第39話 共闘2

「それで、今後どうするの?」

 考え込んでいるテラスティーネを見て、アメリアが問いかけた。

「ひとまず、カミュスヤーナ様の元に向かって、様子を確認したいわ」

「そうね。私が連れて行ってもいいけど、カミュスヤーナ様に会う前に見つかるわね」

 アメリアが顎に人差し指を当てて、視線を上に向けた。


「私が貴方の中に移ればいいかしら?」

「私の中に?」

「私は元々人形だから、他の人に魂を移すのは、手軽にできるのよ。私に造ってくれたこの身体は元々器でしかないから、しばらく魂がない状態で放っておいても問題ないわ。私はあちらの様子は把握しているし、うろうろしていても見咎められない。目と髪の色は私に合わせる必要はあるけどね」

「すると夢の中でしか意識合わせができないのでは?」

「そこはうまくやるわ。私が身体を動かしたりすることがあるのは了承してほしいけど、それも突然ではなく事前に声掛けするから」

「なら、大丈夫かしら」


 アメリアの話した内容を吟味する限り、今とれる手段としてはもっとも良い方法だとテラスティーネは感じ、その提案に乗ることにする。

 それを伝えると、アメリアは深く頷いた。

「問題は魂を移す方法なんだけど、貴方という魂があるところに移らなくてはならないから、掌を介する方法だと数日かかる」

「それは、時間がかかりすぎるわね。カミュスヤーナ様を助けるのは、一分でも早い方がいいもの。」

「……すると、深い口づけになってしまうけど」

「それはちょっと。。待って、これならどうかしら?」

 テラスティーネは自分の右の掌をアメリアに向かって差し出し、口の中で特定の文字列を唱えた。


「まぁ!」

 アメリアが瞳を見開く。私の掌には丸い水晶のような石が浮かび上がる。魔法士の証である証石だ。

「粘膜など体の内部に近いところを介して移す方が、早く済むのでしょう?これに口づけするのはどうかしら?」

 口同士をあわせるよりは、まだ気分的に楽だろう。

 アメリアはその石をしげしげと眺めた。たぶん見るのが初めてだったのだろう。


「なるほどね。じゃあ、始めていい?」

 アメリアがテラスティーネの右手を取り、自分の口元に引き寄せる。

「待って。私に移ったら、その身体は倒れちゃうのではないかしら?寝台で行った方がいいのではない?」

 テラスティーネの提案に、アメリアは椅子から立ち上がった。

「それもそうね。じゃあ、寝台に移りましょう」

 寝台に二人並んで腰かける。


「始めるわよ」

 アメリアが再度、テラスティーネの右手を取り、自分の口元に引き寄せる。

 掌に浮き出た証石をしげしげと見つめ、舌を伸ばしてペロリと舐めた。

 背筋を何かが駆け抜ける。

 アメリアがテラスティーネの様子を見て、小首をかしげる。

「どうしたの?」

「……なんでもないわ」

 アメリアは腑に落ちない様子だったが、考え直したように証石に唇を押し当てた。唇をわずかに開き、舌で証石を舐めさする。


 なぜか、アメリアに硝石を舐められる度に、身体が震える。じんわりと顔が熱くなってくるのを感じる。大きく息を吐いて、気持ちを静めようとするけど、うまくいかない。

 そういえば、夢の中でカミュスヤーナの証石を触らせてもらった時、彼の様子がおかしかったような気もする。今の自分と同じような状態にあったのだろうか?

 だとしたら、知らなかったとはいえ、彼には悪いことをした。

 結構長い時間、テラスティーネはカミュスヤーナの証石を撫でていた気がする。彼は気が気じゃなかっただろう。


 アメリアは、テラスティーネの様子を不思議そうに眺めていたが、しばらくして楽しげに笑った。

「もしかして、感じてる?」

「な、何のこと?」

「……ここ、性感帯なのかしら?」

 アメリアが証石に向かって、息を吹きかけた。テラスティーネの身体がそれに合わせて震える。

「寝台に寝て。そのうち身体に力が入らなくなるから。我慢しないで声を出してもいいわよ。ここには私たちしかいないもの」

 アメリアはそう言って、証石に強く舌を押し付けた。


 テラスティーネは自分の口を塞いで、できるだけ声を漏らさないよう気を付けた。今までにない感覚に意識をもっていかれそうになる。目の前がチカチカする。

「あまり時間をかけると辛そうだから、手早く済ませるわ。しばらく頑張ってね」

 アメリアはテラスティーネの様子を見つめながら、証石に舌を伸ばした。

 本番はカミュスヤーナ様にしてもらってね、と付け加えるのを、アメリアは忘れなかった。

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