第63話 毒蜜

この蝶々は毒蜜を好むと言われた。

毒蜜なんてどこにあったものだろう。

羅刹は番外地で、途方に暮れていた。


羅刹が番外地に来たのは、

蝶々がそっちに行きたいように動き回っていたから。

何かを求めるように、

虫篭の中で番外地を目指していた。


歌が聞こえる。

懐かしい歌が。


廃ビルから聞こえる懐かしい歌。


結婚式場だったらしい廃ビル。

羅刹はそのビルを見上げた。

歌は上から聞こえる。


ふと、手元でパタンパタンと音がするので、

虫篭を見ると、

蝶々が出たがっているように暴れていた。

羅刹は虫篭を開けてみた。

蝶々は羅刹の周りを少し飛んで、廃ビルを上へと飛んでいき、窓に吸い込まれていった。


しばらく羅刹はその窓を見ていたが、

戻ってこないだろうと思って視線を外した…

その時、何かたくさんの羽音らしいものがしたので、急いで視線を戻した。


大量の虹色の蝶々が、

窓から飛び立っていく。

虹色の織物を流すように。


羅刹は歌が途切れていることに気がついた。

蝶々は…増えた、のかもしれない。

廃ビルの上の階で何かがあった。

羅刹はそんな予感がした。


羅刹は無意識に廃ビルの扉を開き、

上へと駆け上がっていった。


廃ビルに染み付いた思いが、羅刹を通り過ぎていく。

祝福された花嫁。

笑顔の新郎新婦。

白いウエディングドレス。

階段を駆け上がっていくだけなのに、

歪んだ階段から思いが溢れてくる。


羅刹は最上階へやってきた。

そこは灰色の大広間。

大きなガラス管が壊れて、虹色がたくさん集まっている。

虹色の蝶々は、ガラス管から溢れた毒蜜をいただいているようだ。

摂取する度に、増えていくらしい。


中にいた人影が、男らしい輪郭を取り戻していた。


羅刹は気配に気がついた。

暗闇に目をやる。

黒いウェディングドレスの女性が、暗闇から現れた。


「あなたは…」

羅刹は知らず呟いた。

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