第5夜

眠るということは、深く沈むことに似ている。

コポコポ、コポコポ。

水の踊る音を聞きながら、どこまでも沈む。

遠くなる光。深くなるブルー。

自分の手が見えなくなるほど沈んでもなお、身体は沈む。

ブルー。ブルー。ブルー。ネイビー。

シフォンの裾が染まるのを眺めながら、意識は落ちていく。



これが深海であるならば。



足は砂の上にある。体は水の中にある。

水槽のように透明で、しかし天井では波が光を揺らしている。うんと遠い地平の彼方までこうなのだろう。

きれいな水は、何もない証拠。

美しきからっぽ。何もないショーウィンドウ。

ゆらゆらとシフォンの裾をなびかせて、たった一人の私は死滅回遊魚の装い。

仲間はいない。


いないが、来訪者はいるようだ。

うねうねとたくさんの足を動かしながら、彼はやってきた。

ああ君、頭が良すぎてここに来ちゃったんだね。帰りたいかい?

そう問えばYESと返事がくる。


タコとの会話は基本的に手話だ。

私に触手的なものはないので、指で代わりに会話する。


ここは人ではないものも来るが、そうした者が来るのは珍しいことでもある。


雑談に花が咲き、久しぶりに楽しい。



今日はタコの吸盤を数えながら寝る。




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夜と夕の狭間にて @soundfish

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