第23話 見知らぬ電話番号

「社長をお願いします…」

「オーナーをお願いします…」


 週に一度は必ず見知らぬ電話番号からかかってきます。

 050とか0120の番号だと自分で出るようにしています。

 セールスの電話が多いので、他のスタッフさんに迷惑をかけるしお断りするのは昔のサラリーマン時代から慣れていましたから。


 よく昔の職場(メーカーのシステム室や物流事務所)でもかかってきました。

「納品書はどちらのメーカーですか…」

「倉庫を借りませんか…」

「パソコンを買い取ります…」

 いろいろでした。

 お断わりするのは慣れているのです。


 薬局に勤めてからこんなにも患者さん、クリニック、卸さん、メーカーさん以外の仕事外の電話が多いとは思いませんでした。


 なんか僕の印象ですが…

「ちょっと誘えば話に乗ってくるだろう…」

 そんな軽い感じの営業スタイルです、みなさん。

 薬局も薬剤師さんもそんな世間知らずではないですよ、それにここにはサラリーマンを30年経験した人間もいるのです。


「個人的なお話なので社長をお願いいたします」


 いろいろと言葉を変えてどうにか社長につながろうとしています。


 僕も人間なので…

 機嫌がいい時悪い時、忙しい時などがあります。

 忙しいのでそんな電話がかかってくるとね…


「ねえ、じゃあ社長の名前は…?」



「え…? いや…あの…出直します…」

 これはまだいいほうです。


「○○さんではないですか…」

 ○○という義父の名前を言っています。


 2年前に義父から妻に社長は交代していまして…

「違う…多分さ…M&Aの会社でしょう…。ねえ、そんな杜撰な調査しかできない所にM&Aを依頼するかな…」

「すいません…」

 元気なく切ってくれます。


 そうなのです、大半のセールスの電話は

「M&A」なのです。


 創業80年以上の戦前からの店舗です。

 妻で三代目、今、薬学部の娘が継げば四代目になります。

 そのころは創業100年です。

 経営も頑張ってます。

 そうは簡単に手放さないし…土地建物は義父の所有物です。

 少し調べればわかるのにね。


「個人的なことなので…」という問い合わせには…

「個人的な電話は個人的な電話番号に個人的にかけて下さい」

 と対応します。


 薬局仲間にこんなお話をすると…

「法律改定が迫るとね…多いね…」

「継承者がいないとか新たな規定に手がまわらないとか…」

「お年寄りだけでコンサルも入れてないところだと面倒だからこの機会に…っていうところもあるんだよね」


 全般的にこの業界…

 薬価は下がる

 調剤報酬は下がる

 の二重苦プラス、補助金は出るにしても

 オンライン資格確認

 電子処方箋

 レセプトの電送

 電子薬歴などなど

 ソフトやハード対応が必須になってきており、ある程度の若さのあるスタッフがいないと難しくはなってきています。


 そんなにみなさんが思うほど利益はないのです…というか薄くなってきています。

 

 でも家族や親族、従業員の雇用を守るために今日もがんばっています。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る