いたけど」
「そうなのか? 気が付いたら色々と進んでいるな」
大丈夫だ、意識をして変えたというわけではない。
それにこの後は慎が多分、進めていくことになる、そこから恋に……とまではいかなくても仲良くなって変わっていくはずだ。
「そうだ、喜古に頼みたいことがあったんだよ。それはてつの――」
「少し歩いてくる」
好きだがなにもこれだけがいい過ごし方というわけではないのと、昨日と違って逃げているというわけではないから内もいいままだったのに「まあ待て、話し相手になってもらおうとしているだけだから勘違いをするな」と慎に止められて駄目になった。
「誰かに頼んでもらうのは違う、その子だって困るだろ」
「はいそうやって言い訳をしない」
「廊下で話すぐらいならいいけどね~」
「ほら、喜古は優しいから受け入れてくれるみたいだぞ?」
こういうところは慎の苦手なところだ。
そして相手が慎の頼みということもあってか受け入れてしまうのが問題だったりする。
異性側になにか問題があるわけではないものの、自分がいま一番過ごしたい相手は慎なのだからはっきりしてもいいと思う。
「てつさん、私がいるから安心してね」
「気持ちはありがたいが、けいは自分のことに集中すればいい」
自分のことでなるべく時間を使わせたくないのにすぐにこうなる。
つまり恵まれているということで俺的にはもちろんいいことだが……。
「いやほら、てつさんのところに行けば寂しくないから私からしても得なんだよ?」
「そうなのか」
「うん、だから行けるときは行かせてもらうね」
「けいにとってそれが本当にしたいことならそれでいい」
ではなく、流石に情けなさすぎて泣きそうになった。
慣れない場所で頑張らなければならないけいにここまで気を遣わせるってありえないだろ。
だから結局……逃げることになった。
「なんだよ不安定だな、と言いたいところだけど、てつはあくまで普段通りだよな」
「けいに申し訳ない、慎のところに行けていたら安心できていたはずだ」
「ま、確かに支えてやらないといけない側だからな」
「これならまだ悪口を言ってくるような存在の方がよかった」
「傷つくくせによく言うよ」
あと、どうしてこっちに付いてきてしまったのか。
普通に会話をすることができるとはいえ、やはりまだまだ出会ったばかりということで気になるだろう――って、俺が逃げたせいだから誰が悪いのかと言えば今回も俺か。
本当にいいところがなにもないな、父的に母はよかったのかもしれないがけい的に母はよくてもその息子が問題になってしまう。
「傷つくことよりも迷惑をかける側になるのが嫌だ」
「勝手に迷惑をかけているって悪い妄想をしているだけだろ」
「慎にはわからないだけだ」
「いや、迷惑をかけたくないっていうのはわかるぞ? 俺だってそうやって意識をして動いているからな。でも、いまのけいちゃんを見てすぐにそうなるのがなぁ」
「ふぅ、だからまだ慎やあの子がいてくれてよかった」
本当に一人だけだったときのことを考えると……怖くなる。
「喜古か、気をつけろよ」
「なんでだ」
「怖いぞ、遭遇したことはないけどお化けなんかよりもよっぽどな」
「積極的だからということか」
そういうことにしておきたい、悪い意味で言ってほしくない。
俺からすれば普通に会話をすることができる相手というだけで貴重だ、ありがたい存在だ。
「お、珍しく興味を持ったな」
「俺にも普通に話しかけてきてくれる存在だ、それなのにそんな言い方をされたら気になる」
「つまり怒っているということか、これもまた珍しいことだな」
「怒っているわけじゃない、ただ、誰かの話だけを聞いて勝手にそういうイメージにしたくないというだけだ」
まあ、本当のところを知ってしまえば、それが悪いものなら弱い自分はまた逃げ始める。
同級生だけではなく、妹からも逃げ続ける人間になってしまったら……。
「はは、喜古とてつ、結構いい組み合わせかもな」
「それはわからないが、これからも話せるということならありがたい話だ」
「話だけにか」
「戻る」
「俺も戻るよ」
勇気を出して教室で過ごすようにするか。
それなら少なくともけいに迷惑をかける回数は少なくなる、はずだ。
なので、俺にできる形でなんとかしようと決めたのだった。
結局、悪い癖が出ていただけで教室は気にならない場所だとすぐにわかった。
というか、他者が俺なんかを見ていない。
過ごしたい相手とわいわい盛り上がっているだけ、これは幼小中学生時代及び高校一年生のときから同じだったのに今更ここに気づくなんて馬鹿だが。
「止まって、はい、こっちに向いて」
「けい――なにかあったのか」
わかりやすく不満があるという顔をしている。
俺みたいに友達関連のことでやらかしているということはないだろうから授業で失敗をしたとか、腹が鳴ってしまったとか、そういうところだろう。
「あるよ、それはあの日からてつさんに避けられているということだね」
「喋りかけられれば返していると思うが」
朝もそうだ、一緒にご飯を食べて一緒に登校をしている。
俺はあの時間を既に気に入っていた、多分、続けてくれているから彼女的にも……と考えるのは間違いか。
「だって廊下で過ごすことがなくなっちゃったもん」
「ああ、情けないながらもなんとかしようとしているところだ」
彼女のためにでもあるし、なにより自分のために動いた、その結果がこれなのだから珍しくいい方に働いたということだ。
動く前からなんでも無理だと諦めてしまうような人間にはなりたくない、小さいことでもいいから努力を続けたかった。
「私が動いたタイミングでだったから悪い方に考えちゃうよ」
「悪く考えるのはやめた方がいい」
「それはてつが、だけどな」
これも一応、役に立てている……だろうか。
そこにいることで慎が自然と参加してくれるということで、喜古の場合はそうだと断言をすることができるがけいの場合はどうなのか。
「木村さんこんにちは」
「おう、邪魔をして悪い」
「気にしなくていいですよ、私、木村さんとお喋りをできる時間も好きです」
「怖いな、好きとか簡単に言わない方がいいぞ」
「事実ですからね」
昔、彼の側にいた女子がこんな感じだった。
そのときの女子は告白をして振られたらしい、掃除をしているときにたまたま耳に入ってきてしまった情報だった――ではなく、告白をする際に伝わらなくなるから簡単に好きなどと言うのはやめておいた方がいい。
「今日ね、四時間目に体育があるんだ、頑張れって言って」
「頑張れ」
という言葉には力がある。
だが、自分が誰かに言うことなんてあるとは思っていなかったから驚いた。
「ありがとう、これで最後まで走れるよ」
「体力に自信がないのか? それなら今度、休みのときにランニングとかに付き合うぞ?」
積極的だ、彼からすればけいはドストライクな相手だった、ということなのだろうか。
「いいんですか? それなら今週の日曜日によろしくお願いします」
「けい、慎も日曜ぐらいは休みたい――」
「気にしなくていいぞ、多分、てつは付き合ってくれないだろうから二人きりでも大丈夫ならだけど」
遮らなくてもいいと思うが……。
直接ぶつけると角が立つから遠まわしに黙っていろと言ってきているのだと片付けておく。
というか、更に続けても精神ダメージを受けることばかりなので続けられないと答える方が正しい。
「そこは全く気になりませんけど……」
「ならいいな、俺がそっちの家に行くからよろしく」
「は、はい、よろしくお願いします」
こういうときは窓の向こうに意識を向けて過ごすに限る。
まだ三時間目前の休み時間というところだから回復をさせておかなければならないのだ。
今日はいい天気だから寄り道をして帰ろう、歩ければ歩けるだけ回復するのだ。
「てつさんてつさん」
「なんだ」
慎は……って、いつの間にか向こうで喜古と話している。
やはり廊下に出ると普段とは違う結果になるということがよくわかる。
しかし、やはりこうして廊下から窓の向こうに意識を向けるのも好きだから出てきてしまう。
「日曜日、てつさんにも付き合ってもらいたいなぁーなんて」
「それなら邪魔をしたくないから平日の放課後に走ればいい、日曜は慎とだけが一番だ」
「お、じゃあ走ってくれるの? 嬉しい」
家が嫌いというわけではないが好きな外にいられるうえに運動もできるのなら悪くない。
ただ、運動能力に自信があるわけではないから手加減をしてくれと言っておいた、当日に実際のところを晒して泣きつくよりはマシだと判断してのものだ。
「私、中学生のときはテニス部に所属していたけど最後まで体力には自信を持てなかったから大丈夫だよ」
「そのときになればわかる、俺はひいひい言いながらけいを追うことになる」
「え、そのてつさんを見てみたい」
「意地悪をしないでくれ、けいが考えている以上に俺は弱い」
「え、余計に気になってきちゃったよ」
な、なんて存在だ、慎、本当に怖いのはけいだぞ。
これは実際に自分が経験したことだから適当ではない、だから自分がしたくないそれに当てはまらないから問題はない。
だが、その問題はなくても別の問題が出てきて、今日か明日かは知らないがちゃんと家まで帰ることができるのかがわからなかった。
「あ~……待って゛~」
「悪い」
正直、けいには悪いがほっとしている自分がいた、年下の異性に何回も待ってもらうような結果にならなくてよかった。
「い、いや、謝らなくていいけど……それにほら、合っていたでしょ?」
「いや、今日は体育があったから違う、つまりそれがけいの本当の実力とはならない」
「違うんだよ……本当にポンコツなんだよ……」
「下げる必要はない」
こういうところも慎なら上手く合わせられるだろうな。
待った、そういうのを求めているとしたら俺はこの時点で失敗をしていることになる。
「でも、もう少しペースは下げてほしい……な」
「それならまずは歩こう、ゆっくりやっていけばいい」
「い、いいね」
まだ知らない場所も多いだろうから知っている場所を案内できたらという狙いもあった。
別に現実逃避をしているわけではない、上手くはやれていないがずっと留まっているわけにもいかないからとにかく足を動かしていたい。
止まると自分のせいで気まずくなりそうだというのもある。
「ここはいまコンビニだが昔は小さいゲームセンターだった」
「おお、木村さんと何回も行ったりしたの?」
「いや、慎は知らないが俺は一回しか行ったことがない、爆音に慣れなかった」
長期休みになる度にそういう場所に行くなよと先生から言われていてそのまま受け入れすぎたのもある、単に弱いだけだと言われてしまえばそれまでだが気になって楽しめなかった。
あとは簡単に金が消えていくというのも大きかった。
「あ~……確かに音が大きすぎて会話をするのにも苦労するよね」
「小さいのにあれだったから大きいところなら倒れる自信がある」
「さ、流石にそれはないと思うけどね」
「あとはあそこに本屋があった」
そこまで利用していたわけではなかったが小遣いで本を買えたときは嬉しかった。
あまり関係ないものの、小さい頃はいまよりももっと堂々とできていて純粋で楽しかったことを思い出して微妙な気持ちになる。
「長く続くところとそうじゃないところの違いってなんだろうね? お客さんだっていっぱい来ているのにさ」
「わからない、だが、なくなると寂しくはある」
だったらもっと利用してくれよという話になってしまうか。
「てつさん、木村さんのことについて聞きたいことがあるんだけど……いい?」
「ああ、教えられることなら教える」
「木村さんっててつさんのことが好きなんじゃないかなって」
それは聞きたいことではなくて言いたいことだろう。
だが、俺だって嫌われていたくはない、たまに言葉で刺しながらも慎に来てもらいたいと考えている。
「だって約束をしていないのにすぐ来てくれるでしょ? 部活動で疲れているはずなのにすごいなって、愛だなって」
「心配をしてくれているだけだ」
「うんうん、最初はそういうものなんだよ、だけど気が付けば同性とか関係なくなっちゃっているんだよね」
「けいがなにを求めているのかわからない」
「私だっててつさんみたいな人を振り向かせられたら楽しそうって思うよ」
つまり……どういうことだ? だって別に恋愛対象として見られるという話ではないだろう。
これならまだ慎のことをそういう意味で意識をしていると言われた方がマシだった。
「あそこは慎の幼馴染の家だった」
「だった、ということはもういないんだね」
「ああ、両親が事故で亡くなって引っ越すことになった。そのときの慎は珍しく泣いていた、それからは一度も見ていないが」
「じゃあてつさんより前にいい相手と出会ってしまっていたということか」
実際にはほとんどの人間が俺よりいい人間ということになるのだからそんなのは当たり前だ。
構ってほしいわけではないから言わないものの、こういうことがある度に厳しくなる。
「今日はこれぐらいで終わりだ」
「そうだね、一気にやっても意味がないからね」
一緒の方向に向かって歩いて、同じ家に入るということを改めて考えると不思議な気分になる。
家に関してはもう慣れたみたいでこれまで過ごしていたみたいにいてくれているからよかった、汗をかいたから風呂に入ってくるとけいは消えた。
リビングにいたい気分ではなかったから部屋に戻ってベッドに寝転んだ。
「ふぅ」
「てつさん入ってもいい?」
「ああ」
って、早すぎるだろ……。
「汗をかいていたからあんまりその状態でうろちょろしたくなかったんだ、やっぱりまだ他の人の家って感じが抜けなくて……」
「気にしなくていい」
「そういうわけにもいかないよ、だけどてつさんもお母さんもすぐに受け入れてくれて嬉しかった」
「当たり前だ」
仮になんらかの不満があったとしても子どもにはなにもできない、文句を言ったところでなら稼いでこいで終わってしまう話だ。
だから今回の件ですごいのはけい達なのだ、そういう話ではないとしてもだ。
お喋り好きなところが親子揃って似ている、自分のことなのによく俺に話しかけられるなとこれまた不思議な気分になる。
「だからね、お母さんにもそうだけどてつさんのために動きたいんだ。いきなり頼ることになっちゃったのはあれだけど……私にだってできることはあるんだよ?」
「俺には慎しか友達がいない、だからけいがいてくれるだけでありがたいが」
本当に情けない、そして申し訳ない。
やはりこれなら悪口を言ってくるような存在の方がよかった、その方が多少は強気で動ける。
でも、これを続けられるとどれだけ躱そうとしても弱い自分がなら……と受け入れてしまうのではないかと怖くなるのだ。
「うーん……それって役に立てているとは言えないような……」
「それなら俺がした行為はなんの役にも立てていないことになる。なにも相手のことを考えて大きいことをするだけが全てじゃない、けいはもう十分してくれている」
だが、大丈夫だ。
差を作ってしまっているということになるが相手は妹だ、学校で遭遇する相手とは違う。
情けないとしてもここを超えたらいけないというラインは超えない、なんとか止め続けてここまでやってきたのだ。
「なにかで困ったら言えばいい、俺にできることならやる」
「はい、それならてつさんが頑なに受け入れてくれなさそうことで困っているかな」
「大丈夫だ」
「え、なにが大丈夫なの?」
はは、まさか自分がすぐにこうやって返されるとは思わなかっただろうな――ではない。
こういうことにならないためにも慎には頑張ってもらいたいところだった。
そのためなら多少はこちらに冷たくなってもいいから、露骨に態度を変えていてもそのことについては触れたりしないからなんとかしてほしい。
ただ、自分の決めたルールは破っていることになるため、上手いやり方が見つけられないのがいま一番気になっているところではあった。
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