第31話

「この状況じゃ、向かえを呼ぶのに大変そうだもんな」

俺はのんきにいうと、葛道は答えた。

「もう迎えなら来てるわ」

「えっ?」

またご冗談をと言おうとした瞬間、岸近くの場所と周りの茂みから、武装をした兵士らしき人たちが現れた。

「どわっ!」

「驚き方が古いんだね」

葛道はそういい、空を見上げながら、スマホをポケットの中に、仕舞った。

「大佐も来ている」

葛道がそう言うと周りの兵士に集中していた俺は、葛道と同じように上を向いていたが大佐は意外なところから現れた。

自分たちの近くの水際に浮いていた鳥と水面がいきなり盛り上がり、人の姿になった。

「待たせた」

大佐は頭に水鳥の模型を載せながら、言った。「そ、そんな所に隠れていたんですか?」

俺は驚きすぎて変な声を上げてしまう。

「そうだ。『ニューノーマル』の一員なるもの、これくらいの変装をしないとな」

大佐は厳つい顔で淡淡という。

「は、はぁ」

俺は変な相づちをうってしまう。

「しかし、君らはかなり濡れたな」

大佐は、俺と葛道をみて言った。

「どちらかと言えば、大佐の方がびしょびしょですけど」

葛道が興味なさそうに言った。

「確かに私の方が、濡れているな。だが、この服は防水になっているから大丈夫だ」

大佐は平然と言うが、完全に防水とか関係なく迷彩服がすべて生地の裏側から、濡れている。

潜っていたんだからそりゃあそうだ。

「しかし、君らも風が引いてしまう。取りあえず、本部へきなさい」

大佐がそういうと、上空から風圧が強く拭いた。

其方に目をこらしてやると、何もないところから、ヘリが現れ、ローター音がし始めた。

口を開けながら、驚いている俺をよそ目に、葛道は言った。

「こんなところにいると風を引くよ」


 人間とは不思議な物で、初めての空間にはかなり、心理的ハードルがたかいこともあり、完全に手を出せないという事もある。

俺の今の状況がまさにそうだった。

俺は葛道の戦闘で後ろに居て、彼女がピンチになったから、助けようと思い、川に飛び込んだ。

そして濡れた服のまま、俺は葛道と「ニューノーマル」の支部であるこの場所に運ばれた。まさに初体験とはこのことだ。

俺はそのまま、支部に連れて行かれると、流れるがまま、葛道に着いていった。

厳密にいうと俺が居るところは俺にとってはかなり非現実的だ。

なぜかって?

怪しい組織の支部にいるから?

それもそうだろうが、今、居るところは葛道の部屋だった。

なんでお前、変な組織に連れて行かれたのに、そんなところにいるんだよと知り合いからは怒られそうだが、事情が事情だった。

俺は流れるまま、葛道についてくと、案内されたのは彼女の部屋だった。

彼女の部屋はどうやら、支部の建物のないにあり、そこで居住をしているようだった。

鉄のドアを開けるとそこには質素な女の子の部屋があった。

俺は何も言えずかなりドキドキしながら、どうしようとおもいながら、彼女の言うがまま、従った。

「取りあえず、先にお風呂入ったら。 私は後でも大丈夫だから」

普通こういうときは女性が先だからと言おうとしたら、葛道は何も言わずにバスタオルをふろ場のドア前に置き、別の部屋に消えていった。

戸惑う俺はお言葉に甘えて、取りあえず濡れた服を脱ぎ、シャワーを浴びることにした。

シャワーを出し、途中で、着替えがないことに気が付いた俺はドア越しに彼女に問いかけた。

「なぁ、俺、着替え持って無いんだけど」

「大丈夫。支部の制服があるから」

葛道はドアの向こう側からそう言った。

申し訳ない気持ちと、女の子の部屋に入って仕舞ったという事実に俺は、ドキドキしながら、身体を洗った。

心の変なところが反応しそうで必死に冷静になろうとした。

なんとかさっとシャワーをすませ、着替えを借りた俺は待っていた葛道に礼を言った。

「ありがとう、葛道」

「礼はいいからとりあえず座って待っていて」

葛道は淡淡というと、シャワー室へと消えていった。

俺は取りあえず質素な部屋に座ることにし、ジッとしようと心がけた。

気持ちは修行僧のような気持ちで、胡座を書き、可愛らしい、模様のクッションに座る。

俺は取りあえず、辺りを見まわして仕舞う。

やはりこういうときは気になってしまうものだ。

しかし、この支部という武骨な施設のなかに、一人の女の子が住んでいるとは不思議な話だ。俺は辺りを見まわす。

部屋はかなりシンプルでベッドに机、食事が出来そうな小さな机もあり、変な組織というよりか、本当に部屋だった。

こんなところに住んでいると思わないため、見えない所からフックをうたれたボクサーのように面を食らってしまった。

葛道が住んでいると言うことはあの美怜も住んでいるのだろうか?

俺はふと思考にはせようとした時だった。

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