書籍化記念・没インタビューを公開

 お疲れ様です。加藤です。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 突然ですが、この「もしも、カップルが……」という短編小説の中の一部が『たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない』として書籍化されまして、好評発売中であります。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322408000643/

 

 しかし、書籍になるまでには様々な試行錯誤、時には迷走がありました。書いては捨て、書いては捨て、その繰り返しです。その「捨て」の中には、我ながら「けっこうイイ感じになったのではないか」と思いつつ、しかし泣く泣く「捨て」になった物もあります。今回はそんな中から、編集さんと作った「書籍化インタビュー記事」の没バージョンを公開することにしました。何故にと言われますと……せっかく書いたので、いわゆる供養というやつです。

 

 ちなみに、こちらが正式な書籍化記念インタビューです。


https://kakuyomu.jp/info/entry/truck_interview


 言ってることはあんまり変わらないのに、なぜ没になったのか? よければ、その理由を以下から始めるインタビュー原稿を読んで確かめてみてください。そして供養として、手の一つでも合わせて頂ければ幸いです。




【インタビュー】書籍化記念! 『たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない』著者、加藤よしき大いに語る



――今回は『たとえ軽トラが突っ込んできても僕たちは恋をやめない』の発売、おめでとうございます。さっそく読んだのですが、とても良い作品でした。


 そう言ってもらえるのが何よりだよ。ここに至るまでは、本当に長いジャーニー(旅路)だったからね。今回のアルバムのレコーディング(執筆)は、オレにとって、何もかもがかつてない試みだったんだ。ほとんど『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなもんさ。オークの軍団と戦って、邪悪な魔法使いが現れ、仲間との絆が試されて……マジで大変な道のりだったけど、なんとか指輪を火山に投げ捨てられたってトコかな(笑)。


――お疲れ様でした(笑)。では今日は、その“ジャーニー”について、順を追って詳しく聞かせてください。


 オッケー、何でも聞いてくれ。


――まず、あなたがカクヨムを始めた経緯を教えてください。


 もう何年も前のことだけど……。web小説を読んでいて、オレも書きたいなぁと思ったんだ。ガキの頃から小説を書くのは好きだったからね。それに、当時は会社員もやってて、これがまた大変な仕事でさ。毎日、犬ころみたいに働いて、クタクタになって寝て、また起きて、仕事に行って……そんな生活をずっと続けていたんだ。気が狂っちまうような生活だったし、実際、メンタルに大きな問題が起きたよ。今でもそれは引きずっている。

 ま、とにかく狂った環境で正気でいるために、オレらしいことが出来る場所が欲しいと思ったんだ。そのとき、ちょうど「カクヨム」のサービス開始を知ったんだよ。しかも当時の「カクヨム」はサービスが始まったばかりで、ある種の無法地帯だった。実際、運営のKADOKAWAとトラブルになった作家さんの手記が投稿されて話題になったりしてね(笑)。こういう場所なら、オレが書くにはピッタリだなって思った。そして期待通りだったってワケだ。


――期待通り、というのは?


 さっき言った通り、無法地帯だったから、オレが好きなセックスやヴァイオレンスはもちろん、それどころか、もっとパーソナルな話だったり、ネガティブな感情も吐き出せたんだよ。でも一方で、たとえばポップなラブコメを書きたいと思ったら、そういう話も書ける。もちろんゾーニングはあるけど、基本的に何を書いてもいいし、多くの人に読んでもらえた。「カクヨムと言えばこれ!」みたいな、サイトの方向性が決まってないのも良かったね。そういう方針やイメージがあったら、今ごろもっとそれに寄せたものを書いていたと思うよ。あの頃のオレはまだ若かったし、チャートの成績を無視できるほど“SATORI(日本語で)”の境地には至ってないからね。

 もちろん今もカクヨムのカオスな気風は失われていない。王道のファンタジーもあれば、ホラーもあるし、不条理コメディもある。ともかく、そういうカオスな環境があったおかげで、オレも100%カオスになれたし、何よりカオスを楽しむオーディエンスもいて、多くの人がオレのギグ(小説掲載)にポジティブな反応をしてくれた。

 とは言え、書籍化のオファーが来たときは、運営側の正気を疑ったけどね(笑)。


――書籍化が決まったときは、どんな気分でしたか?


 もちろん、詐欺だと思ったよ(笑)。だって「浮気された女性が殺人ザリガニに襲われる小説が気に入りました。Twitterであなたがやっている、いい感じのカップルのところに軽トラが突っ込んでくるツイートも好きです。そういう短編集を出したいです」ってメッセージが届いたら、まず詐欺だと思うのが当然だろ? あまりにもクレイジーな話で困惑したよ。もちろん作家として本を出すのは、子どもの頃からの夢だったから、嬉しかったよ。でもマジで混乱したんだ。編集にイエスの返事をしたあとは、こんな調子さ。「神様、オレの夢を叶えてくれて、ありがとうございます。ところで、オレはこれからどうすりゃいいんですか?」。


――なるほど(笑)。「軽トラが突っ込んでくるツイートを小説にする」は、あなたが先ほど言った「かつてない試み」ですね。


 まさに! 「140文字で完結しているものを、短編小説に膨らませる」っていうアイディアは、担当編集さんから出してもらったんだ。オレはとても気に入ったよ。挑戦的で、成功したら自分のレベルを引き上げることもできるだろうと確信した。でも、実際にやると大変でさ(笑)。ツイートはワンアイディアで成立するもので、小説とはまったく別物だ。140字で完結しているツイートを膨らませるのは、内容を薄めることに繋がりかねない。

 たとえば……そうだな。SLAYERの「Angel Of Death」は名曲だけど、30分もあったらダメだろ? あれは4分51秒の曲だからクラシックなんだ。

 そりゃツイートの方の文字数を増やすという選択肢もあったんだろけど、それには青バッチが必要だ。でも、オレは意地でもTwitter(現X)に課金したくないね。イーロン・マスクが嫌いだから(笑)。


――しかも最後の2編を除いて、すべて「軽トラが突っ込んでくる」という縛りもありますしね。バリエーションを出すのは苦労したんじゃないですか?


 メチャクチャ苦労したよ(苦笑)。かなり悩んで、精神的に追い詰められた時もあった。途中で投げ出してしまう可能性すらあったと思う。でも、編集さんが粘り強くサポートしてくれてね。あの編集さんこそ、まさにオレの“旅の仲間”だよ。完成形が見えずに悩んでいるオレを、根気強く待ってくれて、時にはオレに見えてなかった完成までの道のりも示してくれた。バリエーションを出せたのも、やはり編集さんとやり取りがあったからだ。読んでくれて、感想をくれる人がいるのは強いよ。編集さんのサポートのおかげで、全部がそれぞれ違う読み味の作品になったと思うし、すべてを読み終えたときに「あの突っ込んでくる軽トラは何なんだ?」という問いに答えが出る構成にも仕上げられた。断言するけど、オレだけではこの形にはできなかったよ。もっとも、そんな編集さんでも打ち合わせでは「すみません、今から無茶振りするんですけど……」と口癖のように言っていたけどね(笑)。


――最終話を読むと軽トラおじさんの正体が分かるようになっていますが、あの構成も編集の方と話しながら作って行ったんですね。では、実際に完成してみて、自分の中で特にお気に入りのものはありますか?


 う~ん、どれも思い入れがあるから、難しいけど……最終話は、やっぱり特別だね。他よりも遥かにオレの内面に踏み込んだ話で、オレにとっては、ある種のセラピーでもあった。次に気に入っているのは美術部の先輩と後輩を書いた「この夢を、きみと描けたら」かな。天才と凡人というテーマに対して、個人的にいい落とし所を見つけられたと思う。青春モノであり、大好きな人体損壊描写も入れられたし(笑)。あとは書籍化の決め手になった、カクヨムで公開している「恋に落ちたら~殺人ザリガニ~」も好きだね。不倫モノとモンスターパニックを上手く合体させることができた。そういうのが単純に好きなんだ。映画でも「おっ、ここからジャンルが変わったな」ってあるだろう? オレが好きなのは、ああいう瞬間なんだ。


――なるほど。あなたの作品には、しばしばジャンルの横断が見られますね。そういった部分も含めて、影響を受けた作品はありますか?


 平山夢明先生の影響は大きいね。ホラー作家のイメージが強いけど、オレは2010年代くらいから始まった“イエロートラッシュ”シリーズが大好きなんだ。基本的に残酷で悲惨な物語なんだけど、哀愁と優しさがあるんだよ。『デブを捨てに』(文藝春秋/2019年)とかね。執筆中に何度も読み返したね。

 それとマンガだけど、たーし先生の『ドンケツ』(少年画報社/2011年~)も欠かせない。「そしたら沢田のアニキが1人でその場所に行ってなァ、 ロケットランチャーをぶっ放して~」っていうコマで有名な、ヤクザの群像劇だ。本伝もイイんだけど、今回の作品への影響という意味では、外伝から強くインスピレーションを受けたよ。外伝は特定のキャラを掘り下げがメインで、コメディや恋模様もあったりする。このマンガの凄いところは、ヤクザの暴力性を徹底的に描きながら、だからと言って露悪的でもないところだ。むしろ優しさすら感じる。人がボコボコにされて転がっているのに、不思議と暖かい空気で終わるんだ。しかも、そこに説得力があって、納得もできる。凄い作品だと思うな。

 あとは香港映画と韓国映画全般、それと三池崇史監督の初期のVシネ作品も。どれもパワフルなアクションと、情熱的な人間ドラマと、「え? 今のは何?」と二度見するようなショッキングなシーンがあって……と、あまり語り出すと終わらないから、これくらいにしておこう(苦笑)。


――ありがとうございます。ところで今回の帯には、王谷晶さんと麻布競馬場さんがフューチャリングされています。お二人からのコメントはどのように受け止められましたか?


 あの二人をこういう形でフューチャリングできたのは、とても幸運なことだよ。二人ともTwitter上でいつの間にか 相互フォローになってたんだ。それで、イイ機会だから、とりあえず声をかけさせてもらった。二人は正反対な存在だから、どんなコメントを貰えるか楽しみだったね。王谷晶さんは、この短編集の恋愛小説的な部分を褒めてくれた。オレは王谷さんが書く人間と、その人間たちが織り成すエモーショナルなドラマ、あとは王谷さんの中にある美学が大好きだから、あのコメントは最高の栄誉だったよ。麻布競馬場さんは、「青春」「本物」という言葉を使ってくれていた。オレは麻布競馬場さんの書く細かいディティールと、常に漂う終わらない青春の残酷さ、あとは本質情報が好きなんだ。そういう人から「青春」「本物」という言葉を引き出せたのは、嬉しかったね。二人のコメントは、今度もやっていこうというモチベーションにもなったよ。


――今後の話が出ましたが、次回作の構想なんかはあるんでしょうか?


 次はトラックが突っ込んでこない小説を書きたいね(爆笑)! ある意味でストレートな伝奇アクションや、スポ魂モノ、あとはモンスターパニックも書きたいな。


――なるほど(笑)。では最後に、Twitterのフォロワーの方や、カクヨムの読者に向けて、何かメッセージはありますか?


 みんなへのメッセージは「助けてくれ!」と「ありがとう!」と、あとは「とにかく読んでください!」かな(笑)。このアルバムを面白いと思ってもらえたなら嬉しいよ。ひと笑いして、少しでも日常の嫌なことを忘れてもらえたり、読み終わって「明日も頑張ってみるか」みたいな気分になってもらえたら、これは作家という仕事として、最高の成果だと思うね。逆に面白くなかったら、それはそれでイイと思う。オレの小説を読んで「こうすりゃもっと面白いのに!」と思ったら、それを形にしてほしい。ある意味での踏み台に使ってもらって結構だ。怒りとか不平不満とか、そういう言葉はネガティブに聞こえるけど、創作の大事な要素であることも事実だと思うしね。オレもそういうタイプだから(苦笑)。ともかく、今回オレが辿ったジャーニーの結晶が、あなたの心をポジティブな場所へ連れ出すように祈るばかりだ。だから、すべてのブラザー&シスター、良い旅を! ただし心が変な飛び方をしないように、シートベルトはしっかり締めてくれ!






 ※このインタビューは原稿の完成・提出後、編集部と相談が発生し、「ただでさえ困る本なのだから、これ以上、読者が混乱させるようなこと、そして加藤さんが本気でこういう人だと勘違いされることは避けたい」という話し合いがあり、両者合意のうえで没になりました。

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【書籍化】たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない/(原題・もしもカップルが…… 加藤よしき @DAITOTETSUGEN

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