第18話 なにより

「……受付の人が雇えると良いんだけどね……」


 お店に鍵を締めて『閉店中』という看板を出して、レイはそうつぶやいた。


 受付の人が雇えれば、レイとひめが外出中でも仕事を請け負うことができる。


 だが、今は仕事を受けるのもこなすのも、レイたちしかいない。だからこうやって野外の仕事を受けた場合は、他の依頼が受けられない。


 まぁ、あまり忙しくなりすぎても困るから、これで良いのかもしれないけれど。


「二手に分かれますか? どちらかが受付をするという手段もありますが」

「……最終手段にしたいね。僕はできる限り、ひめさんと一緒にいたいから」


 そういうことなら仕方がない。ひめだってレイと一緒にいたい。だから、とりあえず単独行動はなしだ。


「さてと……ドラゴンさんは……」レイはゼーラからもらった地図を見て、「この山の中……結構遠いな」

「そうですね……まぁ、ピクニックに行くと思いましょう」

「そうだね」

 

 どんな苦難の道でも、2人一緒なら問題ない。楽で簡単に進める1人の道より、茨の道でも2人で進みたい。


 この異世界に来た時点で、その覚悟はある。チート能力を蹴って、この世界に来たのだから。


「じゃあ、行こうか」


 というわけで、山へピクニックへ。

 食料もないし、用具もなにもないけれど、気分だけはピクニック……というわけにもいかないな。さすがに、仕事気分だ。


 少しでも気を紛らわせるために、歩きながら世間話を。


「この世界は、どうですか?」

「僕は気に入ってるよ。強い人も多いし……言葉も通じるし仕事もでできた。なにより、ひめさんがいる」それから、レイは続ける。「ひめさんは?」

「私も気に入ってます」強い人が多いから、レイの本気が見られる機会も多いだろう。「あなたがいますから」

「そうだね。ありがとう」

 

 それだけでいい。恋人さえ一緒にいるのなら、どんな世界でもいい。


 その後は沈黙が続いた。まったく沈黙が怖くない間柄なので、とくに気まずくもない。


 しばらく歩いて、山に到着。


 静かな山だった。山の中だから当然と言えるかもしれないが……


 ひめは山の前で立ち止まって、


「……なにかいますね……」

「へぇ……ひめさんのカンに反応するレベルの?」

「はい」ひめのカンは、よく当たる。「もしかしたら……グレイブさんより……」


 グレイブよりも強い力を感じるのだ。それも、危険な匂い。こちらに危害を加えてくるタイプの匂い。


「その気配が……ゼーラさんの言ってたドラゴンかな?」

「そうかもしれませんね」

「だとしたら……ちょっと協力してもらうかも」

「わかりました」


 グレイブよりも強い存在がいるのなら、レイ1人では厳しい。


 ならば、ひめも協力する。2人で戦うしか方法がない。


 そして、


「僕たち2人が一緒に戦えば、無敵だからね」

「そうですね」冗談抜きで、誰にも負けない自信がある。2人でなら、どこまでも行ける。だれにでも勝てる。「じゃあ行きますか……ドラゴンさんに会いに」


 相手がドラゴンだろうが魔王だろうが、恋人と一緒なら戦える。


 むしろ相手がかわいそうだ。こんなイカれたカップルの対戦相手となってしまう、ドラゴンくんがかわいそうとしか思えない。

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