第42話 不審
手元にある試験管の数を数えながら、エンダーンは最近、自分の手元に戻った弟カミュスヤーナのことを考えていた。
自分と血が繋がっているだけあって、精神的な攻撃に彼は強い。
血の繋がりがあると、持っている魔力の色が似通ってくる。魔力の色が似ると、魔人が使う魔術がかかりにくくなる。魔力量に差があれば、それにまかせてかけることは可能だが、2人の差はあまりない。双子だから、魔力量はほぼ同等であった。
状態異常の術が効かないので、その代わりに試せる薬はありとあらゆるものを使った。
彼は全て耐えた。その顔を青ざめさせ、強い青い瞳でエンダーンをにらみつける。
あぁ、なんて美しいのだろう。
一番嫌がるのは媚薬のようだ。
媚薬を与えた時には、普段とは様子が一変する。
目尻が赤くなり、青い瞳はゆらめき、エンダーンの指先や舌の動きに耐えるように口を引き結ぶ。その口を強引に開くのも楽しい。
カミュスヤーナが愛しく思っている少女の身体を持ったアメリアが見ていると、羞恥心から、強く抵抗をする。エンダーンはカミュスヤーナにあちこちかじられ、爪で引っかかれる。その行動がもたらす痛みに、エンダーンはとても高揚する。
しばらくは楽しい時を過ごしていたエンダーンだったが、このところカミュスヤーナの様子が変わってきた。今までより精神的な回復が早いように感じる。
以前は前日の痛みが残っているかのように、フラフラな状態でエンダーンの元に来ていた。だが、今では前日のことなど忘れたかのように振る舞う。
エンダーンとしては、カミュスヤーナが耐えれば耐えるほど、楽しい時間が伸びるので、それはそれで願ったことではある。
だが、精神の回復に使うのは魔力量だ。人個人が持つ魔力量が増えることはない。回復が早くなるということは、その分魔力を消費しているということ。一体、その魔力はどこから得てきているのだろうか。
アメリアの様子もおかしい。
時折、エンダーンとカミュスヤーナの行為から、目をそらすことがあるし、話しかけても、反応が以前よりも遅いように思う。
アメリアは、エンダーンとは別にカミュスヤーナと過ごすことがあるらしい。アメリアの行動は制限していないので、それは特段、問題とはしていない。
アメリアに問うと、カミュスヤーナはいつも寝てばかりで、まったく楽しくないと吐き捨てる。だが、その言葉は正しかったのだろうか。2人して、エンダーンを謀っている?
アメリアに、自動人形になる前の記憶がよみがえるはずはない。それに、自動人形は基本創造主の命令には背けない。だが、アメリアは創造の過程が特殊だった。エンダーンとしても、創造主の命令に背きかねない行為は見過ごせない。
刺激が単調になり、カミュスヤーナ側に慣れが生じているのだろうか。
できることなら、カミュスヤーナの中にいるはずのあの者を引きずり出して、餌にできればいいのだが、眠っていてやり取りができないという。
それはそれで娘の事を心配しそうなものなのだが、それもない。私には、彼の言い分を確認する術がないのが痛い。
それに、手をかけすぎて、カミュスヤーナが、原因がどうあれ、死んでしまうことはどうしても避けたい。人は死んでしまえばそれで終わりだ。
アメリアのように、自動人形にしたところで、本人の記憶が失われてしまう。自分好みに育てる楽しさは発生するかもしれないが、記憶を失うということは、本人でなくなるということに他ならない。
……回復が早いのなら、もっと強い刺激を与えてもよかろう。
エンダーンは手元に媚薬の試験管だけを持ち、カミュスヤーナとアメリアを呼び出した。
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