思春期へ帰ってこさせられたセクシーパラディン:S10

「食えへん男やな、自分」

 試合が終わってお昼休みになって、目渡はセクシーパラディンにそう話しかけた。

「どこが?」

 ユーキチはユニフォーフの腹の部分で顔を拭きながら返事をする。その動きで見事な腹筋が露わになり、女生徒達が一斉に悲鳴を上げた。

「そういうところや!」

 目渡は言いながらカーテンを閉める。彼らが昼休憩用に与えられたのは普通の教室で、恐らく一年生が入っている一階だ。廊下と反対側は中庭に面しており、容易に外から覗き込める状況だった。

「男の腹筋チラ見せは女が胸の谷間を見せるのと同じやねんぞ!」

 そう叫ぶ目渡の言葉を聞いてサッカー部員達が互いの腹筋を見せ合いキャアキャアと騒ぐ。しかし女子高生陰陽師の一睨みですっと静かになった。

「そうやったんか。すまん、知らんかった」

 ただ一人、セクシーパラディンだけはその睨み沈黙する事なく着替えながら言葉を発する。

「俺は自分で言うのも何やけど無知な方やねん。他にも至らん所があったら教えて欲しい」

 その言葉にも嘘はない。彼は兄弟姉妹と違い、かなり若い頃から寺院へ入り聖騎士としての修行を始めた。寺院は俗世とは精神的にも物理的にもかなり隔てた場所にある。戦闘術や悪魔と闘う術については詳しいが、その他の知識については無垢と言っても過言ではなかった。

「そうか? ずいぶん、戦い慣れしとる感じやったけど?」

 無知というかムチムチやないか! とユーキチの胸筋を見た目渡は思ったが、口にしたのは別の言葉だった。

「失点覚悟であの能力、使うの惜しんだやろ? ずいぶん頭のええ戦い方するんやね、聖騎士さんが」

 京都の女子高生は外国人がやるような両手で引用符を示すジェスチャーをし、京都人らしい嫌みで『聖騎士』と言った。

「リーグ戦でな、次の試合の事も考慮において闘う事は、決して卑怯な訳やないで」

 一方のセクシーパラディンは特にそれが効いたようなそぶりもみせずに言い返す。

「次の試合に向けてエースを温存するとか、決勝トーナメント進出を狙ってわざと引き分けるとか。0-1の負けでもいけると計算して、ビハインドやなのボール回しを続けた例もあるし」

「……えらい詳しいやん」

「そういう自分はあまり詳しくないのにサッカー部の支配者なんやな。あれか? 高校進学時に慌てて詰め込んだんやろ?」

 それは本当に何気ない一言だった。しかし目渡の目が一瞬で潤み、ユーキチの肩で眠っていたサキュバスが一気に目を覚ました。

「むむむ! いいんです! 欲情の匂い!」

「別に! そんなんちゃうわ!」

 目渡はそう吐き捨て彼らに背を向けたので、その否定はどちらへ向けたものか分からなかった。

「(ねえ、セクシーパラディンっち! もしかして彼女がサッカーする理由って……)」

「(ああ。今ので確信した)」

 聖騎士は淫魔と小声でそう囁き合う。そしてしばらく考えた後、ユーキチは口を開いた。

「ごめん、目渡さん。でも一つだけ教えて欲しい」

 謝罪に付け加えてセクシーパラディンは意外な問いを目渡に投げる。

「はあ? いや教えてもええけど……それが何なん?」

「それがな。自分の言う『頭のええ戦い方』の肝になるねん」

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セクシーパラディンとセクシーフットボール 米俵猫太朗 @komedawaranekotaro

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