孫呉の姫
第43話 婚姻準備
どうしてこうなった?
交州から呼び出された原因は俺の嫁取りの為だった。
しかも相手は孫権の妹!?
史実では孫権の妹は孫夫人と呼ばれて劉備の嫁になっている。
これは孫呉と劉備の同盟強化の目的の為が表の理由で、裏では劉備を内側から監視するのが目的の婚礼だった。
それが証拠に孔明は孫夫人を『外に曹操、孫権が有り、内には孫夫人の脅威が有る』と断言しているのだ。
そして孫夫人は劉備が益州を得ると勝手に孫呉に帰っている。
この時に
その後彼女がどうなったのかは分からない。
その孫権の妹孫夫人が俺の嫁になると言うのだ。
発案者は魯粛。
彼は孫呉と劉備軍の同盟関係強化を狙ってこの婚姻話を持ち込んだ。
そしてそれでなぜ俺が選ばれたのかというと、まず俺が劉備の養子で後継者候補筆頭だからと言う事と、更に年が近いと言う事も有る。
何より今の俺の名声が孫呉で高くなっているのも理由の一つだ。
俺の名声が高まっている原因は赤壁に有る。
周瑜に寄る矢の調達事件で、俺が船の上で
しかも長坂の戦いで俺が曹操の前で啖呵を切った話が無茶苦茶盛られて広まっていた。
その話を魯粛は劉備達の前で披露し、『是非に』と説得したそうだ。
劉備の名声には遠く及ばないが、俺も中々名前が売れてきたようだ。
そして俺は考える。
本来の歴史とは違い、劉備ではなくなぜ俺なのかと言う事を?
答えは劉備の妻子にあった。
史実では劉備の妻甘夫人はこの頃には亡くなっている。
その為フリーになった劉備と孫権の妹との婚姻が成立した。
しかし現在甘夫人は健在で病気や怪我などで亡くなる気配もない。
なぜか?
それは俺が甘夫人を含む重臣の妻子を守る為に関羽に預けたのが原因だろう。
本来なら重臣の妻子はことごとくが亡くなり、その中で生き延びた甘夫人はその事に思い悩み亡くなったのかも知れないと考えられる。
しかし今現在は重臣の妻子は健在で、甘夫人も健在だ。
よって劉備がフリーになる事はない。
劉備がフリーでなければ孫権の妹との婚姻も成立しない。
そして劉備軍に置いて劉備に次いで重要な人物は誰か?
それは劉備の後継者候補筆頭の俺しかいない。
しかも今現在俺はフリーで婚姻を申し込むには絶好の機会であり。
この条件が揃った事で俺と孫権の妹の婚姻話が持ち上がったのだ。
ただ問題が一つ。
本来なら俺の嫁は劉備の娘が前提だ。
これは劉備の養子となった俺が本当の劉備の息子になる為に必要事なのだ。
前世の俺(劉封)もそれが前提で劉備の養子になった。
しかし前世では劉封の嫁候補の劉備の娘二人は長坂で曹操軍に囚われてしまった。
この為に劉封は劉備との繋がりが持てなくなったのだ。
前世の俺(劉封)はことごとくツイてない。
劉備の養子に成ったら阿斗が産まれ、その後嫁になる筈の娘は居なくなる。
本来なら長沙劉氏のサラブレッドで将来はほぼ安泰だった男が、劉備と関わってしまった為にその運命を狂わされたと言っても過言ではないだろう。
そして最後は父と信じた人から死ねと命令される。
こんな不幸な人生が有って良いのだろうか?
しかも同氏の結婚は当時はタブーとされていた。
その為に劉封は母方の姓寇氏を名乗って劉備の養子となる手の込みよう。
以前大人の事情と言ったのはこの為だ。
ここまでした劉封の末路が死刑とはあんまりだろう。
しかし、今俺(劉封)の人生はターニングポイントを迎えた。
ここで孫権の妹と結婚すれば確実に運命は変わる!
絶対にこの好機を逃す事は出来ない!
「兄さま。孫呉に行くと聞きました。本当ですか?」
「本当?」
劉備の娘二人が俺にすがり付いて上目遣いで俺を見ている。
今俺は劉備の屋敷に来ている。
甘夫人と劉備の娘
樊城で別れて以来三人には会っていなかった。
再会を約束していたのに今まで忙しくて会えなかったのだ。
ちなみに阿斗とは既に会っている。
今は屋敷の中で昼寝をしている。
呑気に昼寝とはいい身分だ。
阿斗のこの後の人生はほぼ安泰で俺とは違う。
ちょっと憎らしいと思っていたが阿斗の寝姿を見てそんな考えは無くなった。
まだ阿斗は三歳なんだ。
こんな幼い子供を憎んで何になる?
例え阿斗が成長しても俺は義理の兄として彼を助けていくだろう。
大きすぎる父を持つ兄弟として仲良くやっていこうと思う。
そして今は劉備の娘二人と遊んでいる。
劉華は琴を弾き劉春は笛を吹いて自慢する。
「上手くなったでしょう」
「でしょう?」
「ああ、上手くなったね。二人とも」
俺がそう答えると二人もキャッキャッと喜んだ。
その反応は年相応で大変可愛らしい。
カワイイは正義!これは絶対!
その後二人は今まで会えなかった分俺に甘えてベッタリであった。
カワイイ二人に囲まれて俺の頬も緩みがちで、平和な一時を過ごした
そして俺が帰ろうとした時に二人に孫呉行きの件を聞かれたのだ。
「まだ先の話で春頃になると思うよ」
「本当ですか?」
「本当?」
俺は二人の頭を優しく撫でてから甘夫人の下に向かった。
屋敷の主に挨拶して帰るのは礼儀だからな。
この屋敷の主は今は劉備ではなくて甘夫人だ。
劉備は屋敷には中々戻れないからな。
「甘夫人。今日はこれで失礼したいと思います」
「お待ちなさい」
はて? 何かな?
甘夫人は厳しい眼差しを俺に向ける。
うっ、なんだろう?
「孫呉の姫と婚姻すると聞きました。本当ですか?」
「ほ、本当です。春頃に向こうに行く事になっています」
嘘を付く必要はない。どうせ直ぐに分かる事だ。
だから正直に話す。何も隠し立てする事もない。
「では、直ぐに戻ってくるのですか?」
えっと、どうなんだろう?
「直ぐにとは、行かないかも知れません。ですがなるべく早く戻るつもりです」
あんまり孫権の近くには居たくないな。
だって俺、あいつ嫌いだし。
「そうですか。華や春は貴方を慕っています。それを忘れないように」
「は、はい」
なんだろう。念を押されたような気がする。
これって帰って来たら直ぐに二人と結婚しろって事か?
いやそうじゃないよな?
いくら何でも早すぎるよな。
甘夫人と劉華、劉春に見送られながら屋敷を去る時、二人は俺の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
江陵に戻ってきた俺に仕事は何も無かった。
婚礼を控えた俺に仕事を与えるのは控えられたのだろう。
しかし、婚礼準備は着々と進められた。
それと交州で得た品々から孫呉に幾つか持っていく事にした。
孫権への貢物では無く、嫁になる人への贈り物だ。
孫権にやる物は何もない。
だって、あいつの機嫌を伺うより、嫁に成ってくれる人に媚びたほうがいいに決まっている。
なるべく向こうが驚くような物を持って行こうと思う。
果たして気に入ってくれるだろうか?
この時の俺は婚礼を前にして浮かれていた。
史実での孔明の言葉が頭の中からすっぽりと消えてしまうほど浮かれていたのだ。
そして俺は思い知る。
孫権の妹がなぜ呉の列伝に名前が残っていないのかと言う事を…
『後書』
劉備の娘二人の名前は創作です。
女性の名前は今後創作か、京劇から引用します。
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