第12話 失言だったな

 気がつけば、コロシアムには拍手が鳴り響いていた。


「すげー……さすがグレイブさん……」「やっぱり強いなー」「でも、相手も結構強くなかった?」「そうだよな」「何でも屋を始めるとか聞いたけど……」


 ギャラリーたちは各々、目の前で繰り広げられた激闘を振り返っていた。


 その中央……コロシアムの真ん中で、グレイブがレイに手を伸ばす。


 レイはその手を取って、立ち上がる。


「ありがとうございます。やっぱり騎士団長様は強いですね。勝てませんでした」

「……」グレイブは不満そうに、「……なぜ手を抜いた?」

「抜いてないよ。全力――」レイは途中でグレイブに睨みつけられて、お手上げとばかりに両手を上げた。「僕の目的は、すでに達成されたから、かな」

「……たしかに……」グレイブは盛り上がる観客を見て、「……お前の強さは、これで多くの人間に知れ渡った。明日から……いや、今日から依頼が殺到するかもしれないな」

「うん。だから別に……あなたに勝つ必要はなかったんだよ。ある程度の戦いができれば、それでよかった」


 実力があることを見せつければよかっただけなのだ。勝利は必要じゃない。


「それに……」レイは続ける。「続けてたとしても、僕が負けてたけどね。あなたはまだ……本気じゃなかった」

「それはお前もだろう」グレイブは不満そうだった。「せっかく全力が出せる相手が見つかったと思ったんだが……」

「僕はあなたと、全力で戦う理由がないなぁ……疲れそうだし、やめとくよ」

「……そうか……」グレイブは騎士団長の威厳ある表情に戻って、「ありがとうレイ。久しぶりに、骨のある戦いだった」

「こちらこそ。楽しかったよ」

「ああ……もしよかったら、たまに遊びに来い。相手になってやろう」

「遠慮しとくよ。ちょっとあなたは強すぎる」


 というわけで、VSグレイブは終了した。

 勝敗は……表向きはグレイブの勝利。しかしグレイブの中では引き分けだろうな。


 最後の一撃……明らかにレイはわざと当たった。避けられる攻撃を避けなかったのだ。


 グレイブからすれば、ちょっとした屈辱だったかもしれない。しかし騎士団長という立場上、簡単に怒りに身を任せるわけにもいかない。


 精神的にも肉体的にも、本当に強い人物らしい。さすがに騎士団長を務める人物なだけはある。


 さて、レイを迎えに行こう。ひめは観客席から飛び降りて、レイのもとに向かった。


「お疲れ様です」

ひめさん……」レイはひめに気がついて、「おまたせ。じゃあ、帰ろっか」

「はい」


 コロシアムの真ん中で、2人は手をつなぐ。大観衆に見られているというのに、いつも通りの2人だった。


「待ってくれ」グレイブが去っていこうとする2人を呼び止める。「キミたちに頼みがあるんだ」

「……頼み……それは、依頼ってこと?」

「依頼にしてもいいが……あくまでも友人の頼みごととして聞いてほしい。そのほうが……キミたちにとっても好都合だろう」

「へぇ……」依頼にせずに、あくまでもお願い。「……よっぽど、危険なこと?」

「そういうことになるな」

「なるほどね……」


 レイはひめを見る。ひめは当然とばかりにうなずいて、それを見たレイが、


「いいよ。じゃあ……いつ話す? 当然、他の人には聞かれたくないことなんでしょ?」

「ああ……できるなら、今すぐだ。これだけ派手に目立ったからな……キミが監視され始める可能性もある」

「ふぅん……」どうやら、思っている以上に危ない話らしい。「いいよ。どうせ、やることもない暇人だし」


 たしかにその通りである。いくらゼーラからお店をもらったとは言え、まだ開店していない。


 無職の暇人。それがバカップルの現状である。


「ありがとう。では、ついてきてくれ」


 それからグレイブは訓練場の外に出た。その前に騎士団員たちに指示を出していたが、レイたちには関係のないことだった。


 廊下を歩きながら、グレイブが言う。


「そちらの彼女が……さっき言ってた人なのか?」


 守りたい人ができた、とレイは言っていた。

 ひめが、その守りたい人物なのかどうか。


「そうだよ」

「では本気のキミと戦いたいのなら、彼女を――」レイの殺気を敏感に感じ取って、グレイブは両手を上げる。「すまない。失言だったな」

「そうだね……でもまぁ……」

「なんだ?」

「僕より彼女のほうが強いんだけどね」

「なに?」グレイブは立ち止まって、レイとひめを交互に見た。そしてひめに、「そうなのか?」


 聞かれたからには、真実を答えるしかないだろう。


「レイくんはお世辞がうまいんですよ。彼のほうが強いです」

ひめさんは嘘がうまいからね」レイは少しだけため息をついて、「僕のほうが守られてる感じなんだよなぁ……もっと強くならないと」


 お互いがお互いを守っている、ということにしておこう。


 実際、レイとひめ……どちらが強いのかは不明である。


 なぜなら、全力で戦ったことがないから。ケンカしたことはあるが、それもお互い全力ではない。

 

 ひめとしてはレイと全力で戦ってみたいのだけれど、レイはひめ相手に本気が出せない。惚れた弱みだと彼は言う。


 惚れた弱みはひめも同じで、ひめだってレイ相手に本気で殴ることなんてできない。


 というわけで、レイとひめ……どちらが強いのかは不明なのだ。これから明らかになることもないだろう。


 それでもまぁ……


 1回くらいはレイと本気でやりあってみたいと、思ってしまうひめだった。

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