マークドデック ー2024/7/19 Fry 23:59
大和の容体は落ち着いていた。誠也が一勝したことにより、榊はどうやら治療をしたようだ。
すぅすぅと、寝息も聞こえる。そのことにひとまずは安心して誠也は榊と向かい合う。
次も勝てばいい。質問は次にすればいい。
今日は金曜日。今日と明日勝てば良い。
ブラックジャックは二十一を目指すゲームだ。それ以上を越えると強制的に負けになる。
そのため狙うカードは低い数字のカード。
だが、数が少ないカードは致命傷となるカードが多い。頭部を司る皇帝、首を司る法王を逆位置で引きなおかつ負けると、大和は即処刑執行となり死亡する。
このゲームを作ったのは榊だろう。これが意図的なのかそうでないのかは置いておいて、妙に上手くできたゲームだと誠也は感心する。榊優菜は頭が良い。この大学に特待生で進学する、それは並大抵の努力ではなく第三者からみれば天才と言わざるを得ない。
「ゆうな、俺がこのゲームに勝ったらさっきの質問に答えてもらう」
けれど誠也も負けてはいられない。
「逆位置を引いてもゲームに勝てば良い」
「そういうこと。誠也くん、運がいいから」
誠也は山からカードを引く。榊も同様に手を伸ばす。同時にひっくり返し運勢を占うかのように。タロットは迷い子たちの運命を指し示す。
必然に残酷に。
「力の……逆位置」
「悪魔の正位置」
力の逆位置。つまり、このゲームで誠也が負ければ橋下大和は心臓を潰される。
「悪魔だから、十五かぁ。まだまだ余裕あるね」
誠也が引いた力のカードは八。低い数字のカードを引いたこともあり、こちらも余裕がある。
「じゃあ引くね?」
榊は楽しそうにカードを引く。
「あ、逆位置かぁ。皇帝だから四だね」
榊が逆位置を引いたところでデメリットはない。このゲームは誠也が圧倒的に不利であり、このゲーム自体がイカサマのようなものだ。
「……逆位置の、法王。つまり五」
誠也はこっそりと捲る瞬間にカードの左端に折り目をつける。このゲームは二十一枚存在する大アルカナから星座に該当する十二枚を選択して行うブラックジャック。
そのため、そのカードがなんの数字であるかが分かり、なおかつ、カードを逆位置で引かなければ良いのである。本来ブラックジャックを行う時にはトランプを全て使うため、マークをつけても見つけることが困難である。だが、このゲームのカードは十二枚しかなく目印を作れば簡単に見分けがつく。
――この手の小細工も、榊がこの場を仕切り、タロットも彼女が用意したことを考えると、マークドデック、つまりこのカードに何かしらの細工をされていて榊だけが見分けられるようになっている……をされている可能性もあるが。その点はおそらく考慮しなくて良いだろう。
榊もカードをコントロールできない。今日が最後のゲームであるはずなのに、榊は微塵もこのゲームでイカサマをしてこない……。
「誠也くん、ここでギブアップ? それとも引く?」
榊のカードは悪魔の十五と、皇帝の四。足すと十九になり二十一に近い数字となる。
「私はもう良いかな、これで勝負する」
対して誠也のカードは力の八と、法王の五。足しても十三でありこのままでは榊に負けてしまう。――ここで負けるわけにはいかない。
逆位置を二つ。力は心臓、法王は首。このまま負ければ大和の心臓を潰され首が飛ぶ。が、ここで引かなければならないカードは限られる。
この場に、皇帝の四、法王の五、力の八、そして悪魔の十五が出ている。二十一になる、力の八は既にこの場に出ているため引くことができない。残る小さい数字は恋人の六と、戦車の七であるが、六を引いても誠也の場は十九で止まり榊の場とイーブンになる。
イーブン、よりは勝ちを狙って終わりたい。
その確率はかなり低い。
「……あれ」
この場にあるカードは残る八枚。カードをよく見ると一枚だけ端っこがぺらりと捲られているのだ。それはマークをつけるように。
それはいつ、ついたものか?
少なくともさっきまではなかった、ような。
「……」
よく見ると、カードの隅に折られた後があるカードが他にも何枚かある。よく見るとこのターンで引いたカードにも折り目がついているのだ。
――折り目がついたカードは、力。
「どうしたの? 早く引きなよ」
誠也は考えた挙句、左下に折り目がついているカードを引いた。
「……ふふっ、すっごぉい。誠也くんって本当に運が良いねぇ。戦車の七。誠也くんが選んだカードは二十になった。二十一に近い君の勝ち。良かったなぁ、大和くんを守ったね」
「よく言う」
おそらく榊はこのゲームまでに引いたことのあるカードに全てマークをつけていた。
榊が引いたカードは正義の十一、戦車の七。月の十八、力の八。
折り目がついているカードは四つ。そのうち、力はすでに開かれている。そのため、誠也が必要な戦車の七を引くためには、三つの折り目があるカードのうち一つを選べば良い。
右利きの榊はカードを捲る時に左から上に捲るだろう、そう思って誠也は左下に折り目があるカードを引いた。
「お前が引かせたくせに」
誠也が引いたカードは、戦車の正位置。
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