第5夜
眠るということは、深く沈むことに似ている。
コポコポ、コポコポ。
水の踊る音を聞きながら、どこまでも沈む。
遠くなる光。深くなるブルー。
自分の手が見えなくなるほど沈んでもなお、身体は沈む。
ブルー。ブルー。ブルー。ネイビー。
シフォンの裾が染まるのを眺めながら、意識は落ちていく。
これが深海であるならば。
足は砂の上にある。体は水の中にある。
水槽のように透明で、しかし天井では波が光を揺らしている。うんと遠い地平の彼方までこうなのだろう。
きれいな水は、何もない証拠。
美しきからっぽ。何もないショーウィンドウ。
ゆらゆらとシフォンの裾をなびかせて、たった一人の私は死滅回遊魚の装い。
仲間はいない。
いないが、来訪者はいるようだ。
うねうねとたくさんの足を動かしながら、彼はやってきた。
ああ君、頭が良すぎてここに来ちゃったんだね。帰りたいかい?
そう問えばYESと返事がくる。
タコとの会話は基本的に手話だ。
私に触手的なものはないので、指で代わりに会話する。
ここは人ではないものも来るが、そうした者が来るのは珍しいことでもある。
雑談に花が咲き、久しぶりに楽しい。
今日はタコの吸盤を数えながら寝る。
夜と夕の狭間にて 塔 @soundfish
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夜と夕の狭間にての最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。