第17話 魔石

 僕は[アイテム袋]の中から[初心者セット]の中にある[治療水]を氷眞に掛けると、凛の居る場所まで駆け抜ける。


 そして、力の限りその場に居る騎士達を吹っ飛ばす。


(また、また僕は……)


 その場に居た凛は、装備が剥がされ服が乱れていた。恐らく、恐らくはまだ何もされていない。

 だけど、『恐らく』という可能性がある事象を僕は起こしてしまった。


『だから信用するなって言ったんだ』


 怒りが込み上げ、視線の先で寝転がっている氷眞に向かって僕は呟いた。

 氷眞の姿はボロボロだった。砂や血で汚れ、頭部に関しては大きく傷を負ったのか顔の半分は血で濡れていた。


「何だ?」

「今何が起こった?」

「今のを、スライムがやったのか?」


 僕は氷眞から視線を離すと、辺りを見渡す。

 周りに居るのは見た事もない騎士達。騎士達は戸惑っているかの様に此方を伺っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:工藤 陽一

 種族:ハイヒューマン


 スキル:弓術(C級)Lv1/10

     指揮(D級)Lv1/10

     身体強化(D級)Lv2/10


 腕力 18

 防御 15

 素早さ 13

 魔力 9

 知能 16

 精神 8

 運 6


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(……強い、な)


 隊長格であろう男のステータスボードを『真実を捉える瞳』で覗き見れば、ステータス自体はそうでもないが、スキルが1つC級に差し掛かっているのが分かった。


(ステータスはほぼ同等、スキルレベルは負けていて……コイツには劣るがそれなりの強さを持った男が3人)


 失敗は許されない。

 だからこそ冷静に、怒りの感情を心の内に押し留める。


(……やるなら、弱いヤツから!!)


 僕は先程と同様に猛スピードで近づく。

 先に居るのはエルフ。知能や魔力の値は中々だが、それ以外はなんて事はない。魔法もーー。


(発動させなければ、どうって事はない!!)


 僕は酸液を使い、エルフの顔面へと突撃する。

 魔法を発動させるには普通は詠唱が必要になる。だけど、こうすればゴブリンと戦った時と同様、息さえ出来ない。


「ッ!?」

「チッ! この野郎!!」

「馬鹿ッ!! そのまま斬り掛かったらそいつまで斬っちまうぞ!!」


 このまま行ける、そう思っていたのも束の間。視界に映る矢を射ようとしている工藤が目に入り、直ぐにエルフから飛び退く。


「チッ……逃したか。おい! そいつに[治療水]飲ませてやれ!」


 工藤が射た矢は、エルフに当たらない軌道で僕の核を掠めて行った。


 もし、僕が避けていなかったら……。


(だけど……1人は終わった)


「ッ!! ッ!?」

「隊長ッ! [治療水]を飲ませたが目も戻らないし、何より声が出ねぇッ!!」


 僕の酸液のランクはEのLv4。スキルとして定着していなかった時点で、ダンジョンの階段を溶かす程の強さを持っていた。


 それがスキルとして定着し、レベルが上がったんだ。簡単に治る訳が無い。


([ヒールスープ]でさえ、広まっていない世の中だ。況してや、今の時代の[治療水]ごときで治る訳が無いだろう)


 僕はそのまま男達へ向かって酸液を繰り出す。


「クッ!!」


 男達は治療していたエルフを見捨て、その場から離れる。酸液をモロに浴びたエルフは煙を上げ、骨を見せた。


「何なんだあのスライム!?」

「ダンジョンの1階層に出るヤツじゃねぇぞ!?」

「……希少種か?」

「チッ!! なんてこった!!」


 希少種。

 それは魔物の中で偶に出現する、普通の魔物が変異した種。同族の魔物よりも強い力を発揮すると言われる種だ。


 僕の場合はステータスが高いだけで、ただのスライムだが。


「お前ら! 体勢を整えろ!!」

「「おう!!」」


 工藤の一言で、2人の騎士が前に剣を構え、工藤が弓を構えた。


 そうも慎重に来るか……なら。


「チッ!! クソッ!!」


 僕は男達の真上に向かって満遍なく酸液を噴射する。


 酸液の脅威は知らしめた。

 男達に、酸液を防御する手立ては無い。つまり、男達のする行動は一択。


「左右に避けろ!!」


 懸命に左右へと分かれる男達。視線は上に向かったまま。


『擬態……』

「ッ!! おい!! スライムは何処に行った!?」


 一瞬の隙を突き、僕は周囲へと紛れ込む。そして、左右へと分かれた男達の1人……ドワーフの顔面へと飛び付く。


「ッ!?」

「チッ!! クソッ!!」


 もがくが、関係ない。弓で狙われていると分かれば、核を工藤に対して見えない様にドワーフの頭の後ろにすれば問題ない。


 僕は無事にドワーフを始末すると、工藤達と相対する。


「……大体アレの攻撃手段はあの酸の攻撃だけだ。それだけを気を付ければ大した事ない」

「おう。姿を消したのもあるが、匂いを辿れば大体の場所は分かるしな」


 経験、分析。

 何度もこういう場面を逢って来たのだろうか。正確な分析、僕の主な攻撃手段は酸液のみ……最悪逃げるのも手にーー。


(いや……気絶した2人を持ってダンジョンから出ても、なし崩しにヤラれるだけだ)


 周囲を確認した所で、男達の死体がふと目に入る。

 その顔は爛れて見るも無惨。先程まで話していた仲間が顔を溶かしている。それなのにコイツらは何の反応も示さない。


 歴戦の騎士なら、この様な場面では感情を見せないんだろう。


 だがコイツらは、歴戦の騎士なんてものでは無い。ただの、ゴミ。

 人が死ぬ瞬間を、恐らくコイツらは、見慣れている。


(僕の前に居た子供達を、コイツらはきっと……)


 そう考えて、僕は逃げの選択肢を失くす。



 殺そう。



 考えが固まった瞬間。


【酸液(E級)のLvがMaxになりました】

【酸液(D級)Lv1/10になりました】


 目の前にメッセージが現れる。


(酸液のレベルが上がった? という事は……進化する?)


 全てのスキルレベルが Maxになる事で種族・等級が進化すると、『スライム』というスキルの詳細には書かれていた。


 つまりーー。


【進化先を表示します】

 ・ビックスライム

 ・アシッドスライム


 来た。


 と、そのメッセージに重なる様にまたメッセージが来る。



【ーーー】



 なんだ?



【ーーろ】



 それは文字化けして、見えない。しかし、それは何度も送られてくる。次第に視界の全てがメッセージで埋め尽くされる……そんな時、1つのメッセージが送られて来て僕は直ぐに行動を起こした。



【食べろ】



 何故か直感した。アレを食べろと。



【ネス・ポアロの魔石の摂取により、ネス・ポアロのDNA情報を取得しました】

【ーー進化先が増えます】

【新たな進化先はーー】

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