#73 昭和天丼物語

天丼なんか令和でもあるわ! という突っ込みはごもっとも

ですが このシリーズあくまで〝私の昭和〟でございまして

見えた範囲の出来事を書き綴りますのでお付き合いの程を


近所に大きなそば屋がありました。

母とPTAやら新宿婦人会(仮)でご一緒のばあちゃんと

息子夫婦に従業員で切り盛りしていまして、

椅子席に小上がりの座敷 二階には軽く宴会もできる

広間もありました

     もっとも二階の奥は住居でしたが

息子が嫁もらってるのに〝PTAで一緒のばあちゃん〟ておかしくないか?

それ 息子の嫁さんのことだろう 

は昭和を知らない

 

ばあちゃんには5人の子供がいて 代々この土地に住んでいる家だから 

息子が小学校の時から ず~っとPTA役員な訳で 

その末っ子が6年生の時に 母にとっては第一子の私が入学した 

という訳で親子程年は違っても ちゃんとPTAのお仲間なんですわ

      というか 本当にばあちゃんは私の祖母と同い年です

      まあ 私と叔母も11歳違いですからね

ある意味 均一化の進んでいない〝多様性〟の時代でしたんよ


で そのそば屋の厨房ですが 今みたいに衛生管理がうるさくないから

広い厨房の隅に 上がり座敷があって掘りごたつがあり 若夫婦の

赤ん坊はそこに転がされている 

母と私がそばを食べに行くと 大体厨房の掘りごたつでミカンとか

お菓子とかもらって 食べながらそばを待つんです


店の客の注文は小さなメモ紙に書いて敷居に並べて行きます

電話注文は 大学ノートに書く 

そこでよく見ましたよ そば屋の「今出る所です」

催促の電話受けながら 大学ノートをひっくり返しても書いてない

それでも「今 出るところです」と言って切って

「おい! ○○さんの注文!!」とどっかから「あ゛~~~っ!」と

それから 作って配達です もちろん最優先ですが


配達は概ね つけ払い 店頭は机にお金置いて出ていくのが普通

だから すぐ行って確認しないと 取りっぱぐれる

お金は金箱に投げ込み メモを書類刺しに刺して閉店後帳簿付ける

     があ 何回かに一回 メモはそのままゴミ箱に

     脱税ですな


ちなみに このそば屋にマルサが入った事があります

売上と申告額が合わないという事で どこから分かったと思いますか?

まず マルサ職員が何回も客として店に行き 色々な時間帯の客数や

注文単価をチェック いよいよおかしいとなった所で

店名入り箸袋の印刷所へ行って 納品数を抑えて来たそうです

確かに そば売れてないのに 箸袋注文しませんもんね


話それまくりました ここの店の天丼はエビ二匹 これがデカイ

天丼どんぶりに蓋がついてますが 蓋が閉まらない

      まあ 親子丼ならともかく 蓋の閉まる天丼はねえ

この天ぷらを揚げられるのが ばあちゃんしかいなかったんですよ

エビを油に落としてから周りに溶いたてんぷら粉 太い箸で

チャッチャッチャッと落としていくんですが これが

遠すぎるとエビ本体にくっつかない 近すぎると衣がもったり重くなる

たらしてしまうと線状の上げカスがくっついた感じになる

薄すぎると蓋したら折れてしまうし 衣の厚いのは論外です


食品サンプルの海老天でこの技を見ましたが

そば屋は これに揚げ時間 制限があるんですよ

エビが生でもなく 固くもなり過ぎず 衣の色が均一で美味しそう

という訳で ささやかなれども名人技ではあったのです

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