第22話
光に包まれた転送門がヨシ老師(Yoshi-rōshi)の城の入り口に現れ、アレフ(Arefu)が意識を失ったレティシア姫(Retishia-hime)を抱えて姿を現した。不意を突かれたものの、いかなる事態にも対応できるよう訓練された城の職員たちは、すぐに駆け寄り、二人を医務室へと案内した。まるで彼らの到着を予期していたかのように、ヨシ老師が既にそこで待っていた。
医務室では、助手たちがレティシア姫をベッドに寝かせた。ヨシ老師は一言も発することなく、治療を開始した。黄金のオーラに包まれた老師の手がレティシア姫の上にかざされる。複雑で輝く魔法陣が、老師の手と姫の体の間に形成された。姫を閉じ込めていた氷が溶け始め、肌に徐々に色が戻っていく。老師のわずかな合図に、一人の助手が冬の国(Fuyu no Kuni)の紋章が刻まれた木箱を差し出した。老師はその箱の中から、きらきらと輝く青いクリスタルを飾った銀のネックレスを取り出し、レティシア姫の首に優しくかけた。そして、今度は銀色の光で別の魔法陣を空中に描き、姫の精神を包み込んだ。
「冬の冷気は時が来るまで眠りにつくであろう。」老師は力強い声で呟いた。
老師はアレフに、ネックレスがお守りとして働き、レティシア姫の魔法を調整し、暴走する力から彼女自身を守ると説明した。レティシア姫が助手の看護を受けていることを確認した後、ヨシ老師はアレフを自分の執務室に招いた。室内では、古の炎が暖炉でパチパチと音を立て、ティーポットを温めていた。老師はアレフに薬草を煎じたお茶を注いだ。600年以上も燃え続けているその炎は、お茶に独特の回復力を与え、体内のエネルギーと魔法のバランスを取り戻す力を持っていた。
お茶を味わいながら、アレフはエネルギーが回復するのを感じ、いても立ってもいられず、起こった出来事を報告したいと思った。自分の力の行使をためらったこと、力を抑えようとした自分の軽率さを告白する必要があった。ヨシ老師は既にその出来事を能力によって知っていたものの、アレフが自分の視点から語る間、注意深く耳を傾け、そして説明を始めた。
「レティシア姫が発現させた力は、冬を司る古代のエネルギーじゃ。」老師は明かした。「四人の守護者(Yonnin no shugosha)が存在すると信じられておる。それぞれが特定の属性を司り、王国の名前の由来もこの古い伝説に基づいておる。このエネルギーはリスニー女王陛下(Risunī-joō heika)の力に匹敵する可能性があるとされている。ゆえに、リスニー女王陛下は既にレティシア姫を排除、もしくは捕らえようと計画しているかもしれん。」
「そんなことがあってはなりません!」アレフは顔に不安の色を浮かべて叫んだ。リスニー女王陛下がもたらす脅威は現実のものであり、彼は女王陛下の残酷さを知っていた。
アレフの苦悩を察したヨシ老師は彼を安心させようとした。
「レティシア姫は君の王国で安全に過ごせるじゃろう。リスニー女王陛下は君の国を直接攻撃することはないじゃろう。秋の王国(Aki no Kuni)は最も強力な王国のひとつであり、数多くの魔法の遺物を保有し、リスニー女王陛下の王国にとって主要な物資供給元でもあるからのう。」
ヨシ老師は言葉を区切り、真剣な眼差しでアレフを見つめた。
「君の軽率さが姫の命を危険にさらした。王室訓練の制約下にあったとはいえ、そこまで自分の能力を隠蔽したのは怠慢じゃった。」
アレフは何も答えることができず、黙り込んだ。訓練の規則は、彼の本当の身分を明かすことを禁じていたが、その沈黙がレティシア姫の命を危険にさらすところだった。
「制約は存在する。」老師は続けた。「しかし、それをどう解釈し、各状況に最も適した方法で行動するかは、君次第じゃ。」
「老師、その教えは…もう一つの問題にも当てはまりますか?」アレフは秘密の任務について尋ねた。
「もちろんじゃ。」老師は謎めいた笑みを浮かべて答えた。「規則を自分に有利に利用するんじゃ。規則の隙間を突けば、将来自分に降りかかる結果を心配することなく行動できる…」
「老師からそんな言葉が聞けるとは驚きです!」
「根本的な規則を破らなければ、わしからの罰則はない。」
「難しいことですが、老師、最善を尽くします。」
「わしは君を信じている。そして覚えておくように。レティシア姫に真実を伝えるんじゃ。遅かれ早かれ、彼女は知るであろう。そして、ネックレスを身に着け続けるよう説得するんじゃ。」
「承知いたしました、老師。」
四つの王国は同盟を結び、ヨシ老師の保護下にある。老師は次元の根本的な規則が守られるよう監視している。これらの規則を破ることは、不名誉となり、統治する権利を失うだけでなく、他の王国からの支援や、すべての協定も破棄されることになる。戴冠式で行われた神聖な誓いに対する裏切りとなるのだ。
…
静かな夜を城で過ごした後、訓練期間中に使用していたのと同じ部屋で、アレフは休息を取っていた. 彼は16歳で訓練に参加し、ローレン王子殿下(Rōren-ōji denka)と共に一年間訓練を受け、友情を深めていた。
休息中、遠い昔の記憶が蘇ってきた。幼いアレフは、燃え盛る炎に囲まれていた。守ってくれる誰かが、彼と炎の間に立ちはだかった。そして、突然の雨が降り始め、炎を消し始め、同時に氷の壁が彼らの周りに現れ、激しい熱から二人を守った。その人物の正体はぼんやりとしていたが、レティシア姫が見せた力によって、アレフにある疑念が芽生えた。彼女こそが炎から自分を救ってくれた人物なのだろうか?
翌朝、ヨシ老師は、レティシア姫を訓練するために、秋の王国に師範を送ると告げた。彼女の力の噂は広まっており、適切な訓練が必要不可欠だった。老師はアレフに、レティシア姫が冬を司る守護者であるという真の性質を、今はまだ秘密にするようにと頼んだ。しかし、この知らせによって、アレフの疑念は確信へと変わった。レティシア姫こそ、彼が探し求めていた人物であり、恩義を感じている人物だったのだ。
アレフはまだ眠っているレティシア姫を連れ、魔法の転送門を通った。彼は二人を春の王国(Haru no Kuni)の国境近くに転送させた。強力な魔法障壁によって守られているため、王国へ直接移動することは不可能だったからだ。
深い森の近くに辿り着いた時、レティシア姫は驚いて目を覚ました。彼女の目はあらゆる方向へと素早く動き、混乱と恐怖の表情が顔に浮かんだ。まるで恐ろしい悪夢から覚めたかのように、周りのすべてがあまりにも違って見え、自分がどこにいるのか理解できなかった。方向感覚の喪失があまりにも強く、軽い頭痛がした。
彼女の不調に気づいたアレフは優しく近づき、彼女の手を握り、穏やかな声で優しく尋ねた。
「姫様、大丈夫ですか?」
レティシア姫は頷き、自分の首にある繊細なネックレスに気づいた。薄い銀の鎖に留められた淡い青色のクリスタルが、太陽の光を受けて輝いている。驚いた彼女はアレフを見上げ、尋ねた。
「これは何?」
「お守りです、姫様。これからは身に着けてください。」
彼女はクリスタルを手に持ち、その美しさに見とれた。石は柔らかく輝き、まだ混乱していたものの、このお守りには何か安心できるものを感じた。それ以上質問することなく、贈り物を受け取ったが、アレフの態度に何かが違うこと、そして見知らぬ場所で不可解な目覚め方をしたことに、疑問を抱いていた。
二人は近くの村まで旅をし、一日休息を取った。散策中、レティシア姫は書店に興味を持ち、まだ続く長い旅の気晴らしになればと店に入った。アレフが店の外で待っている間、レティシア姫は棚の本を眺めていたが、王国の地図が彼女の目を引いた。
「どうしてこんなに早くこんな場所に?」と彼女は混乱しながら考えた。「記憶が少し曖昧になっている。」
地図を見ながら、レティシア姫は店員に、自分たちが通ってきたはずの町について尋ねた。店員の答えは、彼女の疑念を確信に変えた。アレフは何か特別な能力を使って二人を移動させていたのだ。地図に描かれた王国の紋章を見て、レティシア姫はリュウジ王子(Ryūji-ōji)からの贈り物に刻まれていた紋章を思い出した。そして、突然ある考えがひらめいた。同じ紋章がアレフの剣にも刻まれていたのだ。
「まさか!」と彼女は心臓が早鐘を打つのを感じた。「彼は…リュウジ王子なのでは? 王族の者だけが王家の紋章の入った剣を持っている。彼女とローレンの剣には冬の王国の紋章が刻まれていた。」
そして、パズルのピースがはまり始めた。ローレンはアレフの外見を説明した後に彼だと気づき、一緒に訓練したと言っていた。そして、王族の者だけがヨシ老師の訓練を受ける。アレフの戦闘技術…すべてが同じ結論を指し示していた。レティシア姫は、アレフが王室訓練の最終段階を実行するために身分を隠したリュウジ王子であると結論づけた。ローレンが春の王国でしたように。
「もし彼がリュウジ王子だとしたら…」レティシア姫は恥ずかしそうに微笑みながら考えた。「彼に恋をしても…いいはず。」
外で辛抱強く待っているアレフをこっそりと眺めながら、レティシア姫の頬は赤く染まった。自分の疑念を確かめる必要があった。贈り物に添えられていた手紙の筆跡が、最後の証拠となるだろう。
書店を出た後、レティシア姫とアレフは宿屋に行き、荷物をまとめて旅を続けることにした。レティシア姫はアレフが宿泊届けを書いているのを見ていた。少し離れた場所から、期待と不安が入り混じった気持ちで見ていた。心のどこかで、彼の筆跡が手紙と同じであることを切に願っていた。
紙に書かれた文字に視線を走らせると、彼女の心臓は大きく跳ね上がった。同じ筆跡だった。優雅で正確な筆致は紛れもなく同じで、安堵と驚きがレティシア姫を襲った。
この発見が彼女にどれほどの衝撃を与えているか知る由もないアレフは、宿泊届けを書き終えた。レティシア姫は視線をそらし、頭の中を駆け巡る考えを鎮めようとした。一瞬、安心感と同時に好奇心が湧き上がったが、この発見が自分にとってどれほどの意味を持つのか、明かすことはできなかった.
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