第26話 色づいた世界へ
その時空中に浮かぶ扉が開き始めた。
中から光が漏れている。なにか音も聞こえる。
向こうはきっと外の世界だろう。そうじゃなきゃこまる。
「開いた! これで出られるぞ!」
俺はゴンドラのドアを開ける。
風が勢いよく入ってくる。
「やめて、先輩!」
「頼む。俺を信じろ杏奈!」
「できないよぉ。きっと下に戻れば元通りになってるよ。これも罠だよ!」
「私は奏太を信じる」そういって彩が立ち上がった。
「よし、こい!」と俺は彩に手を指しだし彩が力強く握りかえした。
「嘘だろお前ら正気か本気なのか!?」
めぐみが泣きそうな顔で言う。
「めぐみ! どうする? このまま下に降りるのか、俺たちと一緒に外へ出るか!」
「くっそぉ! しゃあねえなああああ!」
めぐみは立ち上がると俺の腰にしがみついた。
「おま、ちょっとこれはきついって。動きづらい!」
「もう足腰へばって立たねえんだよ。お前がいっしょに連れてってくれるんだろ!」と怒鳴りつけるようにいって両目を閉じるめぐみ。コイツは引き剥がせそうにない。が、俺のことを信じてくれるというのならもちろんコイツも連れて行く。
「杏奈もこい!!」
右手を伸ばす。
「無理だよ……みんなもどうして信じられるの」
杏奈は後ずさる。
扉がもう目前まで迫ってくる。
「杏奈!!」
俺は無理やり杏奈を引っ張ろうとした。
杏奈を一人でここにおいていく訳にはいかない。
だけど、杏奈は俺の手を払い除け、突き飛ばした。
弾かれてバランスを崩した俺はゴンドラから落ちそうになる。
なんとか右手だけで踏みとどまったが、体の半分が外に出てしまっている。
左手に捕まる彩と腰にしがみつくめぐみ。
この二人を無事に扉の向こうへ連れて行かないといけない。
扉が正面に来た。
扉の向こう側は白いような青いような光があふれている。
暗闇に長くいすぎて光の向こうが眩しくてよく見えない。
そこに吸い込まれるようにゆっくりと引っ張られていく。なにか引力のようなものがある。
「杏奈! 頼む俺の手をとれ! 取ってくれ!」
俺は下半身がすでにゴンドラの外に出ている状態で右手を伸ばした。
だけど、杏奈はその手を怖がってゴンドラの反対側に逃げる。
「杏奈ーーーーーーーーーーーーーー!」
俺はそのままゴンドラの外、扉の中へと吸い込まれていった。
「いってらっしゃい」
最後に杏奈の声が聞こえた気がした。
青空が見えた。それは真っ白で暗闇の中にずっといた俺の瞳を焼くように突き刺した。
眼球のしびれから開放された時、ようやく周りの様子が確認できた。
俺たちはメモリアランドの入り口に倒れていた。
世界は色と音を取り戻していた。
左手は彩が握ったままで腰にはめぐみがしがみついたまま。ふたりとも気を失っているのか眠っているのか。
体温は感じるし呼吸もしている。
死んではいないようだ。
時計を見る。
9:48を示しており、秒針が動いていた。
時計が動き出していた。
助かったんだ。
あの狂った世界から逃げ出せたんだ。
メモリアランドはずっと前に閉園していたようだった。
さっきまで見ていたメモリアランドよりもさらに荒れ果てており、中を除くと背の高い草が生い茂っていた。
朝来たときにみたメモリアランドはこんな状態じゃなかったはずなのに。
中は完全に荒廃していた。
殆どのアトラクションや建物は崩れている。
ここから見える観覧車もゴンドラがいくつか外れていた。
俺はメモリアランドの中に入る。
陸と佐藤の死体がもしあるならそれだけはすぐにでも確認しておきたかった。
だけど、確かめるまでもなく、朝見たときのものでも、俺たちがさっきまで迷い込んでいたときのものでもなかった。
ジェットコースターは近寄る事もできないくらい荒れ果てていた。
二人の死体もそのようなものも見当たらなかった。
他のアトラクションも荒れ果てており、さっきまで動いていたのが嘘のようだった。
悪い夢だったんだろうか。
それともタイムスリップでもしていたのか。
だけど、俺は親友を失い、彼女を失い、友達を失った。
それでも俺は彩と一緒に戻ってこれた。
ついでにめぐみもいる。
これから二人と警察に行こうか、それとも皆の家族に連絡すべきなのだろうか。
二人と話をしてこれからのことを決めよう。
時間を見ると9:48。日付は5月4日。
俺の最低なゴールデンウィークはまだ始まったばかりだった。
『終わり』
エピローグ
俺はメモリアランドにもう一度向かった。確かめたいことがあった。
※ここから先はおまけです。読まなくてもいいかもしれません。
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