第25話 病気

あれからどのくらい時間が経っただろうか。

病気屋はふと考えた。

熊のようにもっさりした大男だが、感情は意外と繊細だ。


あれからどのくらい時間が経っただろうか。

病気屋が考えているのは、自分が病気と対峙するのを志してから。

あの少女が…現在の熱屋が。

病気で時を止めてから。

時間はどのくらい過ぎ去っていっただろう。


あの頃は二人何も知らなかった。

そのまま大人になっていけると信じていた。

時を止めた彼女…

自分は彼女に何もしてやれなかった。


自分は病気を扱う仕事に就いた。

彼女の時を戻せると信じて。

それでも彼女の時は止まったままだ。

原因がまだわからない。

それでもいつか…

この膨大な病気の中から…彼女の時を戻す術があると信じている。


不意に、ノック。

「どうぞ」

思考を現在に戻し、ドアに声をかける。

客だ。

「いらっしゃいませ。どのような病気がご入用ですか?それともサンプリングですか?」

客はどうしても仕事を休みたいので、程々の風邪が欲しいといった。

「程々の風邪…ええと、体格から想定しますと…このへんかな」

病気屋はシャーレを取り出す。

中には青と白で出来たカプセルがある。

「これを1カプセル。半日ほどで効果はあらわれます。あまりひどいようでしたら、三番街の薬師を訪ねてください。カルテ作って、処方箋書いときますね」

病気屋はこう付け加える。

「もし熱が出過ぎるようでしたら、ここの隣りの熱屋を訪ねてください。すぐに熱さましをしてくれます」


客がいない時は病気屋は病気の研究をしている。

電脳系や電網系にかかるウイルスではなく、

生体系にかかる病気だ。

いつか…

いつか…

今でも大切な彼女の時間を取り戻すため。


あれからどのくらい時間が経っただろうか。

病気屋はまた考えたが、

熱屋のどこか虚ろな笑顔を思い出し、作業に没頭していった。

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