第34話 新人達の活躍


 拝見 お義父様



 長沙攻略は無事に終了しました。


 長沙の韓玄は軍師の指示に従い暫定ながら太守として長沙の政務を任せております。


 そして長沙守備軍の将に劉磐を任命して任せております。


 彼はお義父様もご存知の故劉表殿の一族であり我が縁戚にて信用出来ます。


 彼なら長沙の守りも安心して任せられるでしょう。


 そして軍師の指示に従いこれより桂陽に向かいます。


 長沙守備軍から一万三千を加えての行軍です。


 後、私の武術の師で長沙守備軍の長である黄漢升殿を副将に抜擢しました。


 それと何名か使える将を登用しましたのでお会いした時に紹介したいと思います。


 勝手な事をとお思いでしょうが、軍師の進言を入れての事です。


 私の一存では有りません。


 お義父様とは桂陽を攻略した後にお会いできると思います。


 では、再会出来る日を楽しみにしております。



 追伸 再会した師匠は怖かったです。(現代語訳)




 長沙で軍勢を整えた俺達は一路桂陽を目指した。



 実家に帰る暇さえなく慌ただしい出発だった。


 と言うのは建前で、単に両親に会うのが怖かったからだ。


 両親には使いを出して『自分はまだ任務の途中であり、今両親に会うなどと言う甘えは許されません。任務を終え、お義父の許可を得てから再会したいと思います。どうか、ご理解のほどお願いいたします』と説明した。


 両親はその説明をすんなりと受け入れてくれたが、お目付け役として師匠黄忠を俺に張り付けた。


 これでは近い将来両親と会わなくてはならない。


 養子に成ったとは言え、実の両親に対する孝行はしておくべき事だ。


 これはその時まで色々と覚悟を決めて置こう。



 両親の件は先送りして軍は桂陽に向かう。



 桂陽の太守は『趙範ちょうはん



 演義では趙雲に敗れて降伏した後に兄嫁を趙雲に引き合わせて彼を怒らせている。


 要は趙雲の引き立て役になったわけだ。


 史実では劉備に降伏した後に桂陽太守に任命された趙雲が来た後に姿を眩ませていた。



 まあ雑魚だな。雑魚。



 こっちは副将に陳到、黄忠。軍師に徐庶。


 それに一般兵から武将に抜擢した魏延が居る。


 そうそう魏延は黄忠に預けた。


 武将に抜擢された魏延だが武術はともかく兵法や礼儀作法やらはからっきし。


 これでは使えないと鬼軍曹黄忠に任せたのだ。


 黄忠は久々に鍛えがいの有る新人に喜んでいる。


「わしに代わって若を守れる武人になるのだぞ! 魏延!」


「は、はい。師匠!」


 うむ、これで俺は馬鹿弟子呼ばわりされる事もなくなるだろう。


 いやいや違うよ!


 武術だけじゃなくてそれ以外も教えてやれよ!



「兵法に関しては私も教えますのでご安心を」


 おお、徐庶よ! よろしく頼むぞ!



 魏延は史実では五虎将に匹敵する武将なんだ。


 それに戦歴も半端ない。


 もっとも頼りになる武将と言っても過言ではない。


 演義では孔明に嫌われまくった不遇の将だが、俺が居る限りそんな事はさせないぞ!


 魏延のこれからの活躍に期待したい。



 そして魏延以外にも将は増えた。



 黄忠の紹介で二人の将が加わった。


馮習ふうしゅう 休元きゅうげんと申します。以後よろしくお願い致しまする」


張南ちょうなん 文進ぶんしんです。劉封様の軍の末席にお加えください」


 最初に二人の名前を聞いて誰だと思ったがしばらくして思い出した。



 馮習、張南は夷陵の戦いに参加した武将だ。


 あの陸遜にボロクソに敗れたのだ。


 しかし劉備に認められて軍の責任者に任じられたのだ。


 決して無能ではない筈だ。それに相手が悪かった。


 あの陸遜が相手ではどうしようもなかっただろう。


 だが二人の実力は未知数だ。


 一体どれほどの将なのだろうか?




 桂陽までの道のりは長い。


 長沙から桂陽に行くには山道を通らなくてはならない。


 その為に行軍は予定よりも遅くなってしまった。


 既に桂陽では俺達が来る事は予測している筈。


 待ち構えているのか、それとも籠城するのか、はたまた降伏するのか?


 まあ、降伏するのが当たり前だなと思っていたがそうではなかった。



 趙範は無謀にも桂陽の外に陣を張って待ち構えていた。


 それを見て少し唖然としてしまった。


 見れば趙範の軍勢は二万ほどで、こっちは一万五千。


 数では相手が勝っているが将の質では圧倒的にこちらが上だろう。


 勝負になる筈がない。



「趙範は馬鹿なのか? なぜ援軍もないのに曹操に義理立てするんだ?」


「おそらくは一戦した後で降伏するつもりなのでしょう。一戦せずに降伏してはその後の扱いに差が出ると考えているのでしょう」


 はぁ、何でそんな面倒くさい事を。


 さっさと降伏してくれれば良いのに、無駄な時間を使わせてくれる。


「若。いえ、劉将軍。ここは我らにお任せあれ」


 黄忠とその後ろには抜擢された魏延と登用されたばかりの馮習、張南が居た。


「宜しいのではないでしょうか。ここは彼らに任せても?」


 う~ん。入ったばかりで手柄を欲しがるのは分かるが果たして任せても良いものかどうか?


「どうか我らに!」


 三人を代表して馮習が主張する。


 俺は三人の目を見て答えた。


「分かった。先鋒を三人に任せる。漢升は三人の後詰めだ。危なくなったら助けるように」


「「「はは」」」


 三人は喜色を浮かべてそれぞれの持ち場に向かった。


「三人共、劉将軍の期待に応えてくれましょう」


「そう願うよ」


 魏延と黄忠が居れば間違いないだろう。


 馮習と張南も並の将なら間違いも起きるまい。


 それに相手はあまりやる気がないみたいだしな。




「おし、行くぞ!」


「魏延隊に遅れるな!続けい!」


「魏延隊、馮習隊の突撃で敵は浮き足立つ。そこを狙って突っ込むぞ。我に続け!」


 中央の魏延と左翼馮習、右翼張南が桂陽趙範の軍に突っ込む。


 魏延達の三隊の数はそれぞれ二千。


 魏延と馮習が敵とぶつかると遅れて張南が突っ込む。


 最初から勢いが違うので趙範の軍は突き崩されて混乱している。


 そこに止めの一撃が刺される。


「この馬鹿者どもがー!道を開けいー!」


「「「おおー!」」」


 黄忠の雄叫びと共に三千の兵が突っ込む。


「これは……」


「殺りすぎましたかな?」


 黄忠の突撃は明らかに殺りすぎた。


 敵将は討ち取られ、趙範の軍勢は散り散り。


 黄忠は勢いそのままに桂陽城に向かい大音声で威嚇する。


「さっさと降伏せーい!降伏せねば直ぐにも攻め落とすぞい。この馬鹿者どもがー!」


 これを聞いた桂陽守備隊は直ぐ様城門を開け放った。


 そして縛り上げられた趙範が俺達に突き出された。



「い、命ばかりはお助けを!」


 清々しいまでの命乞いに思わず吹き出しそうになってしまった。


「元直。どうすべきかな?」


「城の者達は降伏勧告に素直に従いましたので不問にすべきです。趙範は将を抑えられず、また民を従えられませんでした。我らには不要です。ここは追放すべきでしょうな」


「斬らないのですか。軍師?」


「斬る価値も有りませんな。陳到殿」


 確かにこれではな。


 後々呉と争った時に彼に桂陽は任せられない。


 残しても役には立たないだろう。


「趙範は追放する。好きに生きるが良い」


「ははー。ありがとうございます」


 趙範は追放処分となって俺達は桂陽を得た。




 長沙、桂陽と得たが江陵を発って四ヶ月しか経っていない。


 これほど順調だとは思わなかった。


 それに馮習と張南は中々の連携を見せてくれた。


 これから先の活躍が期待出来る。


 黄忠、魏延に続き使える将を得たのは大きい。



 今回の遠征は大成功と言って良いだろう。



 後は劉備本隊と合流するだけだ。



 俺達はひとまず桂陽に止まり劉備に使者を送りその返事を待つ事にした。



 そして待つ事数日。



 ようやく劉備から返事の使者がやって来た。


「お久しぶりです。劉将軍。我が君は貴殿の働きに大層お喜びですぞ」


「ありがとうございます。伊籍いせき殿」


 返事の使者は伊籍だった。



 伊籍は元劉表の配下。


 しかし、劉備には好意的で劉備が夏口に居る時に真っ先に駆けつけたのだ。


 史実では孫権の使者に抜擢されたり、蜀科と言う法律を作ったりしている。


 文官として優れた人物だ。


「では、我が君よりの命を伝えまする。『臣孝徳よ。長沙、桂陽の平定見事である。その功は追って賞しよう。それにしばしの休養を与えたいところでは有るがある問題が出来た。この解決に当たって貰いたい』」


 うえ!? 問題って何だよ?


「『交州刺史呉巨より救援を求められた。直ぐにも向かい彼を助けて欲しい。なお軍の編成はそなたに任せるので好きにしてよい。私の期待にきっと応えてくれると信じている。頼むぞ孝徳!』以上です」


 こう、しゅう?



 最南端の土地に向かえだと~!?



 こんな事は史実にも演義にも無かった筈だー!

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