しんしんと胸を打つ、優しさと不自由と歴史に縛られたあまりにも深い愛の話
- ★★★ Excellent!!!
実は随分前に序章を読んでいて、読んだ瞬間「これは一気に読みたい」と寝かせてしまっていたいち読者です。
日々の応援が作者さんの力になると分かっていれど、案の定あまりにもどっぷりと浸りつくしたい作品でありました……!
大正から昭和初期にかけての日本が舞台のこの話は、歴史上の事件も絡んできます。しかし、病弱な主人公故にそういった内容はずっとどこか遠い扉の向こうの話で、故にこそじっくりと内面の話に浸れます。
性差、惑い、そして大事だからこそ守りたいという登場人物たちの深い愛。主人公の雪代や主要キャラである正年だけに他ならず、皆が皆しっかりとした意志を持って「病弱で何も出来ないと嘆く雪代を、どうしてこんなにも想っているのか」が十二分になるほど伝わってきます。読んでるこちらも、雪代に魅了されてしまうくらいに。
作品どころか作者さん推しの読者でありますが、やはり変わらず「我慢強く高潔で優しさに振り切れている軍人」を描くのが上手すぎる。激情を押し殺しながらも理性的に相対する彼らの姿が、ぐっと胸に来ます。
全てを読み終わった後に読み返すと、「よくここ、こんなに冷静に対処出来たな!?」と思うこと山の如しで、かつ読みながらでもこのしんしんと静かな文体でするすると描かれる話の中に潜む、燃え上がるような情念の炎が垣間見えるのが、凄まじい筆力だなと感じ入りました。
優しさや愛の表し方にも千差万別あり、そこに正解も不正解もないのだと。苦しく、受け入れがたく、故にこそ離れがたい。
思いが深すぎて苦しいぐらいの作品を読みたい方、是非こちらの作品を。
圧倒的な解像度で描かれるこの世界に、私と同様にどっぷりと浸って欲しいです。