木を見て森を見る、そして
そうざ
You don't See the Forest for the Trees, and
遂に特別列車〔ネーミング号〕に乗る機会に恵まれた。
客車は全席指定のゆったりとした一人掛け
通常この手の列車は割増料金を取られて当たり前だが、この〔ネーミング号〕は或る条件を満たしている人間だけが無料で利用出来る。
車窓の景色がゆったりと過ぎて行く。敢えて走行速度が抑えられているのも、乗客に優雅な旅を約束する為の演出なのだ。
「一人旅ですか?」
通路を挟んだ隣席から、男性が不意に声を掛けて来た。
「はい」
「私もです。初めてのご利用で?」
「えぇ、そうなんです。昨夜はわくわくして中々寝付けませんでした」
「そうでしょうねぇ、私も初回はそうでした」
「二回目ですか?」
「六回目です」
「えっ!」
目を見開いた僕を見て、男性は
〔ネーミング号〕に二回乗った事があるというだけで、マニアの間で尊敬と羨望の対象になる。それくらい条件が厳しいという事だ。
まだ年若いのに六回目とは、僕はまじまじと男性を見てしまった。
「身分証の再確認にご協力下さい」
隣の車両から、ぱりっと制服を
チケット購入時に身分の確認は済ませている。が、転売業者を介して不正に乗車する
「拝見致します」
車掌は僕のIDカードを見て、声のトーンを上げた。
「ほう、お客様はこの先まだ三回もご乗車のチャンスがございますね!」
「はい、両親に感謝です」
〔ネーミング号〕を運行しているのは、林業従事者が伐採した樹木を輸送する為に設立した企業で、それに因み、姓名に『木』の入った人を無料招待する企画を発案したのだ。
紹介が遅れたが、僕は
「拝見致します」
隣席のIDカードを見た車掌の声が裏返った。
「あのっ、失礼ではございますが、何とお読みすれば……?」
「モリバヤシ・ユウと申します」
僕は、反射的にそのIDカードを覗き込んだ。そこには姓を示す『森林』と、草冠『艹』の下に置かれた大きな『口』の中に『木』が三つずつ三段に分かれて九つも並ぶ名が記されていたのだった。
※作中の『ユウ』は、垣で囲った庭園を意味する漢字だが、外字である為、この場には記せない。各自、ネット検索等をされたし(作者注)。
木を見て森を見る、そして そうざ @so-za
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