第17話 俺がいない所で好き勝手に喋る女の子たちが恋話をしたり勝手に振られていた話 その二

 「ルナ様と神様の馴れ初めってどんなだったのでしょうか」

 「うーむ。リリー、そんなに気になるのかい。もしかして………」


 ルナ様、それは勘違いです。先程も言いましたが、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ませんので。

 ただの興味本位です。言いたくないというのなら、これ以上は聞きませんが。


 「いや、話が長くなると思っただけさ。それにあいつに仕えている君なら、あいつから直接聞いた方がいいと思うしね」


 何やらとても意味深ですね。本当に少し気になっただけなのですが、そこまで勿体ぶられるといやでも興味が惹かれてしまいます。


 「あいつの事情もあるってだけさ。そうだね。僕が言える事は、あいつは元々人間だったんだよ」


 普通に予想していなかった驚くべき事実が出てきて困惑してしまいます。神様は人間だったんですか?


 「そうだよ。そういう意味ではリリー、君と似た境遇だね」


 ………私も元は人間でした。ある事があって天使になったのですが、まさか神様も同じだったとは思いませんでした。


 「神って言うのは特別な存在っすからね。人間から神になったって例、滅多にないっすから」


 ヒカリ様、ルナ様は天の国の出身で、神になるべくして生まれた存在です。ヒカリ様が言うように例外なんて滅多にないはずですが、そうですかあの人が………。


 「ちょっとは身近に感じられたんじゃないかな。まぁこんな事言われないでも、リリーはあいつの事、嫌いじゃないもんね?」


 言い方がちょっといやらしいですね、ルナ様は。そうですね、今更私と同じだったと言われても、神様の最低な印象はあまり変わらないですね。


 「リリーは素直じゃないなぁ」

 「ルナ様。こういうのはツンデレって言うらしいですよ」


 デレなんてありませんが。そもそももうツンデレなんて言わないと思いますよ。ヒカリ様は古いですね。


 「ひどいっ!リリーさん、直接刺してきたっす!」

 「照れてるんだよ」


 照れてませんが。ルナ様、いい加減になさならないとこれ以上お菓子あげませんよ。


 「あっあっあっ。ごめんよう。ちょっとからかっただけだよぉ。そんなひどい事しないでもいいじゃないか」


 ………ルナ様はずるいお方ですね。そんな風に涙目になって懇願されたら駄目だなんて言える人いませんよ。


 「センパイにもこんな風に迫ったらイチコロなんっすけどねぇ」


 違いありません。ですがルナ様は自然に出来ないお方ですので、どっちにしても難しいかもしれません。


 「ふぇ?」


 ああ、気になさらないでください。誰も取り上げませんから、そんなにリスのようにお菓子を食べなくていいんですよ。私が悪かったです。ごめんなさい。


 「………平和っすねー」


 たまにはこうして三人で話すのもいいかもしれない。そんな風に私は思ってしまいました。ルナ様、ヒカリ様も他の神様と違ってフレンドリーですし。

 大体の神様というものは、偉そうというか、他の存在はどうでもいいと思っているといいますか。ともかく、天使程度は小間使いにしか思っていない節があります。

 何人もの神様に仕えてきた私は嫌という程それを経験してきました。


 「リリー?どうしたんだい。そんな顔をして」


 私は今、どんな顔をしているんでしょうか。目的があって天使となったのに、今の環境なんてどうでもいいと思っていたはずなのに。

 あの神様に仕える様になってから余計な事を思う様になってしまいました。


 「何でもありません、ルナ様」


 私は取り繕います。いつものように仮面を被って。私は私のままでいなければなりません。

 その時の私は自分の仮面にぴきりとヒビが入っている事に気づいてもいませんでした。




 くっそしょーもない報告を終えて帰ると、何やら家がきゃっきゃっと姦しい。なんだ、お客様がきてんのか。まぁ、俺の所に来る奴らなんていつもと同じだろうけど。


 「あ、帰ってきました」


 そこはお帰りなさいだよね?なんでそんなに冷たい視線で貫かれなきゃいけないのかな?まるで帰ってこなければよかったのに、みたいな言い方やめてくれる?


 「被害妄想が過ぎますね。お疲れですか?」


 む、さすがに被虐的すぎたか。リリーちゃんが普通にそう聞いてきた。まぁ確かに上の神への報告会は長ったらしすぎて疲れているかもしれない。


 「お疲れー。ほら、こっちに来るといい」


 ここ、マイホームなんだけどなんでルナは我が家のようにしているのか。まぁいいんだけど。自分の隣をぽんぽんと叩いてて、そこに座れって事らしい。


 「センパイ、お疲れ様っす!こ、こっちでもいいんですよ!」


 何故かヒカリも対抗するように自分の隣をぽんぽんしている。なんだぁ?モテ期かぁ?なんつってなー。


 「私の隣には来ないでくださいね」


 調子に乗った俺をリリーちゃんが冷たく刺してきた。ちょっとした冗談だろう。そんなに冷たくせんでも。


 「乙女心を弄ぶ方には当然かと」


 なんだそりゃ。ルナとヒカリもなんとか言ってくれよ。


 「お前は反省するべきだ」

 「そうっすね。とりあえず何か奢って欲しいっす」


急なアウェイ感!?おかしい。なんだこの味方が一人もいない状況は………。まぁ奢りはともかく、お土産みたいなもんはあるぞ。


 「え、本当にあるんですか?ラッキー!」


 お前の態度にやるのが嫌になってきたけど、まぁいいか。実はな、都で買ってきた大人気お菓子があるのだ。ふっふっふっ。


 「………」

 「………」


 ん?二人ともそんなに静かになってどうした?そういや、お前たち、何か食って………。


 「優秀な天使である私が先んじてお出ししておきました」


 すでに食べられてるー!?めちゃくちゃ隠しておいたのにどうやって!?


 「神様の思考を読む事なんて簡単ですから」


 怖っ。まぁ俺が出そうとしていたから結果としてはいいんだけどさ。驚いたけど。


 「神様は懐が広いんだか狭いんだか、よくわからない人ですね」


 広くて狭いんだよ。気分で変わるもんさ。


 「そうですか………」


 ん?どうしたんだリリーちゃん。そんなに俺の顔を見て。なんかついてる?


 「平凡な顔がついてますね」


 言うと思ったよ。ふっ。俺もリリーちゃんの思考を読んでしまったな。


 「キモ」


 ぼそっとストレートな文句を言うの止めてくれる?


 「ふふふ。お前たちは仲が良いなぁ」


 これが仲良く見えるってどういう目をしてるんだ、ルナは。


 「そうっすか?私も仲が良いなぁと思いますけど」


 リリーちゃんのとても嫌がっている顔を見てごらん。俺は普通に傷ついてるよ。ぐすん。


 「………まぁ私が神様と仲が良いかは諸説あるとして、神様の事が好きな方もいらっしゃいますよね。ねぇ、ルナ様、ヒカリ様」

 「ちょ、リリー!?」

 「何言ってるっすか!?」


 お?なんだよなんだよ。何処の誰だよ、俺の事が好きな奴。いやー、まぁね。俺もたまにやる男だからね。好きな奴とかファンがいてもおかしくないよね。


 「誰もこいつの事なんて好きじゃないよ!」

 「そうっす!全然っす!全然!」


 ………さすがにそろそろ泣いてもいい?疲れてるところにこの言葉の刃、さすがの俺でもぽろりとしちゃうね。


 「照れていらっしゃるんですよ。神様も周りをよく見ればわかります」


 なんのこっちゃ。周り見てって、ルナとヒカリの顔がなんか赤くなってるし、テーブルの上には俺が楽しみしていたお菓子がすでに空っぽに………あ、なんかまた悲しくなってきた。


 「節穴で面倒くさい神様ですね。仕方ありません。私がおいしいお茶と普通なお菓子をお出ししましょう」


 ありがとね、リリーちゃん。刺してきたのはリリーちゃんでマッチポンプっぽさ感じてるけど、別にいいのさ。

 今日は四人でまったり駄弁るかー。なんでもない会話って無駄なようでいて、心の栄養にはなるしなぁ。

 うまい事言ったよ、今の俺。褒めてもいい。


 「はいはい。うまいうまい」


 おざなりなリリーちゃんはそれから本当に用意をしに行ってしまった。ふむ。リリーちゃんも俺の扱い方が最近上手くなってきたな。


 「なんで冷たくされたのに嬉しそうなんっすか。Mっぽいっす」


 失礼な奴だな。さっきお前たちが言ってたみたいに、仲が良くなってきた証拠だろ?


 「そうだな。僕も君たちが仲良くしてくれると嬉しいよ」


 ママ視点でそうルナが言う。うーん、見た目は幼女。心はママ。罪深いな。

 そんな風にわけがわからない事を考えつつ、その日は四人で雑談を楽しんだ。こういうなんてことない日って貴重だよな。そんな事を俺は思っていた。

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