第47話 ご相談が!
「やあ、琴ちゃんが来てくれるとは驚いたなあ。」
「ちょっと、ご相談がありまして。」
「何々?私の事が好きすぎて、どうしたらいいか困っていると…。」
「違います!」
「冗談だよ。コルリ、紅茶をいれてくれるかな。」
「かしこまりました。」
美羽家に到着すると、コルリさんたちはすぐに奏さんの部屋まで案内してくれた。奏さんの部屋のドアを開いた瞬間に、奏さんと目が合った。彼女は左程驚く様子もなく、いつものように軽口をたたいた。
コルリさんは紅茶をいれるように指示されると、丁寧に礼をして部屋を出て行ってしまったので、今この奏さんの部屋にいるのは、彼女と私の二人だけだ。
「それで?相談って?」
「あの、夏季休暇中は寮がしまるので、どうしようかと思っていて。」
「なんだそんなことか。」
そんなことって。これでも私色々考えて悩んでるんですけど。
奏さんはけろっとした表情で話す。
「それなら夏季休暇中は私の家に住んだらいいよ。来客用の部屋もあるし。」
「はい、……え?今何ておっしゃいました?」
「私の家に住んだらいいよって言ったんだよ。」
「本当ですか。」
「もちろん。」
「勝手に決めちゃって大丈夫なんですか?奏さんのご両親にも許可を貰わないといけないですよね。」
「ああ、そのことは気にしないで。」
奏さんは手をヒラヒラさせた。
「うちは自由主義だから。父親は仕事で忙しいから外泊が多いし、母親は遠くにいるからこの屋敷にはいないんだ。普段は私と使用人だけしかいないし、気兼ねなく家で過ごしてもらっていいよ。」
「そんなわけには。」
「まあまあ、素直に甘えてくださいな。と、コルリが戻ってきたね。さあ、夏季休暇の件は片付いたからのんびり紅茶でも飲もうじゃないか。」
コルリさんは台車に乗せたティーセットを丁寧にテーブルの上に並べなおすと、私と奏さんに紅茶をついでくれた。
「コルリ、夏季休暇中は琴ちゃんを家で預かることになったよ。」
「さようでございますか。」
コルリさんも特に驚く様子はなく、私に紅茶を差し出した。本当に大丈夫なんだろうか。
「琴ちゃん、大丈夫だから安心していいよ。そんな眉間に皺を寄せていたらおいしい紅茶が渋い味になっちゃうよ。」
フフッと笑いながら奏さんは慣れた仕草でティーカップに口を付けたのだった。
「寮が閉まる前日までに荷物をまとめておいてね。コルリたちに取りに行かせるから。教科書とか、課題とか。服とか身の回りの品は家のものを使ってくれていいから別に準備しておかなくても大丈夫だよ。」
「そこまで甘えるわけにはいきませんので全部持っていきます。」
「私は甘えてくれていいんだけど。」
「そういうわけにはいきません。」
「やれやれ。また琴ちゃんの頑固が発動しちゃったなー。」
奏さんは苦笑した。そんな風にからかわれながら会話をしているとあっという間に門限が近づいてきてしまう。ほんと奏さんといる時は時間の進みが早すぎる。
「おっと、こんな時間だね。そろそろ寮に戻ろうか。」
「はい。あ、そういえばこれ渡すの忘れていました。ごめんなさい。」
私は奏さんにあの写真が入っている封筒を渡した。
「ありがとう。中身見た?」
「はい。何でこの写真印刷しちゃったんですか!」
「えーだって琴ちゃんが可愛かったからつい。」
「可愛くないです!変な顔してたじゃないですか。」
「そこが可愛いのに。」
奏さんは私の手に撫でるように触れて、するりと封筒を受け取った。
「じゃあ、帰ろうか。お泊りする準備よろしくね。夏季休暇中楽しみにしてるよ。」
「………お世話になります。」
「うん、待ってるよ。」
「奏様。雪野先生がお呼びですわ。」
「えー今から琴ちゃん送るのに。」
「早く来い、とのことですわ。」
「ちぇっ。じゃあ、琴ちゃん。寮までは私の代わりにコルリたちが送ってくれるから。またね。」
奏さんは残念そうに雪野先生の下へ行ってしまった。そして私は、コルリさん、メジロさんと一緒に車に乗り込み寮へ向かった。あれ、そういえば使用人はもう一人いたような。
「あの、ヒバリさんは?」
「ああ、ヒバリは奏様と一緒にお留守番ですわ。」
「そうなんですね。」
「ええ。」
心地よく揺れる車。外はすっかり暗くなっており、街中の外灯をぼんやり見つめる。
「夏季休暇、お越しいただくのを楽しみにしていますわ。」
「コルリさん、本当は迷惑だとか思っていませんか?」
「いいえ、琴子さんと一緒にいらっしゃるときの奏様は何より楽しそうですから。私は奏様が楽しそうに過ごしてくださるのが一番なので、むしろありがたいとさえ思っていますわ。」
コルリさんは上品ににっこり笑った。
あっという間に車は寮まで到着し、無事門限を破ることなく寮へ戻ることが出来た。
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